(精読していないので、私自身が誤読があるかもだけど:)あの作品の魔族は、道徳的に邪悪な存在としては描かれていない。つまり、人類が彼等を攻撃し殺戮してよいという正当な根拠があるわけではない。ただ、同じく知的生命体である人類との間に、どうしても埋めようのない文化的なギャップがあって、その結果、殺し合う場面がたくさん出てくるし、共存もできなくなっているだけだ。
相手(魔族たち)が絶対的な悪ではなく、しかも彼等固有の文化や価値観や尊厳や誇りまで丁寧に描かれているにもかかわらず、彼等に対する殺戮行為はシンプルに正当なものと見做されている(※一族を殺された復讐心というのはあるにせよ)。双方が併存してしまっているのは、かなりショッキングだ。普通の作品ならば、魔族を大量殺戮していくような物語にする場合は、
1) 魔族たちを純粋な悪として描くか(※「神に呪われた邪悪な種族なのだ」といったように)、
2) 共存できなさを道徳的/社会的なジレンマとして取り上げるか(※矛盾を抱え込んだままの悲劇として描く)、
3) エンタメとしての爽快感に集中して、魔族側の精神性はカットするか、
といった形になると思うのだが、本作はそのいずれでもない。現代のエンタメ漫画作品としても、かなり異様な設定であると思うし、そこに危うさを感じる人がいるのも、まあ、分からないではない。なにしろ、基本的には、「相手がどんな文化を持っていても、共存できない相手は殺してしまえ、それで問題ない」というスタンスの描写なので(あるいは、そう見えてもおかしくないので)。
実のところ、この原作者さんは、「本作の魔族のように、人類とは違った特異な思考や価値観を持った存在のことが大好きなんだろうなあ」、そして「自分が好きなものを、自分の手で無慈悲にコロコロしまくるのも大好きなんだろうなあ」と、勝手に想像している。