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Mo Xiang Tong Xiu "Heaven Official's Blessing: Tian Guan Ci Fu" 第6巻(訳:Suika/Seven Seas Entertainment, 2023年5月/原書:墨香銅臭《天官賜福》第5巻〔平心出版,2022年1月〕/原文初出:墨香铜臭《天管赐福》北京晋江原创网络科技有限公司 晋江文学城,2017-2018年)

台湾(繁体字)版の原書5巻冒頭からp.288までに対応しています。

この巻の序盤、作中現在のパートで、かつての「少年」が花城であるという読者にはバレバレだった事実をついに謝憐も知ることとなり、ふたりの関係に変化が。一方、謝憐の宿敵ともいえるあの謎めいた鬼がふたたび現れ、単純な殺意や敵意に基づく攻撃ではない想定外の意図が判明――したところで、物語の舞台はもう一度800年前に。天界の掟を破って処罰された謝憐が、不死性は残ったものの神としての力は封じられ、滅んだ故国の国主と后だった両親を匿いながら日銭を稼いで人界をさまよっていた時代。

〔つづく〕

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〔つづき〕

第1巻で言われていたことから考えると、このあたりがいちばんつらいのでは、とは想像していましたが、果たして謝憐がとことんまで追い詰められていく。太子殿下そして神として崇められるばかりだった人生から、急転直下のどん底生活。やがて白無相の企みにより、人倫をも完全に放棄してしまいたくなるほどの苦痛と絶望がもたらされる。

ここの過去パート、主人公に対する筆致が本当に容赦なくて。神ではあったけれど、決して悟りが開けていたわけではなく、プライドだけは高いまま苦境に見舞われて視野が狭くなっていき、周囲の者の心を慮ることもできず棘のある言動をまき散らすさまが、冷徹に描写される。

いつかは具体的な記述があるだろうと思っていた従者たちとの決裂もしんどい。甘っちょろい考えの殿下に盲従できず現実的な選択で状況を打開しようとした慕情、理想を突き崩されて殿下と衝突した風信。このふたり、昔の主君に対する800年後の微妙な距離感や空回り感も相まってどんどん応援したくなってきた。最終巻ではお互いと殿下に対するわだかまりやぎこちなさがちょっとは解消されているといいのですが。

〔つづく〕

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〔つづき〕

あらためてこの著者の、それまで抑制できていた弱さや卑怯さや矛盾が、なんらかのトリガーで否応なしに露呈していく際のキャラクター描写が好きなんだなあ、と実感した巻。主役についても脇役についても。そんな言ってしまえば醜い部分に浸食されていく過程でさえもが、そのキャラクターへの総合的な愛情とともに綴られる。読んでて苦しいんだけど。

また、この巻で謝憐の2度目の飛昇と2度目の追放までもが語られ、初期の頃の個人的な想像とはだいぶ違う顛末だったが、そこまで読んできた経緯からすると納得。ここから読者がよく知る、穏やかで懐が深くてめちゃくちゃ運が悪い謝憐になっていくのか。

たとえ謝憐が地に堕とされ荒んでしまっても、そして自分自身が人間の生を終えて実体を失ってしまっても、謝憐の忠実な信徒でありつづけたあの存在の正体もまた、読者にはバレバレなんだけど、現在パートの謝憐本人はまだ気づいていないよねえ……。本当に、ラブストーリーであると同時に揺るがぬ一途な「信仰」の話でもあるんだな。

〔了〕