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乾石智子『神々の宴 オーリエラントの魔道師たち』(創元推理文庫,2023年1月)

シリーズ最新の短編集。権力志向を持たず、巷の人々のなかで堅実に庶民的に日々の生活を送り、それでもその身の内側に闇を抱え、きな臭い世間の動向に胸を騒がせ、必要に応じて力を行使する魔道師たち。

表題作の主人公だけは帝国による侵略戦争の旗印に駆り出された第四皇子という権力側のポジションにいる少年。しかし彼は神々の存在を感じ取る素質を有する繊細な子。英題としてつけられている "Peaceful, The Best" がまさにそう、というお話。

「ジャッカル」は、ほかの作品にも登場する本の魔道師ケルシュが視点人物。

表紙の日本語書名に併記された英題 "Only one drop of emerald"のほうに対応するもうひとつの表題作「ただ一滴の鮮緑」は、自らの生命を削って瀕死の他人を助けつづけてきた魔道師の物語。終盤の繁茂する森とめぐりめぐって還元されるいのちの表現が美しくて後を引く。