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川森博司『ツレが「ひと」ではなかった 異類婚姻譚案内』(淡交社,2023年12月)

日本各地に伝わる「異類」との婚姻が含まれるさまざまな昔話を、相手が動物のもの、異界の住人(天人など)であるもの、異形(鬼など)であるもの、と3つのパターンに分け、時には海外の伝承や、近現代の創作物をも引き合いに出しながら解説している。

鶴のヨメ、猿のムコなどいろんな昔話があることをぼんやりとは認識していたけど、次々とこれだけ列挙されるとなかなか壮観。そして、やはりお隣の中国や韓国には、よく似た話があるんだなというのも、あらためて並べられると興味深い。またアイヌの民話が、むしろ中韓のものよりも、いわゆる和人とは違う文化圏のセンスを感じさせるのにも、なるほどなあ、と。

で、こういった、個人の意思で創作されたのではなく社会のなかで結果として残されてきた伝承は、現代的な価値観で表面的なディテールに基づいて好き嫌いを言うようなものではない、というのも、読む前から頭では分かっていたのです。

〔つづく〕

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〔つづき〕

でも結局、「女性側(人間でもそうでなくても)の負担のほうが大きい話、多すぎない!?」とか「都合のいい働きものの美女なら素性不明の押しかけ女房でも喜んで受け入れるくせに、約束したことを守れなかったりする人間男性、覚悟がなさすぎでは!?」とか、ついつい憤りが……。

異類婚が持続しない(異質なものの排除によって秩序が維持される)お話が日本では多いのにも、複雑な気持ちが湧きます。人と人でないものが幸せに添い遂げるお話も、ないではないのだけど。

そういった「もやもや」ポイントについてはしかし、本書でも明示的に俎上に載せられており、また最終章ではさらにさまざまな観点から、日本の異類婚姻譚についての総合的な分析と提言がおこなわれます。

雑なまとめになるけど、ここで示唆されているのは、われわれには異質なものへの対応やジェンダー観などにおいて、こういった文化的背景を擁してきた面があるんだと認識することで、現代に生きる者として意識的に、新たに違う局面へと踏み込んだ物語を創出し、現実世界でのスタンスにもフィードバックしていけるはず、ということではないかと。

〔了〕