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墨香銅臭『天官賜福』第1巻(訳:鄭穎馨/フロンティアワークス,2022年7月)

〔底本:墨香銅臭《天官賜福 一》平心出版(台湾),2021年3月/原文初出:墨香铜臭《天管赐福》北京晋江原创网络科技有限公司 晋江文学城,2017-2018年〕

中国の大人気BL作家による、架空の古代中国を舞台にしたファンタジー。中国の規制に引っかからぬようBL要素を希薄化しているらしいアニメ版1期(2期は未公開)がとても面白かったので、原作にも手を出すことに。今月、和訳版の2巻が出たので、慌てて1巻を読んだ。

天界・人界・鬼界の3つの領域に分かれた世界で、「三界の笑い者」と後ろ指をさされる、ひとりの神さまの物語。もとは人間だった彼は、当時の身分で太子殿下とも呼ばれるが、その祖国はもはや存在しない。天界から2度までも追放され神としての力をほぼ失って人界で800年ほど細々と暮らしていた彼が、思いがけず3度目の飛昇を果たした(天に召喚された)ときから、それまで抑え込まれていたさまざまな事態が動き始める。

〔つづく〕

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〔つづき〕

この巻には、アニメ1期で語られたパートから少しだけ進んだところまでが入っています。ついつい比べてしまうけど、アニメはちょくちょく内容を端折ったり再構成したりしつつ、印象深いシーンはかなり原作描写に忠実に、直接ストーリーを左右しないような登場人物のちょっとしたしぐさまで再現したりしていたのだと分かって感心。それがまた、すごくときめくんですよ。作品への愛に満ちた映像化だったんだなー。

この1巻と次の2巻は、前に中国語版を乏しい語学力でふわっと眺めてすごくすごくおおまかな話の筋は押さえているので、改めて日本語でちゃんと理解して読んでいると、のちのち語られる過去の話に対するほのめかしなども、実は1巻からさりげなくあちこちに散りばめられていることに気付く。主人公の謝憐(シエリェン)は一見、素直でお人好しなほわわんとした神さまなんだけど、どう考えてもその境地に至るまでには壮絶な経験を山ほどしているのだ。

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Shanna Swendson "Spindled"(Amazon Services International, Inc.,2020年4月)

世界が出口の見えぬコロナ禍の幕開けにどんよりしていた2020年の春、ステイホーム中の楽しみにと著者がブログで無料公開してくださっていた、2007年執筆の作品。タイミングによっては更新を見逃すことがあったため、連載途中で自費出版されたまとめ読み用の電子書籍版を買ったのですが、買ったら安心しちゃってずっと中断してました。

中断してたあいだに去年、東京創元社から『偽のプリンセスと糸車の呪い』というタイトルで邦訳も出ました。これから読みたい日本語派の人はそっちを買うといいと思います!

〔つづく〕

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〔つづき〕

あと、中断していた理由はもうひとつあって。邦題ではまさにそこがフィーチャーされていますが、ダブル主人公である少女たちのうちの片方が、そうしなければ自分の命を取られかねないとはいえ、自分を高貴な出自の者であると偽りながら周囲の信頼をどんどん得て、自分のためにほかの人に命賭けさせていく展開なんですね。この、真っ当な倫理観を持つキャラクターが罪悪感に苛まれつつ善良な相手に嘘をつき続けなければならないというようなタイプの話が、私はもともとかなり苦手で。とてもとても心臓に悪くて。

とはいえこの子は、ほかにどうしようもないのだし、得られた信頼自体は、この子の実力の成果なのだ。そしてこの著者だから、絶対に、こんな機転が利いてバイタリティがある勇敢で素敵な女の子に、後味悪い結末をもたらしたりはしないはず。そう思って今月ようやく一念発起し、病院やお役所の手続きの待ち時間にこれしか読むものがないという状況に自分を追い込むことで見事読了したのでした(そこまで……)。いちばんしんどかったところを無事通過してみれば、あとはさくさく進んで面白かったです。

〔つづく〕

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〔つづき〕

同じ日に16歳の誕生日を迎えた親友同士の女の子ふたりの、おとぎ話がリアルになってる異世界での冒険。片方がうっかり眠り姫にならないようずっと匿われてきたプリンセスなんだけど、悪い魔女はそうじゃないほうの子を捕まえてしまい――。

間違われたほうのルーシーが、本当にがんばる。限られた手札を最大限有効に使って、助けに来てくれた正義の騎士をむしろ助ける勢いでがんばる。一方、本来の姫君ドーンはといえば、なにも知らされず純粋培養で育ってわけもわからずやってきた異世界で、善き魔女たちから出生時に与えられた歌唱力をほぼ唯一の武器として五里霧中状態を切り抜けていく。どちらの奮闘もいとおしい。

〔了〕

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ブログ更新:2023年2月に読んだものメモまとめ
days.mushi.pepper.jp/?eid=1262

■墨香銅臭『天官賜福』第1巻(訳:鄭穎馨/フロンティアワークス,2022年7月/底本:墨香銅臭《天官賜福 一》平心出版,2021年3月/原文初出:墨香铜臭《天管赐福》北京晋江原创网络科技有限公司 晋江文学城,2017-2018年)
■Shanna Swendson "Spindled"(Amazon Services International, Inc.,2020年4月)

●盆ノ木至『吸血鬼すぐ死ぬ』第24巻(秋田書店,2023年2月)
●盆ノ木至(原作)+ミステリーボニータ編集部(編)『「吸血鬼すぐ死ぬ」公式アンソロジー 新横浜で会いましょう』第2巻(秋田書店,2022年6月)

読んだものメモと言いつつ、中国ドラマ『三体』の話から始まる記事になりました(読んだものが少ないから)。

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