icon


宮沢賢治『銀河鉄道の夜』新字旧仮名版(青空文庫,2016年更新/底本:『新校本 宮澤賢治全集』第11巻,1996年1月/初出:1934年)
aozora.gr.jp/cards/000081/card

ますむらひろしさんの原画展に行ったあと、漫画版と並行して読んでいた。ずっと昔に読んだのとは違うバージョン。そもそもこれが未完の作品で、複数の原稿が遺されているっていうのも、展覧会に行くまで忘れてました。

改めて読んでも、ビジュアル的なイメージの喚起力がとても強いと感じる。でもよく考えると、具体的なところはどんどん分からなくなっていったりもする……。これを絵に落とし込んでいくますむらさんはやっぱりすごい。

〔つづく〕

Web site image
銀河鉄道の夜 (宮沢 賢治)
icon

〔つづき〕

そして記憶にあったよりずっと、家庭の事情により同級生のなかで浮いてしまっているジョバンニの視点から描写される、学校での人間関係が、なんかいやにリアル。ジョバンニを執拗にからかうザネリの、実際の視線の先は、クラスの人気者カムパネルラなのでは? いじめに加担こそしないけれど、積極的に止めに入ったりもしないカムパネルラは、矢面に立ちたくないだけでなく、ほかならぬ自分がそうすることで火に油を注ぐのを恐れてもいるんじゃないか。

ジョバンニのカムパネルラに対する感情が重い。思い出と無言の気遣いをよすがに、一緒に遊ぶことがなくなってからもずっと意識しているわけでしょう。現実では最後までカムパネルラのそばにいたザネリをも追い抜いて、銀河鉄道に乗り込み彼と合流できるほどの執着心。ふたりっきりでの銀河鉄道の旅の、いちじるしい多幸感。ほかの乗客が介入したときにうっすら湧いてくる独占欲。え、こんな生々しい話だったっけ。

それにしても、とりあえずザネリのその後の人生も、きっついよな……。え、こんな生々しい話だったっけ。

〔了〕

icon

ますむらひろし『銀河鉄道の夜 四次稿編』1~2巻(原作:宮沢賢治/有限会社風呂猫,2020年10月・2021年5月)

先日行った原画展の物販コーナーで購入。全4巻予定。

ますむらさんは1980年代に2回、原作の別バージョン(このお話は決定稿がないまま遺作となっている)をもとに漫画を描いているのだけれど、今回は「四次稿」一文一文の内容を丁寧に拾って考察を重ね、具体的な絵に落とし込んでいく丹念さがすごい。描き込みの緻密さ、要所要所の大ゴマの構図のダイナミックさも!

色塗りは妻の増村昭子さんが担当してるって初めて知ったんだけど、その色彩センスもシックなのに鮮やかさも感じられて印象的。モノクロのなかに一部分だけ効果的に色がついていたりと、凝った作りの贅沢な大判書籍。

最初は漫画でこんなに重くて大きい本、と思ったけど、これくらいの版型(B5)で堪能しないともったいないと思うに至りました。いや、でも、やっぱり展覧会で観た、さらにひとまわり大きい生原稿は本当に迫力があったよ……。

列車の座席を今回ロングシートにした根拠もあとがきでしっかり説明されていたりと、最後のページまで読み応えがある。