革靴が駅からのレンガ通りを軽快にはねた。タン、タン、タン、小気味良い足音に少女は満足する。タン、タン、タン、タン、タン。ハロウィンが過ぎると駅前通りは一転し、気の早いクリスマスの装飾をはじめていた。LEDを木々に巻き付ける作業員を横目に見ながら、タン、タン、タン、少女の眼は青空に向けられていた。十一月の澄みきった青空には雲一つない。北風が吹いて、ミニスカートの脚をすり抜けた。ロングマフラーに顔をうずめる。誰の手作りというものでもない。サイズの大きいカーディガンが手のひらをゆったり隠している。重ね着したセーラー服の上半身に比べ、ミニスカートとハイソックスが寒々しい。それでも少女は臆せず歩く。タン、タン、タン、タン。
黄葉したイチョウ並木では銀杏を踏まないように。少し厚底の革靴が枯葉をかきわけて歩く。歩き慣れた道だ。染めた明茶の髪がなびく。瞳は青空に似て明るい。生まれ持った色ではなく、カラーコンタクトレンズだった。純真清楚な学生服ではない。着崩したセーラー服の、ちょっとすれた女子高生、街にありふれた姿。枯葉が舞い散る。街路樹のなかを行く。タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン。
タン、不意に少女は足をとめた。楓に似た葉の樹の下だった。五角形の星の枯葉が一面にひろがっている。その中に、何か、違うものが見えた気がした。葉っぱの中に異質なものが……少女は足元を見渡した。すぐ目の前に、それはあった。
ヒトデ。
五角形の、星型のヒトデが、枯葉とともに落ちていた。大きな青い眼がきょとんと見開く。
──落ちてる?
しゃがみ込んでそれを見た。ヒトデは白く、骨のようだった。少女は、ヒトデが乾いて生きていないと察した。死んだヒトデが落ちていた。
──誰か、落としてったのかな……
辺りを見ても、もちろん、それらしい人はいない。少女は首をかしげる。ためらいながらもそのヒトデを手のひらにのせた。見た目の通り、ざらざらしていた。作り物ではなく本物らしい。少女は考える。微細なとげでおおわれたその星型を見つめる。この街に海はない。
やがて少女はヒトデを手に立ちあがった。持って帰るものか、なやんで少女は苦笑した。持って帰っても仕方がない、と、元いた場所にヒトデを返した。そして少女は歩き去った。革靴の足音を響かせながら。
その日、東京にヒトデが降った。
読み切り短編『星降る昼』
https://libsy.net/disstory/starryday
小説『 #これは物語ではない 』のスピンオフ短編。
ざっと色々な登場人物が出てきます。不条理をめぐるすてきな秋の話。