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フランシス・ハーディング『呪いを解く者』(訳:児玉敦子/東京創元社,2023年11月/原書:Frances Hardinge "Unraveller" Macmillan Children's Books, 2022年)

人間の居住地の外に〈原野〉と呼ばれる不可思議な沼の森があり、人知を超える力と独自のことわりを持つ種々の生き物が住んでいる世界。

憎しみにとらわれた人間は、ときに原野の住人によって、恨む相手に呪いをかける能力を付与される。その呪いを解く力を持つ少年と、かつて呪われていた少女が、大人たちの思惑に巻き込まれて不確かな状況に翻弄されつつ、そして自分たちにも跳ね返ってくる負の部分とも向き合いながら、見過ごせない事態をなんとかしようと頑張る冒険譚。

底が知れない沼の森のダークな奥深さに恐れを感じ、同時に惹きつけられる。隣接する異界に対応すべく人間側で案出されているシステムの作り込みも面白い。

消化できない思いが、身のうちに抱え込まれる「呪いの卵」として体感的にイメージできてしまい、胸に迫る。ただ、困難ではあってもその取扱いに道筋が提示されることで読後には希望が。

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ロジャー・パルバース『銀河鉄道の夜 宮沢賢治』(NHK「100分 de 名著」ブックス,電子版2012年7月、紙書籍2012年5月/底本:NHK 100分 de 名著:2011年12月放送「銀河鉄道の夜 宮沢賢治」テキスト〔一部加筆・修正〕)

米国生まれオーストラリア国籍で宮沢賢治作品などの日本文学に造詣が深く、英訳もしておられるかたを講師に招いて放送された、テレビ講座からの派生本。

賢治の故郷である東北地方に甚大な被害があった東日本大震災からまだあまり経っていない時期の番組だったこともあり、震災に絡めてのお話がたびたび出てきます。賢治は存命中に目の当たりにした現実の自然災害を作品に組み込んだことはなかったけれど、喪失の悲しみを乗り越えるためのよすがは、この講座で取り上げている『銀河鉄道の夜』のなかにも見ることができる、というような文脈で。

〔つづく〕

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〔つづき〕

宮沢賢治の場合、他者の幸福のために自身を犠牲にもするストイックな宗教者としての信念、またその精神をみんなにも伝えねばと考える啓蒙的な伝道者としての使命感が第一で、そのための作家活動であり、芸術家としての表現意欲は主ではなく従である、というような分析が興味深かったです。

ほかの作品も引き合いに出して「賢治の自然観」を解説した章は、その文章自体も壮大なイメージを喚起して美しい。

そしていろいろ語ってくださったあとで、さまざまな顔を持つ宮沢賢治という作家にはさまざまな解釈が可能であるとおっしゃってもいるところに、講師の懐の深さを感じました。

この先生が手掛けられた英語版の『銀河鉄道の夜』も、そのうち読んでみたいな(翻訳は何度もなさっていて、「読書案内」のページで紹介されている、たぶん本書刊行時点で最新の、娘さんが挿絵をつけたという電子書籍版は、残念ながら現在は入手不可のようなのですが)。

〔了〕