16:12:23 @ncrt035@gnosia.info
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今日,学問としての天文学は星座の解説を越えて天体力学や天体物理学となっている。しかし天文学の故郷としての星座は,人間の心に情操的一面や芸術的感動が存在する限り永遠のものといえよう。ただ見れば何の奇もない星空を,例えばアンドロメダ姫と見,天馬ペガススと見る目こそ,やがて星を生涯の伴とする奇縁とはなったのである。
(恒星社編『フラムスチード天球図譜』刊行の辞(土居客郎,1943年))

21:26:44 @ncrt035@gnosia.info
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percusso pauiunt insecti pectine dentes. (Ov. Met. VI 58)

筬が打ち付けられてギザギザの歯が(糸を)叩き固める.

この箇所でオウィディウス『変身物語』の写本はほとんどがferiunt《打つ》を伝えている.
しかしこの詩行はセネカ『道徳書簡集』(90.20)にも引用されており,そちらでは古写本でpariunt, より後の写本でferiuntとなっている.
このセネカの方でJan Gruter(1560-1627)がpauiuntを推定修正として出し,今日では『変身物語』の方でもこれが採用されている.
この修正には,意味は似ているけれどもpauiuntの方が稀な語で,しかもpe-, pa-, pe-の頭韻が形成されるという長所がある.
引用による間接伝承が本文の復元に貢献する例.

Tarrant, R., Texts, Editors, and Readers, Cambridge UP 2016: 8f.による.

21:39:24 @ncrt035@gnosia.info
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ところでpauiuntがferiuntになるのは珍しい語が普通な語に置き換わる現象として説明がつくが,その際に前者が後者で説明されている例がフェストゥス『語の意味について』などに見える(pavire enim ferire est. p. 244M)と,ちょうどHeadlamやThomsonが言っていたギリシア語文献における古註・古辞書の逆引き的活用の,ラテン語文献における類例の可能性が示唆されているようで面白い.

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