#読書
三浦しをん『墨のゆらめき』(新潮社,2023年5月/初出:Amazon Audible,2022年11月)
気のいいホテルマンである主人公は、招待状の宛名書きの依頼をきっかけにアクの強い書家の青年と知り合い、心情的に引き込まれていく。
書道に関しては門外漢であるこの主人公の感受性と言語化能力がおそろしく高くて、彼の目に映る書道作品の描写の深さ、鮮やかさが素晴らしい。
書家が頼まれた手紙の代筆で、文面を考案させられる序盤のシーンにおいて、すでに主人公の憑依力、表現力の高さは炸裂しており、その後の「書」に対する感銘の受け方にも納得。小学生の言葉を代弁した1通目の手紙では私、ちょっと涙腺が緩みましたし、2通目の見知らぬ女性になりきった別れ話の手紙では、リアルに噴いた。
健全な環境で素直に育った主人公にとっては想像を絶するような、複雑な過去を持つ書家の言動の一部は、ずっとあとになってようやく視点人物である主人公にも意味が分かる構成になっているので、最終ページまで行った直後から、どんどん逆にめくって読み返してしまいました。
このふたりが同じ場を共有できる人生の妙を思う。