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待川匙『光のそこで白くねむる』(河出書房新社,2024年11月)

主人公「わたし」は、10年ぶりの帰省をしている。旅の目的は幼馴染みの墓参り。回想が進むうち、モノローグはシームレスに、その幼馴染み「キイちゃん」とのやりとりになだれ込んでいく。

いったいなにが本当で、なにがそうではないのか。(おそらくは)「わたし」の脳内で繰り広げられている対話において、「わたし」とキイちゃんの過去認識は、しばしば食い違う。そしてその不確実性に満ちた記憶には、確実に暴力と孤立が内包されていることが見えてくる。しかし読んでいるこちらの動揺をよそに、一貫して語り口はフラットで、「わたし」の真意は読者には分からない。もしかしたら真意など存在しないのかもしれない。

ただただ翻弄され流され吸い込まれるようにして、不穏な意志が表明される幕切れまでを読みとおすことができたのは、語り手の見聞きしたものを忠実にピックアップしているようでありつつあくまで主観的に、概念上のアンテナの細い細い先端で捉えた感覚によって駆動されている、みたいな文章の力が大きいと思う。序盤の情景描写から、するりと引き込まれた。