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綿矢りさ「パッキパキ北京」(集英社『すばる』2023年6月号掲載)

コロナ禍による規制がゆるまってきたタイミングで、北京で働く夫のもとへ合流した妻視点。

慎重派で異国生活に適応できてない夫を尻目に、言葉もよく分からないままやってきたこの主人公はとても精神的にタフで、初っ端からがんがん北京生活を謳歌していく。入国直後の隔離の現場でも、春節に向かってにぎわいを取り戻していく北京の街でも、目に入るものすべてそのまま受け入れてストレートに面白がれてしまう。

細かいところに注目したリアルな描写には、作中と同時期に北京で暮らしていたらしい著者自身による観察が反映されているのに違いなく、着眼点のフレッシュさだけでも興味深い。

したたかに人生を乗りこなしていく主人公の潔さはしかし、刹那的であることと表裏一体でもあり、その綱渡り状態を危うく感じもする。ただ最終的にはやっぱり、そこまで一貫して自分の欲求に自覚的であるのなら、もうとことん行っちゃえ! と言いたくなるような、明るくも切実でいっそやけっぱちな痛快さが残る。