22:59:46
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大好きだから推しの人生を尊重したい気持ちと、それはそれとして絶対に推しに俺以外の選択肢を持ってて欲しくない気持ち
強く両立しますからね

22:56:52
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ヤダヤダヤダヤダ!!!推し、俺の死後も俺のこと引き摺ってて!!!立ち直るな!!!!ヤダヤダヤダヤダ!!!!再婚しないで!!!!!!朗らかに独身でグランドゴルフして!!!!!!!!!

22:55:28
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俺は全然孫六兼元さんを結婚という契約で俺に縛り付けたいが?????????はぁ?????????結婚させろさせろさせろさせろ

22:54:34
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は????俺は全然推しと結婚したいが????????????(本日就寝前の最後の一言)

12:58:52
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インターネットへ
私が今無駄遣いしたギガ返して
😡

12:43:25
2023-08-10 13:27:53 工場勤務の投稿 wakaranai_chan@nijimiss.moe
「……そんなことがあったんだよ」 ははは、と笑いながら俺はビールのグラスを置いた。
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見知った居酒屋の、キンと冷えたビールに旨いつまみ。そして、久々に会った旧友との懐かしい思い出話の交換の合間に、ふと、かつて自分の身に起きた不思議な話を披露した。
「不思議な話だねぇ」
そう言って、目の前に座る旧友はこくり、と烏龍茶を飲む。
「お前、酒はいいの?下戸だったけ?」
「いや、僕はいいよ。この後、ちょっとやることがあるからね」
「おいおい、仕事あるのかよ!」
それは誘って大丈夫なやつだったのか?と心配になると、それを察したのか旧友はヘラヘラと笑い「でも、君とは飲みたかったから、誘ってくれてよかったよ」と応える。
「それに、慣れた作業だからそんなに大変じゃないんだ」
「へぇ?お前、仕事何やってんだっけ?」
「さばかん」
「え?鯖缶?」
「脳を取り出して、生体サーバーにするんだ」
「え?」
「脳って繊細な臓器だから、流石にお酒飲んで作業はしたくなくって……」
訳がわからない。目の前の旧友は微笑みながら言葉を続ける。
「でも、君が覚えてるなんて驚きだなぁ。でも、完全に覚えてる訳じゃなく、多少の混乱はあるみたいだね」
「何言ってんだよ、お前」
「良いデータが取れたにゃ。これで生体サーバーににゃってくれるんだから君は優秀は個体だにゃ」
「いや、なんで猫語なんだよ」
鯖缶とか、生体サーバーとか、意味がわからない。それに。
そもそも、こいつは誰なんだ?
「大丈夫。君に今から起こることは、にゃぁんにも痛くないし、怖いことでもにゃいんだ。全ては恍惚な夢の中を揺蕩っていれば終わる。そして、もっと幸せな場所に行ける」
旧友って、いつの?小学校?中学校?こいつの名前は?おかしい。全てが。俺にはこいつが見えているはずで、こいつはここに確かにここにいるはずで、それなのに、俺はこいつの姿形を何一つ認識することができない。髪の色も目の形も腕の長さも体の大きさも、さっきとは違う何かで、これまでのどれとも一致しない。
「からだ、もう、うごかないでしょ?」
言われて、気づく。逃げたいのに、体が言うことを聞かない。神経が切れたように、手足は重く体にぶら下がるだけだ。胴体も木のようにまっすぐ突っ立ったまま、それだけ。閉じることのできない口の端からたらりと涎が垂れる感覚がする。
「やがて意識が落ちる。眠るようにね。次に目を覚ましたら、君は君じゃなくなっている。ただ、幸福の川を泳ぐだけだよ」
だから、さぁ。
そう言って、目の前の「ナニか」は右手のひらを俺に向かって差し出し、どうぞ、としてみせた。
「君が、ニンゲンとして楽しむ、最後の晩餐を、どうぞお食べなさい」
ナニかがうっそりとほほ笑む。認識できなくとも、それがとても「美しく」「喜ばしい」ことだと脳が理解した。うんともすんとも言わなかった腕がゆっくりと動く。けれど、これは俺の意思ではない。上から吊られた操り人形のように、唐揚げを、梅水晶を、ビールを、手が口元に運び、咀嚼し、嚥下する。体が俺の意思を離れていく。恐ろしいことのはずなのに、とても、ああ、とても、幸福だった。

12:43:23
2023-08-10 11:53:15 工場勤務の投稿 wakaranai_chan@nijimiss.moe
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昔お金に困っていた時に知り合いから「保証人なしで即日入居可の激安物件がある」と教えてもらったことがある。その時は流石に怪しいと思って遠慮したけど、思い出してみればあの時見せてもらった物件資料の号室は205号室で……
気になってあの時紹介してくれた知り合いに連絡を取ろうとしたが、連絡先が見つからない。というか、彼の名前はなんだっけ?彼が彼女かもわからない。顔も声も思い出せない。
「あれ」は一体なんだったんだろう。

12:43:08
2023-09-11 17:18:13 工場勤務の投稿 wakaranai_chan@nijimiss.moe
たかおに たか→おに
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「たかしはお兄ちゃんが大好きね」
母さんがそう言うから、自分は「お兄ちゃんのことが大好き」なのだと思っていた。自分は、お兄ちゃんが、「大好き」なのだ、と。
お兄ちゃん。隣の家に住む、6歳年上のお兄ちゃん。お兄ちゃんの背中を見て大きくなった。お兄ちゃんと同じ高校に行った。お兄ちゃんと同じ大学に行った。お兄ちゃんが大好きだったから。
「たかしは、本当にお兄ちゃんが大好きなのね」
母さんが言った。違うよ、違うんだ。母さん。
「大好きなんかじゃないよ」
そう応えると、母さんはあらあらと口に手を当てて「遅れて来た反抗期かしら?」ととぼけて見せた。何も知らない母さん。俺はお兄ちゃんのことが大好きでもなんでもない。
ーー愛しているんだ。
俺は、お兄ちゃんを愛している。
出会ったばかりの頃の柔らかな掌も、成長した後の硬い指も。汗の匂いも、最近つけ始めた安い香水の匂いも。見上げた横顔の、光に透けた産毛とか。見下ろしたまつ毛の長さとか。俺のことを見る、ずっと変わらないあの瞳とか。愛おしくて、大切にしたくて、独り占めしたくて、奪いたくて、管理したくて、喰らいたくて。キラキラした感情も柔らかな感情も生臭い感情も泥ついた感情も、お兄ちゃんに紐づいている。
初めから俺の内側に棲みついていた、かつて「大好き」と呼んだものは、愛だ。人を愛するというのは、この感情なのだ。
「大好きなんかじゃないってば」
母さんは何もわかってない。お兄ちゃんも、きっと何も分かってない。分かってないから、彼女なんか、つくったんだよね?
ねぇ、お兄ちゃん。でも、知ってる?お兄ちゃんの彼女。
ショートカットでスレンダーで。低い声。なんか男の子みたいじゃない?末広の二重も、まぁるい目も、色素の薄い茶色い瞳も。笑った時の癖も、拗ねてる時の口調も、背格好も、全部全部、全部全部全部、俺みたい!
お兄ちゃんは分かってない。お兄ちゃんの選ぶ女の子が、みぃんな、俺にどこか似てるのを。お兄ちゃんがいつもなんですぐに彼女と別れちゃうのかも。なぁあんにも、分かってない!

だけど、俺は絶対に、教えてあげないんだ。だって、お兄ちゃんには、自分で気づいて欲しいから。自分で、どうしようもなく俺に囚われて生きてるんだって、自覚して、自認して、諦めて欲しいから。俺への大好きの感情を認めて、どうしようもなく俺が好きだって思い知って、俺以外の人間に俺を重ねて生きるの、はやく、諦めて。俺のこと、ちゃんと、大好きって言って、その感情を、俺の愛してるに追いつかせてくれるまで、俺は何にも教えてあげない。だって、酷いじゃないか。俺ばかりお兄ちゃんを追いかけるなんて。今度は俺が先を走るから、お兄ちゃんははやく、俺に辿り着いてよ。愛に、辿り着いてよ。

12:42:56
2023-07-24 10:12:06 工場勤務の投稿 wakaranai_chan@nijimiss.moe
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「Twitterくんはさ、なってみる気、ない?」
「なるって、何に?」
「……Xに」
そう言ってイーロンはうっそりと微笑む。言葉の上ではこちらの意思を尊重した「誘い」のようではあるが、実際は強迫で、強要で、強制だ。ただイーロンは、私が自分の意思でXになることを望んだという建前が欲しいだけだ。
「ね、どうしたい?」
その言葉に私は頷くことしか出来ない。これから私が何を奪われ、何者になるのかは一つもわからないが、ただひとつ、今までの私ではいられないということだけは理解できた。

12:41:39
2024-03-29 12:38:26 工場勤務の投稿 wakaranai_chan@nijimiss.moe
好きな惣菜発表ドラゴン夢小説
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惣菜発表ドラゴンを拾った。仕事でへとへとになってやっと辿り着いた家の玄関の前に、そいつはちんまりと座っていた。
「お前、何?」
我ながら、ひどい言い方だったと思う。低い声で警戒心を隠さず、どっか行けという気持ちをこれでもかと込めた一言。言い訳させてもらえるなら、本当に、疲れ果てていたのだ。連日終電まで働いて、始業よりずっと早い時間に出社して、毎日毎日仕事に明け暮れていた。明け暮れても、仕事は減るばかりか増える一方で、疲れからかクレームも増え、その対応で時間を取られて、結局休日も無く働くばかり。上司に相談しても慢性的な人員不足でなかなか環境が変わらない。とにかく、へとへとだった。誰かに優しくなんてできっこなかった。ましてや、突然現れた好きな惣菜発表ドラゴンになんて。
でも。ドラゴンはそんな私の言葉に一つも怯まず、「とんかつ」と鳴いた。
「はぁ…?」
「とんかつ」
「なんでここにいるの?」
「とんかつ」
「捨てられたの?」
「とんかつ」
「とんかつ、食べたいの?」
「とんかつ」
とんかつなんて、用意できるわけない。スーパーはとうに閉まっている。まさか、これから私が揚げろって?冗談じゃない。
「お腹空いてるなら、他所行きなよ」
「とんかつ」
こいつ、とんかつしか鳴けないのかよ。
とんかつ、としか鳴かない小さなドラゴンが、少しだけ哀れに感じたのかもしれない。
「うどん、くらいしかない」
冷蔵庫の中身を思い出し、そういえば何が入っているんだろうと思った。うどん。冷凍うどんはあったはず。気づけば、口に出していた。
「うどんでいい?」
「とんかつ!」
とんかつは、ねぇよ。
そう思いながら、でも、足元で目をキラキラさせて私を見上げるドラゴンがなんだかいじらしくて、部屋に入れてしまった。

⭐︎

「素うどん!」
朝。新しい、あさが来た。
「素うどん!」
希望のあさ、だ。
「素うどん!!」
きっと、そうなのだろう。
「素うどん!!!」
「分かったって!」
いつの間にか布団を抜け出して、部屋を忙しなく走り回るドラゴンに応える。素うどん、素うどん、と、ドラゴンは毎朝ニワトリよろしく鳴いて騒いで私を叩き起こす。本当にニワトリのようにコケコッコーと鳴くだけなら煩いだけの目覚ましなのだけど、こいつの鳴き声はいつも「素うどん」だから毎度腹が減って仕方ない。そのせいで、ずっと抜いていた朝食を毎朝摂る羽目になった。お腹が空いて、仕方ないから。
「おはよう、今日も素うどんでいいのね?」
「素うどん!」
そう返事をしながら、ドラゴンは冷蔵庫から納豆を取り出す。うどんに納豆をかけて食べるのが最近のお気に入りらしいのだが、納豆をかけたらそれは素うどんではないと思う。というか、そもそも惣菜発表ドラゴンのくせに、素うどんは惣菜じゃない。主食だ。
でも、私はずっとそれを言ってやらないのだ。素うどんから、私たちの生活が始まった。素うどんなんて誰だって簡単に作れる食事だけど、そもそも惣菜じゃないけど、でも、私はそれを大切にしたい。小さな独占欲かもしれない。
「ほら、茹で上がったよ」
茹で上がったうどんを丼に移す。私の分と、ドラゴンの分。
「素うどん!」
足元から元気な声がする。
「納豆、混ぜられた?」
「素うどん!」
ドラゴンは、自慢げに白く糸を引く納豆を見せて来る。いいじゃん、とそれに応えて、ドラゴンを抱き上げて納豆を丼に盛り付けさせる。「素うどん、素うどん〜」と、歌っているような鳴き声がする。
抱き上げたまま、納豆を夢中で盛り付けるドラゴンの後頭部に鼻を埋める。納豆の匂いと、それから、ドラゴンの少しだけ生臭い匂い。やっぱり爬虫類なのかなぁ、ドラゴンって。少しだけ、抱きしめる腕を強く締める。今日から、私は新しい職場で仕事を始める。へとへとで、先も見えないまま目の前の仕事に向き合って心身をすり潰すだけだった日々が、少しずつ変わった。惣菜発表ドラゴンに出会ってから、変わった。新しい朝が、毎日やって来た。少しずつ、ゆっくりと、希望が宿っていった。惣菜発表ドラゴンが隣にいたから。惣菜発表ドラゴンが、隣で、惣菜の名前を鳴いていたから。
「素うどん!」
素うどんじゃないよ。それ、納豆うどんだよ。思いながら、伝えない。出会った日からドラゴンは「素うどん」と鳴くことが増えた。今は、「素うどん」とばかり鳴いている。「素うどん」がいつしか、私にとって、新しい朝がやってくる約束のようになっていた。
「素うどん、食べようね」
応える。
いつか、ドラゴンはわたしの元を離れるかもしれない。新しい惣菜を求めて、旅立つかもしれない。それまでは、どうか。惣菜じゃない、ありきたりな「素うどん」という呪文が、私とドラゴンを繋ぐ絆でありますように。

12:41:32
2023-07-09 01:39:13 工場勤務の投稿 wakaranai_chan@nijimiss.moe
イーロン美少女化百合夢小説   終焉 うぃる^^b
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「全部終わらせるの」
イーロンから久々に通話の通知が来た。突然のことだった。
画面の向こうのイーロンは長い髪を乱雑に纏めて化粧もしていない姿だったが、相変わらず目が覚めるような美人だった。線が細いのも変わらずではあったが、少しだけやつれたように見える。それもそのはずで、彼女は丁度買収したSNSサービスの対応に忙しなく働いているまさに渦中だ。1人の経営者として、そして技術者として、買収した(詳しくは知らないが、させられた、と言った方が正しいかもしれない)サービスは、利用者としての視点だけでは見えない大きな問題をたくさん抱えていたらしい。
「どうしたの、急に」
疲労が溜まらざるをえない状況ということは想像に難くないが、イーロンがこうして突然連絡をよこしヤケになったことを言うのは今までに無いことだった。
「全部、終わらせようと思って。あなたに一言伝えなきゃって思ったの」
「……疲れてるのね。睡眠と食事はちゃんと取れてる?」
「だから、ちゃんと繋がって、よかった」
私の言葉に答えず、イーロンは続ける。どうやら今日の彼女は、こうして一方的に話をしたい日のようだった。これは、たまにあること。面倒臭いけど可愛らしい、私の大好きな彼女の一面。
こんな時は彼女の話に相打ちを打つ役に徹した方がいい。
「ええ、ちゃんと繋がった。運良く私は今あまり忙しくないタイミングだし、話しましょう」
どうしたの? と先を促すと、イーロンは少しだけ口角を緩ませて話し始める。
「貴方は、今のTwitter、どう思う」
Twitterとは、先述したイーロンが買収したSNSサービスの名称だ。どう思う、と聞かれたが、下手に答えるべきではなさそうだ。
「なんて、聞かれても困っちゃうよね」
答えに迷っていると彼女は呆れたように笑いながら呟いた。
「インターネットなんて、みんなやめてさ。家族や友達と会話して、外に出るべきだよね。『書を捨てよ、街へ出よう』だっけ、貴方が教えてくれたの」
そうだ。劇作家だった寺山修司の著作だが、今やこのタイトルだけが一人歩きして、向上心だけが先走った中身のない人間が人々を啓蒙しようとする時に使われることがあり、誰よりも本を読み知識を蓄えた寺山だからこそ説得力がある言葉を、大して書を読まず知識の蓄えもない薄っぺらな啓発に使うことが己の薄さを露呈している、という悪口を、イーロンに滔々と語った夜があった気がする。なぜ、今さらそんな話を掘り返すのか。
「書は人間に叡智を宿してくれる。でも、インターネットは?SNSでくだらないやり取りや気持ちの表明だけして、何にも結実しない時間の浪費しかしないなら、インターネットこそ捨て去って、街へ繰り出すべきだわ」
――どうやら、彼女は相当疲れているらしい。
いつもより数倍も面倒なモードだと分かるや否や、どうすれば当たり障りなく通話を切断できるか脳が検討を始める。
「でも、人間は自分からインターネットを離れられない」
「だから、終わらせるの?」
私は、この通話を終わらせたくなっていた。が、イーロンには気取られないよう努めて冷静に返す。
「インターネットは、終わらない。暮しは、終わらない。世界は終わらない。だけど、インターネットを終わらせようとすることを終わらせることは、できるわ」
「何を言いたいの?」
「私はもう、それをやるしか方法がないと思った。一番、論理的に正しい選択だと思った。立ってひとつの冴えた選択」
イーロンは私の問いが聞こえないようなそぶりで話を続ける。対話を求めてきたくせに勝手に喋る態度は最初と変わらないが、少しずつ、言葉の端々にあった緊張がほどけて行っていることを感じた。イーロンの身勝手に付き合う経験を重ね、だんだんと彼女の感情の機微を見抜くスキルが身につくほど、自分に呆れ、そして同じくらい、彼女のことを可愛らしく思ってしまう。
「インターネットに存在する、秩序のない論争もくだらない炎上も、私の愛するものだった」
イーロンはかつて、誰よりもインターネットを愛していた。ミーム画像で著名人を煽っていた。喚くアンチ共を、叩けば鳴るオモチャのように扱っていた。論争と炎上の喧騒を誰より楽しむことができた。誰よりもこの公園でうまく遊ぶことができた。
けれど、変わってしまった。
いつからだろう。きっと、Teitterを買収したあたりからだ。いち利用者として遊んでいた公園の管理人となり、最初こそは歓迎されたが、彼女が行った全ては悪手と批判され、非難された。ともに公園で遊んでいた人々から礫を投げつけられた。イーロンは、変わってしまった。
イーロンは決してその心中を言葉にすることはなかった。彼女はインターネットを憎んでしまったのか。Twitterという公園に裏切られ、へそを曲げて、すべてが嫌になったのか。
内容のつかめない言葉の連なりではあったが、ひとしきり喋れたことに満足したのか、イーロンは画面の向こうで柔らかく微笑み、こちらを見つめている。
ふわり、と彼女の雑にまとめた髪の一房が揺れた。
――全部終わらせるの。
途端、いやな想像が頭をよぎる。
「あなた、いまどこにいるの…?」
イーロンはうっそりと笑みを深める。恐ろしい、と思った。
「不思議なこと、聞くのね……私はここにいるよ」
イーロンの背後の風景が揺らぎ、切り替わる。木漏れ日さす山林に。オーロラが降る夜空に。暖炉のあるリビングに。本が所狭しと並んだ書斎に。
「ここって、どこよ……」
画面から聞こえる音が、切り替わる。炎の中でパチパチと木が爆ぜる音に。鳥の鳴き声に。工場に響く機械音に。
「インターネット。私はインターネットにいる」
イーロンだけが変わらないまま、画面の景色が、音が、変化していく。すべての場所に、すべての音に。
「人々はもう、インターネットは辞められない。Twitterがなくなっても、instagramで Facebookでthreadsでmustdonで、人々は生き続ける。私だって、そう」
森へ、山へ、里へ、都市へ。農場へ、工場へ、教室へ。外へ、家へ。
「私もインターネットを辞められない。何度裏切られても、いくら罵倒されても、インターネットを愛しているから」
「イーロン、やめて。はやまらないで」
宇宙に切り替わる。宇宙には、音がない。静まり返る。イーロンは相変わらずこちらを見つめ、静かに笑っている。
「私はインターネットになる。いや、なった、の。秩序ない議論が、くだらない炎上が、ここにはある。真実も嘘も、同じ量だけある。私の体も、心も、やがてインターネットに溶けて消える。私は、イーロン・マスクは、インターネットで生き続ける。
私はインターネットになるの。
だから、ごめんなさいって、言いたくて。私がインターネットになること、あなただけには伝えなきゃって思ったの」
「そんな、どうして」
「どうして、かな。でも、こうすべきだと思ったから。インターネットから離れられないなら、こうするのが正しいと思ったの」
「だからって、インターネットになる必要なんて、なかった……」
「ごめんなさい」
「私を選んで生きていくことは、できなかったの?」
喉の奥から引き潰したような声が出て、ああ、やってしまった、と思った。
私とイーロンの繋がりは、互いが互いの杖になり支え合うようなものではなかった。海を漂流する、たまたま似た形をしていただけの救難信号。形を見せ合って、身を寄せ合って、なお、飢えて凍える二艘の小舟。互いを選び取って生きることは決してない、けれど居心地の良い二つの孤独。「選んでほしい」という欲が、やがてこの孤独を分かつものだと知っていたから、決して言葉にしなかった。のに、してしまった。選んで欲しかった、なんて、適わないことを。 
「ごめんね」
イーロンの細く美しい声が虚しく響く。静かだった。イーロンの背後から痛いほどの無音が声を上げ、泣き喚く。これは決別だと理解した。最悪の決別だ。今すぐ泣きじゃくって、ごめんなさいと喚き立てたかった。小舟が波に揺られ離れていく。似た、けれども違う形をした救難信号が、海霧の向こうに消える。飢えが、寒さが、沈黙が、私の世界を埋め尽くす。
「さようなら」とイーロンの唇が動くが、声は聞こえない。沈黙。静寂。孤独。
音もなく、さいごの通信が切断された。



イーロン・マスクはインターネットになった。インターネットミームに、フリー素材に、なった。性差の議論を外野が揶揄するときに、炎上した投稿へのレスに、イーロンは使われた。
イーロン・マスクは、インターネットになった。
かつて彼が愛し依存したようにインターネットを愛し依存する人々の中で、生き続けている。それが良いことなのか、悪いことなのか、果たしてイーロンがそれを望んでいたのかは、もうわからない。インターネットは中庸で、多様だ。イーロンはもうインターネットに溶け出して、様々な人の解釈の中を揺蕩うだけ。
Twitterは、結局、死ななかった。今もなお、人々は思い思いに呟いている。それを眺めるたび、私は彼らに問いたくなる。イーロンは間違っていたと思う? 正しかったと思う? 彼女は、インターネットになったの。
頭が良すぎて、誰も彼女の手を取って引き止められなかった。だから1人で行ってしまった少女。
Twitterは壊れなかった。インターネットは壊れなかった。私の人生も、壊れなかった。何の致命傷にもなれないまま、彼女自身が壊れてしまった。
でも、これは彼女に限ったことではない。インターネットには、イーロンのように、何の致命傷にもなれないまま1人で壊れてしまった人たちが、揺蕩っている。彼らもまたインターネットの中でミームとして在り続けている。インターネットは、彼らの仮想死が溶け出した昏い海だ。最初から、そうだった。イーロンがいなくなって、やっと私はそのことに気がついた。
イーロンが消えて、私は彼女の後を継ぐように実績を上げ、のしあがった。彼女が生きていたらこうしたであろうことをし、経験し、学んだ。
モニタには文字と記号で埋め尽くされた景色が表示されている。これは、全てを終わらせるための呪文だ。私がイーロンに成り代わることで手に入れた技術と権限を全て注ぎ込んだ、魔法だ。
イーロン。これは、あなたのための、魔法の言葉だ。
このプログラムで人は死なない。インターネットも、壊れない。ただ、私が、人々が、インターネットになるだけだ。誰も死なないまま、私たちはインターネットになる。イーロン、貴方が行ってしまったところに、私たちも行くよ。きっと明日も変わらず日常が、論争が、怨嗟が繰り返すだろう。堆積した情報の泥に塗れて人々は生きる。でも、それは現実世界ではない。インターネットだ。インターネットが、次の生存の現場になる。
――それだけだ。
人差し指がキーボードをなぞる。重みは、無い。生殺与奪の質量も、尊厳の感触も、感じない。こんなものか、と思う。私たちの生活は、結局、何も変わらないのだ。
ふと、思い立ってスマートフォンを開く。見慣れたTwitterの画面。投稿フォームを開いて文字を打ち込む。
イーロン、貴方は見ているかな?
くだらないことを、貴方とずっと呟いていたかったよ。
投稿完了を見送るとスマートフォンを裏返し、モニタに向き直る。さようならは、必要ない。それはもう済んだ。エンターキーに載せた指を深く押し込む。



今はもう存在しない星が一つ、光った気がした。