いわゆるスランプみたいなのではなく、帰宅後片付けとごはんと風呂と猫を済ませて、という一連の儀式のあとペンを握るとこまで辿り着けなくて猫で止まってしまうのがずっと続いて焦りだけが積もってしまう感じで結構辛かった
なんかもっとワーーーーッと感想が溢れ出るかと思ったんだけど、待った時間と期待があまりにも積み上がりすぎてたせいでアッアッ...アァァ...みたいなちっちゃい悲鳴しか出ない
なんか事前に予告見過ぎてたせいで「あのシーンここだったのか…」とか「ここがこれに繋がってたのか…」みたいな答え合わせしながら観るハメになってしまった
『フォーリング 50年間の想い出』、認知症などなくても十分に人間性に問題のある男が積み上げてきた50年分のやらかしと愛情を、息子と過ごした数日間のうちに駆け足で振り返りつつ殴り合いで関係を作り直す壮絶な映画でした ハートウォーミング? NO!! ハートフル(hurtful)だよ!!
認知症のせいで関係性が悪くなってるわけではない、というよりむしろ認知症になって生活が立ち行かなくなったおかげで周りとの関係性を作り直すきっかけを与えられたみたいなところあるぞウィリス・ピーターソン
ウィリスの口と性格が悪いの、認知症となーんも関係ありません もとからああいう人ですって見せ方めっちゃ上手いんよね でも周囲は「認知症のせいだから」って許そうとしてしまうの ダメですよ、人間性の問題だからそこは向き合わないと
ウィリス・ピーターソン、本当に口も悪いし素行も行儀も悪いんだけど、そこに愛情がないわけではない、愛はあるが表現がダメなので周りがモリモリ傷ついていく、というキャラクターの見せ方が多層に作り込まれてて説得力がすごいんですよ
たとえば、幼い息子と狩りに出て一緒に初めての獲物に歓喜して、ニコニコしながら帰宅して妻と話をするんだけどブーツから大量の泥を床に落として身重の妻に掃除させてしまう、でも翌日の食卓の準備のときは気遣ってふつうに手伝ったりする、みたいな愛情と無神経のバランスが絶妙なんですよ
そういった無神経さと無意識に口を突いて出てしまう侮蔑とでじわじわヘイトを溜めてしまって、妻子ふくめた周りみんなが耐えられなくなって離れていく ウィリス本人はそれを「受け入れてもらえなかった」と捉えてしまい、泣くのでも悲しむのでもなく「怒り」として撒き散らし、余計に人が離れる
ウィリスのあの性格や言動は「あの時代の男」にわりとよくある類型でもあって時代と土地柄の影響もあるんだろうなとは推し量れるんだけど、それでも過去の妻2人がまともな再婚ができてるとこ見ると本人のパーソナリティそのものが相当アレなんだろうなと
そんな生きてる年月ぶん拗らせてきた父と、割と早くに別れて全く別のリベラルな価値観で生きている息子、一緒にいるのにぜんぜん交わらない平行世界にいるみたいに噛み合わないの しかも「父さんの挑発には乗らない」って決めてるんだけど、あれは優しさというよりは分断と拒絶なのよね
父は自分を守りたくて周りを罵倒し攻撃し、息子も自分を守るために分断して拒絶する ジョンは冷静に対処しているように見えるけど、あれウィリスをぜんぜん受け入れてないの それをウィリスも感づいてるからさらに煽ってくる 悪循環
ジョンの一見やさしくて冷静な対応、ウィリス側から見たら「賢そうなこと言って馬鹿にしてやがる」って捉えられてしまうのよね だから終盤でジョンの堪忍袋の緒が切れて殴り合ったあとはきれいに修復できる ここでやっとジョンがウィリスに本当の意味で向き合ったからこその解決
ともすれば「こんな田舎の保守的なクソ親父マジでダメだろ」ってなりかねないんだけど、「いや同じ地面に降りて向き合うのを避け続けてる息子もダメだろ」と保守とリベラルの両方きっちり殴る作りでよかった
ウィリス本当に言動がクソすぎて擁護のしようもないんだけど、孫娘はめちゃくちゃかわいがってるし、鹿をどうしても撃てなかった息子を「いいんだ」と受け止めてるし、馬にはどっさり飼い葉あげてコロコロに太らせてるし、愛情だけはある男なんだよな…
カリフォルニア海岸で海風に吹かれながらニコニコしてるウィリス、本当にかわいいんだよ ああいう無垢な笑顔もできて、愛情も人並みにある、でも周囲を傷つける言動と行動しかできない
大喧嘩の翌朝のやりとりがめちゃくちゃ好きでね ウィリスがクロスワードを解きながら「『過干渉』を5文字で」と訊いてジョンが答えたら「それだ(That works)」って返すの、直前のケンカでジョンから責められた「ありがとうともごめんともいえないくせに!」に対して「やっぱり言えない」と→
んでラストシーン、ああ…と切なくなってたところで最後の最後がアレで、どうしようもねえなこのクソ親父!!!って笑って終われてよかった 大好きな映画のひとつになりました
ひさしぶりに読んだらまあ隅から隅まで下品が詰まった見事な罵倒だよハートマン軍曹 ここまでリズミカルだと詩のようだ kubrick.blog.jp/archives/52245…
テルヲは大借金こさえたり娘売ろうとしたりと1発あたりがでかいホームラン王なんだけど、ウィリスは本当に日常的にこまごまあれこれコツコツ当ててくる最多打点王みたいなとこある
今よく話題にのぼる「悪しき男性性」ってあるでしょ、あれを煮しめたやつがウィリス・ピーターソンその人 対話を拒み、一方的で身勝手な愛情の与え方しかできず、受け入れられなければ不機嫌になって当たり散らし、品のなさ自慢で男同士理解し合おうとする、どっかでみたことあるやつ
ここまでむちゃくちゃウィリスの悪口言ってるけど、それでも憎みきれないのはなんでかというと、ウィリスの暴言暴挙の根っこにあるものが何なのかが作中できちんと描かれてるからなのよね 相手のバックグラウンドを知ることで赦しの可能性が芽生えてくる
ジョンがウィリスのバックグラウンドを知って赦せるようになったからといってウィリスが変わることは全くないのよね ジョンの気持ちが楽になるだけ でも自分が楽になるために許せない相手の後ろにあるものを知ろうってだけで十分なんじゃないかな
ほんとは明日もまたフォーリング観ようと予定してたんだけど、あまりにも重いクリティカルヒットをくらってしまったので1週あけることにしました また観たいけど今は無理って感覚はライトハウスの1回目観たあと以来だな