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石沢麻衣『かりそめの星巡り』(講談社,2024年11月)

ドイツ在住の作家による随筆集。同著者の小説作品と同じく、現実と幻想の記憶が重なり合うような視覚的印象が静かに喚起され、大切にゆっくり読み進めたくなる。

歴史のある街並みやそこでの季節感が端正に描写され、日々の生活の断片が主観的に綴られていくなか、対象に真摯に寄り沿いつつも、同時にどこか自分から離して置いているような冷静さと客観性も感じる。それはドイツで伴侶を得た定住者であっても、ルーツが異なる者としてのまなざしは不変だからか。

ロシアによるウクライナ侵攻が始まったときの文章で表現される街なかの空気感に比して、イスラエルによるガザ侵攻が始まったときの文章内の「見えない壁」という言葉ににじみ出るもどかしさも、著者がその場では異邦人であるからこそ、より強く実感されているのかもしれないと思った。

美術評論も収録されており、取り上げられている絵画はネットで画像を検索して確認しながら読んだ(便利な世の中になりました)。浅学ゆえ本書で初めてレメディオス・バロという画家を認識したが、すごく好みの作風。本書のおかげで知れて嬉しい。