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おーなり由子『いとしい服 ようふくとわたしのはなし』(大和書房,2024年12月)

『りぼん』の漫画家さんとして著者の名を記憶していましたが、近年は絵本やエッセイ等でご活躍なのですね。

私はおーなりさんより年齢は少し下なのですが、親が子供の服を縫うというのがわりとよくある話だった時期があったことは覚えています。私も幼児の頃はあれこれリクエストをして、ワンピースやスカートを作ってもらっていました。でも、おーなりさんのお母さまは、そんな時流のなかでも、とりわけ洋裁がお上手だったみたい。近所の人に教えたりするほど。娘のウェディングドレスだって縫えちゃうほど。

本書に収録された、洋服にまつわるエッセイを読んでると、著者のなかで、これまでの人生の思い出が洋服と密接に結びついているのが分かります。そして、その思い出の多くは、お母さまとの思い出でもある。

本文を補完するように添えられているイラストが、どれもとてもお洒落でかわいい。見ていると、自分もきれいな色のお洋服が着たくなってくる。

着るものと精神状態が連動することが、のびやかに肯定されているのも、なんだかホッとします。

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前田隆弘『死なれちゃったあとで』(中央公論新社,2024年3月/親本:同タイトル個人誌〔前田商店,2023年5月〕、大幅に加筆修正)

帯のコメントを寄せているのが、能町みね子さんと岸本佐知子さんだったんです。個人的におふたりを同じカテゴリーに入れて考えたことがなかったので(私が無知だから共通点に気付けてないだけかもしれないのですが)、書店で偶然視界に入ったとき、意表を突かれて二度見してしまった。このかたがたが、ともに推薦文を依頼され応じる本って、いったいどんな? って。まんまと出版社のPRテクに乗せられている。

なお、読んでみると能町さんはもともと著者と一緒に仕事をしていたことがあり、気心の知れた仲であると分かりました。この本の登場人物でもある。

本書には、著者が目の当たりにした、さまざまな死とその後についての文章が数編入っています。学生時代の友人、お父さん、ネット友達、少年時代にたまたま目にした凄惨な事故、療養中のところを見舞った相手、かつて私も逝去の報道に衝撃を受けたあのかた……。

〔つづく〕

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〔つづき〕

それぞれの死の周辺の出来事や人間模様を観察して率直に描写し、自分自身の心の動きを見つめて向き合っていくさまを、とても真摯であると感じました。また、その際の言葉選びが巧みであるな、とも。過度に深刻にも大仰にもせず、肩の力が抜けるような表現もあるけれど、決してふざけているわけではなく。するすると頭に入って情景が目に浮かんでくるのです。

そう、悲痛なばかりじゃない。本人が亡くなって初めて分かる「え!?」みたいなこともあるし、残された人のたくましさ力強さに感じ入ることもある。そして、いなくなった誰かが、その誰かに自分よりずっと近しい人でさえあずかり知らぬところで、自分に大きな影響を与えてくれていたと、ふいに気付くこともある。

こういうことを、突き詰めて思い返し言語化していくことで、著者のなかで整理されクリアになったことが、確実にあるのだろうな、と納得せざるを得ないような本でした。そしてその体験をこのように共有してくださることによって、読んでるこちらのなかにも、共鳴しはじめるものがある。これまでにお別れした人たちの思い出が新たな視点から引き出されてきたり。

〔了〕

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分解刑『Thunderbolt Fantasy 外伝小噺・凜雪鴉篇 骨董問答』/『Thunderbolt Fantasy 外伝小噺・殤不患篇 流刀縁起』(ニトロプラス,2025年2月)

2月21日から劇場公開されている、日台合作人形劇シリーズの完結編『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 最終章』初週と2週目の入場特典小冊子です。ダブル主人公それぞれの過去のエピソードを綴った短編小説。執筆者は、昨秋に刊行されたノベライズを手がけたかた。

凜雪鴉篇では、TVシリーズ第1期で雪鴉の師匠として登場(そして即退場)した廉耆先生との出会いが描かれる。「雪鴉おまえ、ひとさまに教えを乞うて弟子入りするときもそんなだったん!?」って感じ。

殤不患篇は、必ず映画鑑賞後にお読みください。第4期でチラ見せされた、あまりにも特殊なかたちで修行をしていた少年時代におけるひととき。この経験があったから、大人になった殤さまは……。しかし子供が育つには過酷な境遇だよねえ。育った側も育てた側も、よくぞまあ。あと、少年の彼を修行先に送り出すお爺ちゃんの名前、字面を見るとせつなくなる。

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ブログ更新:2025年2月に読んだものメモまとめ
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■馬伯庸『西遊記事変』(訳:齊藤正高/早川書房,2025年1月/原書:马伯庸《太白金星有点烦》2023年)
■斎藤美奈子『あなたの代わりに読みました』(朝日新聞出版,2024年5月)
■フランシス・ハーディング『ささやきの島』(絵:エミリー・グラヴィット/訳:児玉敦子/東京創元社,2024年12月/原書:Frances Hardinge "Island of Whispers" Illustrated by Emily Gravett, 2023年)
■前田隆弘『死なれちゃったあとで』(中央公論新社,2024年3月)
■おーなり由子『いとしい服』(大和書房,2024年12月)
■分解刑『Thunderbolt Fantasy 外伝小噺・凜雪鴉篇 骨董問答』(ニトロプラス,2025年2月)
■分解刑『Thunderbolt Fantasy 外伝小噺・殤不患篇 流刀縁起』(ニトロプラス,2025年2月)

●伊藤理佐『おんなの窓 わたし現在3K編』(文藝春秋,2024年6月)

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2025年2月に読んだものメモ | 虫のいい日々