岸田奈美さんのエッセイに出てきたゆるスポーツ考案者の方の本。面白かった。
20～30代はゴリゴリのコピーライターをやっていて、それはそれで達成感はあったが、どこかでマス向けの広告・宣伝って誰に向けているんだろう、出てはすぐ消えのコンテンツってなんのために作っているんだろうとなり始めたと。

>広告をつくるとき、企画書にはこんなペルソナ（顧客像）が設定されます。
>多数派だと見込まれるターゲットを「想定」して、「彼ら」に刺さる「ような」CMをつくる──。もちろんペルソナが有効な局面もあるのでしょう。
>でも、それって「だれ」なんでしょうか……。本当に、そんな人いるんでしょうか。

そんな中で生まれたお子さんに視覚障害があることが発覚し、「父親がCMをつくったところで、視覚障害のある息子は見れないじゃん」となった。あたりから考え方ややる仕事をどんどん変えていったというような話。

かといって別に昔話でもなく、こう考えたのでこういう動き方をしてみた・こんなものを作ってみたという流れで書かれていたので読みやすく、かつフレームワークっぽいものも挙がっているのでちょっとしたハウツーにもなり飽きなかった。
自分向けの企画書（「自分○○がよりクリエイティブに働くための提案資料」作成者：自分）みたいなやつは、わりとまじめに良かった。「生まれ変わったときになくなっていてほしいものは？」金・銀・銅を挙げるとか、面白かった。

この方の金は「スポーツ」で、それくらい苦手意識があり、ただ、それを克服するのではなく社会の方をスライドしまおうということで「ゆるスポーツ」が生まれたらしい。
ゆるスポーツのルールを読むとよくできていて、ミスっても面白い・運動神経が良い人にバランスよく困難さがのっていくようになっているのがいい。
ちなみにハンぎょボールは、ファシリテートはしたけれど最終的には氷見市民が作ったものらしい。すごい。
https://yurusports.com/sports/gotouchi/hangyoball

手がけた事例もいろいろ載っていたが、ユナイテッドアローズの041（ALL FOR ONE）プロジェクトで、社員たちが「服屋の原点」だと思ってすごいやる気になったという話が良かった。
変な話、車椅子でこういう点で困っているがかっこいい服も着たい、のリクエストを聞いたがために、萎びていたクリエイター魂がギュンギュン回るみたいな。なんとなくわかるような気もする。若くて細くてなんでも着れる顧客像向けには、そこに困難さはあまりないだろうもんな。
https://store.united-arrows.co.jp/brand/ua/data/catalog/041/
創業メンバーの「ファストファッションは大量廃棄や、バングラデシュで起きた『ラナ・プラザの悲劇』のような、過酷な労働環境を生んだ。早いって、なにかいいことがあったのか？　あんまりないんじゃない？　イージーに選ばれるようなものをやっているかぎりは、イージーに消えてくしかないか」って言葉は重かった。

>日本の生活水準が上がってからは、生活面における深刻な課題というのは減っています。それでも企業としては、もっと彼らに製品を売りたいので、課題探しを続けます。
>「ターゲット」を「想定」して「調査」しながら「ニーズを探す」。
>ここには、大きな落とし穴があります。それは、ファンタジーからすべてが始まってしまっていること。「オールターゲット」って、いったいだれなんだろう？

これもペルソナの話もだけれど、むしろ「これからやろう」としている業界もあるが、一周先を行っている感じはあった。
すべてが悪いとはまったく思わないが、ソフトウェアも、LEANとかカナリアリリースとかA/Bテストとか「完全に良いもの」として書かれているきらいがある。結果、ウケが良さそうなものだけ開発を続けてそれ以外は捨てるとか、効率的ではあるけれど段々何がやりたかったのかわからなくはなりそうでもある。

「経済複雑性指標」というものが存在するらしい。日本が20年間ずっと1位らしい。知らなかった。
Wikipediaのグラフがわかりやすかったが、1つの品目（石油とか）に頼りすぎていると値が低く、いろんなものを作っては輸出していると高いらしい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E8%A4%87%E9%9B%91%E6%80%A7%E6%8C%87%E6%A8%99
資産の持ち方としては分散しておくことが大事だから、すごい良いのでは？と単純に思ってしまった。ただこのワードで検索すると出てくるコンサル様（悪意がある）に言わせると複雑さは資源ロス・コスト増になるらしいが。まあそれはそれで確かな一面でもあるが。
多様なのは、ものすごいニッチだが世界シェアあるような、町工場で作られている色んなもののおかげかな。
この間のSLIMも、ピンポイント着陸が主目的でそれ以外はオマケですみたいなのめちゃくちゃいいと思ったんだよな。なんでそこ？って所を異常に突き詰めている人たちはとてもいい。

ハンぎょボールのグラスかわいい
https://suzuri.jp/yurusports/6020773/water-glass/m/clear
#読書