「建築家の知識は多くの学問と種々の教養によって具備され,この知識の判断によって他の技術によって造られた作品も全て吟味される.それは制作(fabrica)と理論(ratiocinatio)から成立つ.制作とは絶えず練磨して実技を考究することであり,それは造形の意図に適うあらゆる材料を用いて手によって達成される.一方,理論とは巧みに造られた作品を比例乗りによって証明し説明しうるもののことである.
それで,学問をかえり見ないで腕の方に習熟するよう努めた建築家は努力の割には権威を獲得するようになりえなかったし,また理論と学問だけに頼った人たちも本体ではなく幻影(umbra)を追及(ママ)していたように思われる.これに対して二つながら十分に習得した人は,あらゆる武器で装備された人のように,意図されているものを権威をもって獲得した」
(ウィトルーウィウス『建築書』1.1.1-2 森田訳)