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【読了】
よしながふみ『きのう何食べた?』第21巻(講談社,2023年5月)

この巻はなんだか、筧先生とケンちゃんが一緒に並んで台所に立つシーンが目についた。お料理する主体がケンちゃんで、筧先生がサポートに回ったりもする。これまでもそういうのはあったけど、前より自然にそういう展開になっている気がします。

こうやって、変わらず仲良しのふたりでも、長く一緒にいるうちに、ちょっとずつ関わり方が変化する面もあるんだよな。それがこの作品では、お料理を観測点として描かれているんだな。ケンちゃんレシピの卵サンドと2段重ねになったピザトースト、美味しそう。

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ク・ビョンモ『破果』(訳:小山内園子/岩波書店,2022年12月/原書:구병모《파과》改訂版2018年,初出2013年)

主人公の爪角(チョガク)はこの道45年の殺し屋、女性、65歳。自他双方に対して厳しいプロフェッショナルな姿勢でずっとやってきたのが、最近になって昔ならありえなかった判断ミスがあったり、情緒的な揺らぎがあったり……。自分に謎の執着を見せ突っかかってくる後輩の若い殺し屋のことも引っかかる。

そんな頭の片隅にじんわりと焦りが常駐するような日々のなか、ちょっとした綻びの累積が、弱みの露呈へとつながり、追い詰められていく。かつてのきびきび動いた身体の記憶を裏切るように、少しの無理でも肉体が悲鳴を上げる状態を押し切っての孤軍奮闘。もうね、このあたりの感覚の描写が、読んでて痛い痛い痛い。

それでも、たとえズタボロになって無様にあがこうとも、死の覚悟がありつつ最後まで決して生を諦めることもなく、孤高と矜持を保ち、若い頃よりも表出しやすくなってしまった自分の人間性を受け入れ、手放さない主人公の存在感が鮮烈。