icon


アンディ・ウィアー『プロジェクト・ヘイル・メアリー〈上〉〈下〉』(訳:小野田和子/早川書房,2021年12月/原書:Andy Weir "Project Hail Mary" 2021年)

私の視界に入る範囲ではあまりにも読んだ人たちがこぞって面白い面白いと言っていたので、面白がれなかったらきっとすごい疎外感だぞ、どうしよう……みたいな気持ちでちょっぴり腰が引けていたのだけど、きっちり面白かったです! よかった!

とはいえ、綿密に考え抜かれているのに違いない科学考証的な部分は、正直なところふわっと雰囲気でしか受け止められていない。ただ、ここがしっかりしているので、軽妙な筆致の作品だけど、ストーリー自体にはSFとしての重厚さが出ているんだよなってことは分かる。

〔つづく〕

icon

〔つづき〕

雰囲気だけで読んでいても、次々と迫りくる謎とそれがもたらすトラブルへの解答と対応には「なるほど」って思えちゃう。書いてあることが理解できる人だけでなく、できない人も、ちゃんと「ふむふむ」って納得したような気にさせてしまう安定の巧さ。

たったひとり、記憶喪失状態で目覚めた主人公の、その後の状況推測および行動と、断片的かつ段階的に脳裡によみがえる過去の出来事とが並行して語られるので、ふたつの時系列に沿ってプロットが進む。で、進みながら、どちらも途中で「そう来たか!」って感じにぐいーんと曲がる。

単身でかなりひどいシチュエーションのなかに取り残された科学者による奮闘の物語であると同時に、胸躍る連帯の物語としても読める。どちらの要素も、熱い。

同じ著者のデビュー作『火星の人』でもそうだったけど、絶望的なことに直面してもやがてはパニックから一歩引いてユーモラスな思考とともに冷静さを取り戻せる、プロフェッショナルで前向きな主人公のメンタリティに救われる。

〔了〕