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多崎礼『レーエンデ国物語 夜明け前』(講談社,2024年4月)

シリーズ第4作。蒸気機関が発明されていた前作からさらに時代が進んで、外洋航路の開拓により「新大陸」との交易が始まっている。

聖イジョルニ帝国の圧政下に置かれたレーエンデの民が、団結して抵抗する気概を持てないほど力を削がれてしまっている状況が長期にわたって続くなか、この巻では支配層側であるイジョルニ人の名家の血筋を持つ異母兄妹が、それぞれの立場からレーエンデ人の解放を最終目的として動きはじめる。

この巻で起こることのきっかけを作ったのは第3巻での成果であり、さらにそれは第2巻での戦いと布石に基づいており――と、第1巻の時代から数百年にわたって、連綿と歴史がつながっている、その流れがここに来てはっきりと見えてくることに感慨を覚える。

〔つづく〕

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〔つづき〕

ときたま差し挟まれる超常的要素を除けば、これまであまり異世界性を強く意識することなく、ちょっと特殊な条件があるヨーロッパ風の架空の国における歴史物というような受け止め方で読み進めてきた感がありましたが、ついに1巻からずっと謎に包まれていた、この世界設定の中心にいる「神の御子」がどういった存在なのかが具体的に明かされ、ファンタジー的な面でも盛り上がってきます。

主役である兄妹のうち、妹のほうが選んだ道は、犠牲になった個々人からすれば決して許されるはずのない非人道的なものであると同時に、俯瞰的に作中の歴史を見るならば、それがあったからこそ時代が動く、というところは否定できず、ただただつらい。

また、この巻で描写される、弾圧されつづけた結果、抵抗の声を上げるよりも現状に対応して生き延びようとすることで精一杯になってしまっているレーエンデ人の状況が、こういう読み方は野暮だよなと思いつつ、現実を想起させる部分が多々あると感じられてしんどい。

しかしサブタイトルのとおり、この巻でついに変革への兆しが見えて、次巻で完結だそうです。楽しみに待っています。

〔了〕