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三浦しをん『墨のゆらめき』(新潮社,2023年5月/初出:Amazon Audible,2022年11月)

気のいいホテルマンである主人公は、招待状の宛名書きの依頼をきっかけにアクの強い書家の青年と知り合い、心情的に引き込まれていく。

書道に関しては門外漢であるこの主人公の感受性と言語化能力がおそろしく高くて、彼の目に映る書道作品の描写の深さ、鮮やかさが素晴らしい。

書家が頼まれた手紙の代筆で、文面を考案させられる序盤のシーンにおいて、すでに主人公の憑依力、表現力の高さは炸裂しており、その後の「書」に対する感銘の受け方にも納得。小学生の言葉を代弁した1通目の手紙では私、ちょっと涙腺が緩みましたし、2通目の見知らぬ女性になりきった別れ話の手紙では、リアルに噴いた。

健全な環境で素直に育った主人公にとっては想像を絶するような、複雑な過去を持つ書家の言動の一部は、ずっとあとになってようやく視点人物である主人公にも意味が分かる構成になっているので、最終ページまで行った直後から、どんどん逆にめくって読み返してしまいました。

このふたりが同じ場を共有できる人生の妙を思う。

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仲町鹿乃子『わたしと隣の和菓子さま』(富士見L文庫,2022年6月)

偶然見かけ、10年以上前にネットで読んでて好きだった小説と同じお話だと気付いて、懐かしさに押されて手に取りました。

母が入院していたあいだ何年も余裕のない生活を送っていた慶子さんは、ようやくゆとりができた高3直前の春休み、家の近所の和菓子屋さんに初めて足を踏み入れる。

季節の巡りとともに変遷する店頭のお菓子たちが、どんどん興味を引かれてのめり込んでいく慶子さん視点で描かれるので、とにかくきらめいている。連動して、遅まきながら「青春!」って感じになっていく慶子さんの高校生ライフ最後の1年。

昔のバージョンを細かく覚えてはいないのですが、なんとなく、特に後半に入ってから、だいぶ加筆されている気がします。でも、全体的にノスタルジックなやさしい雰囲気は変わらない。

それはスマホ普及前の時代の物語(たぶん)だからというだけでなく、おっとり奥手な箱入り娘の慶子さんと、同級生である和菓子屋の大人びた跡取り息子くんの、ゆっくり丁寧に進んでいく関係に、穏やかでクラシカルなストーリー運びを感じるからかも。

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夫は、バス・ペールエール(Bass Pale Ale:イギリスのビールです)のこと何度訂正しても「バスペスエール」って言うし、こないだラナケイン(小林製薬のかゆみ止めクリーム)のパッケージを見て「ラケナイン」って言ってたし、羽毛布団のこと時々「もうふ布団」って言うし、ポテトサラダのこと「ポテチ」って言うのに、サカバンバスピスは正しく言えるんですよ。謎。

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普通郵便なら本日発送のものの到着は来週になるかもと言われて、今週金曜が「山の日」であることに気付く。

2014年に制定された祝日なのに、2023年のいまになってもまだ慣れないのは、お盆休みとシームレスに続きがちで意識しづらいからかな。いや、私以外の人はみんなとっくに慣れているかもしれないけど。

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【読了】
盆ノ木至『アルマジロのジョン from 吸血鬼すぐ死ぬ』第3巻(秋田書店,2023年8月)

『吸血鬼すぐ死ぬ』のマスコットキャラであるジョンを中心にした一枚絵(ひとこまマンガ?)を集めたスピンオフ新刊。

私はゲーマーではないので「華麗なるゲームの丸」シリーズの内容がふわっとしか理解できなかったが、犰狳乱舞(技名)はかっこいい。アルマジロのこと日本語でも犰狳(キュウヨ)と言うのは初めて知りました(中国語の犰狳 qiúyú と同じ!)。
kotobank.jp/word/%E7%8A%B0%E7%

花器として華道部の活動に参加してくれるジョンはいいね……とてもいいね……。

あとコメント欄でクワバラさんが語るエピソードがなかなか繊細で意外。少年時代は長距離バスが苦手で熱を出したとかさ……忍者なのに!?

お出かけ写真コーナー、後半のはこれジョンじゃなくてシャンだねえ。本編23巻(第281死)で旅立ったあともお元気そうでよかった。

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犰狳(きゅうよ)とは? 意味や使い方 - コトバンク
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そういえば、私も最近の流行りものを食べたんですよって言いたくて、写真を撮ったのだった。昨日。

これまで知っていた唯一のビリヤニは、ビリヤニ自体にお肉とかしっかり入っていて、スターアニスやカルダモンや謎の葉っぱが丸のままごろごろ含まれているのをより分けつつ食べるもので、野菜が入ったしょっぱいヨーグルト(ライタ?)が必ず付属している、みたいな感じだったのです。

こういう、お米には特に大きな具材とか入っていないのをカレーと一緒に食べるタイプもあるんだね。カレーも美味しかったです。

ていうか、セブン-イレブンのを食してから「あれ?」と思い当たることがあって、地元のインドカレー屋さんをネットで検索してみたところ、そのお店でカレーと一緒に出しているご飯も「ビリヤニ」だって書いてあった……そうか。あれビリヤニか。

私のビリヤニに対する認識範囲があまりにも狭すぎて、「なんか知らんけどとにかくカレーに合う黄色いご飯」として食べてた。定義が分かっていなかった。申し訳ない。あれもビリヤニ。次はちゃんとビリヤニと分かって食べます。

人は最初に食べたビリヤニを親だと思ってしまうのだ(主語がでかい)。

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日比野コレコ『ビューティフルからビューティフルへ』(河出書房新社,2022年11月)

「ことばぁ」という老婆からの宿題として言葉を模索しつつ、それぞれの地獄と閉塞と諦念のなかで、もがき戦い生き抜いている、高校3年生3名によるモノローグ。

若さとパッションがもどかしく渦巻いて言葉の制約のなかから漏れ出しているようなフィーリングとリズムに満ちている、と思う。

どうも「出典」がありそうなフレーズや固有名詞が散見されるが、そのへんかなりキャッチしそこねているはずです、すみません。表現の正確な意図は把握できていなくても、なにかが突き刺さってくるような、叩きつけられてくるような感触はある。

そういった借景にも似たテクニックによる言葉の強さに引きずられてしまうことへの、あまりにも読み手として安易なのではないかという心理的ブレーキや、ときに露悪的でもある尖った語彙を投げつけられることに対する戸惑いはありつつ、他方ではそのパンチに素直に殴られておきたい気持ちもあり。読んでてずっと、葛藤に引き裂かれているような感じ。

そんなふうに心が揺れるということ自体に、きっと意味があるんだ。

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メモ:
【日比野コレコさん「ビューティフルからビューティフルへ」インタビュー ラップもブルーハーツも取り込んだ新世代小説】
book.asahi.com/article/1480028

 
なるほど守備範囲外! でも作者のかたご本人が、元ネタ分からずに読まれても大丈夫と言ってくださっているので、よいことにします!

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日比野コレコさん「ビューティフルからビューティフルへ」インタビュー ラップもブルーハーツも取り込んだ新世代小説|好書好日