Thury, Eva M., 'Lucretius' Poem as a Simulacrum of the Rerum Natura', American Journal of Philology 108(1987): 270-294.
ルクレーティウス『事物の本性について』を,現実世界(rerum)の本性(natura)を表す模造(simulacrum)として捉える解釈を試みる.
その際に鍵になるのが,あらゆる感覚はそれ自体としては真であるというエピクーロス派の知覚理論である.
エピクーロスによれば幻を見ている人も存在する何かをしかし誤った仕方で見ているということになるのであり,対象に感覚の注意が向けられること(ἐπιβολὴ τῶν αἰσθητηρίων)によって明確な表象が獲得される.
同様にルクレーティウスの詩も,様々なイメージ(simlacrum)を謂わばヒントのように示しながらエピクーロスの教えという真理へ向かわせる道のようなはたらきをしていると考えられる.
論文の後半ではそうした手法の実例として愛の女神ウェヌスの描かれ方が取り上げられる.