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村井理子『実母と義母』(集英社,2023年10月)

離れて暮らしているあいだに末期の癌を患っていた実のお母さん。認知症の進行が著しく介護が必要な義理のお母さん。ふたりに対する思いを率直に語るエッセイ。それぞれまったく異なるタイプでもあり、共通する点もあり。母娘のあいだには好意もあり、軋轢もあり。納得しがたいこともあり、解けゆくわだかまりもあり。

著者とは同世代なので、私たちが子供だった頃の「主婦」および「母親」がとらわれていたであろう、いま自分があの立場だったら違う選択をするよな、というような価値観や制約は、自分の記憶を探ってみても実感が湧くなー。

って、どうしてもこんなふうになんとなくヒトゴトっぽい表現になってしまうのは、私自身のなかにもいろいろこういうテーマではうずまくものが実際には存在するんだけど、この著者のように詳細に振り返って言語化する能力や胆力がないからなんだよな、という自覚はあります。特に胆力。

〔つづく〕

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〔つづき〕

読みながら自分のこととも引き比べてしまい、実母・継母・義母の3人に関するさまざまな曖昧模糊としたイメージが脳裏をよぎりましたが、これに正面から向き合って言語化するのはすごく大変に感じる。

本当は誰しも、どんな家庭にも、おもてに出さないだけでバックグラウンドにはなんらかの引っかかりはあるんじゃないだろうか(とはいえ、村井さんはお若い頃から現在に至るまで、かなり特異的かつ過酷な経験をなさっているとは思う)。ある程度の濃度になってしまえば、なにもかもがするするスムーズに流れていく人間関係なんて、たぶんない。それをちゃんと技術的に「読ませる」かたちにまとめあげる力があるひとが、ひとにぎりなだけで。

村井さんは、仕事の一環としてアウトプットすることで、心の整理もつけていけているかたなんじゃないかという印象を抱きます。凡人にはその境地に至ることも、次々と襲いくる現実への対処に明け暮れるだけに終わらずにいることも難しい。なので、このような本で、ほかのかたがご自分の事情を公開して分析していくのを読ませてもらって、自分の心の整理のための糧にするのだ。ありがとうございます。

〔了〕

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TLに先日逝去された山田太一さんの話題が出ていたので思い返してみましたが、私は本当に国内ドラマや邦画に疎く、自分が観たなかであれは確実に山田太一さんの作品、と思い出せるのが2002年の単発ドラマ『香港明星迷』だけだった。

薬師丸ひろ子さん、室井滋さん、山本未來さんが、鄭伊健のイベントのために香港まで行くガチファンを演じていた。

当時は「推し活」という言葉はなく、「冬ソナ」から始まる第1次韓流ブームも来ておらず、大人の女性がアジアの海外芸能人にのめり込む現象は、あまり注目されていなかったんじゃないかな。あの時期にそこに目をつけたのは慧眼だったのでは。

ただ話の展開としては、イベントのためというのはある意味カモフラージュで、薬師丸さんにも室井さんにも別の秘密の渡航目的があったりしたので、当時「やっぱり中年女性が芸能人のためだけに海外までは行かんでしょって脚本家は思ってます?」ともんやりしたのも覚えている。

現実にはあのとき、このドラマのために伊健のミニライブが開催され観客として参加するエキストラを募集中という情報が流れると、日本からも100人近くのファンが香港に渡っていったはず。

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↓ 先月88歳でお亡くなりになった三木卓さんの、83歳の頃のインタビュー
ehonnavi.net/specialcontents/c

がまくんとかえるくんのシリーズを翻訳してくださったのが、三木さんでよかったなあとしみじみする記事。

 
“人間には意志力があるということを、この言葉を覚えておくと後で分かるよって。子どもの本を訳するときは、いつもそう考えています。訳が分からない言葉が出てきてもいいんだと、全部分かる必要はないけれど、頭のどこかに残っていて、後で「ああ、そうだったんだな!」となってほしいんですよ。”
 

そうそう、いちばん初めに読んだときは平仮名で「いしりょく」って書かれてもちょっと分かってなかったかもしれない。

写真は2021年に開催されたアーノルド・ローベル展で入場時にもらったおまけのクッキー。少し我慢して翌日になってから食べました。意志力!

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40年以上愛され続ける幼年童話の傑作「がまくんとかえるくん」シリーズ 三木卓さんインタビュー(1/3) | 絵本ナビ:レビュー・通販
「がまくんとかえるくん」イラストのクリアファイルおよび展覧会の図録と一緒に並べた、小さな白い紙袋。「いしりょく(傍点つき)」と書かれた緑色のテープで封印されており、中に入っているクッキー1枚がうっすらと透けて見える。
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「いしりょく」と書かれた封印テープもろとも白い紙袋の端が破かれており、入っていたクッキーはなくなっている。クッキーと一緒に封入されていた、がまくんが山盛りのクッキーを抱えているイラストのカードが一緒に置いてある。
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