2025-01-29 09:10:33 ならのの投稿 narano.bsky.social@bsky.brid.gy
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おはようございます。旧暦のお正月おめでとう。 さっきネット上の春節に向けた挨拶で、たぶん、なにもかも上手くいきますように(什么都好)という意味で「蛇么都好」と書いてあるのを見かけて、なるほどなるほど巳年だもんね! って感心しました。 ※什(shén)と蛇(shé)を掛けてる

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古泉迦十『崑崙奴』(星海社,2024年11月)

2000年のデビュー作『火蛾』のあと、たしかさほど間を置かずに出ると噂されながらも実際には刊行されることのないままだった第2作が、なんと約四半世紀後に発売。びっくりした! びっくりした!

『火蛾』はさー、あの頃のメフィスト賞作品としては珍しかったかもしれない、わりと薄めの本だったのですが、頭がぐるぐると酩酊したようになってるあいだに煙に巻かれて、さらにそのケムリまですーっと消えてしまったぞ、みたいな読後感が、忘れられない強烈さだったのですよね(具体的な内容は申し訳ないけどだいぶ忘れているため、いま読みなおすとどう思うかは分からないのだけど)。

なので、24年の年月を経てようやく読むことができたこの500ページを超える長編の、以前と変わらず衒学的ではあるけれど、着実に親切に記述を積み上げてくる作風には、重ねて驚きました。物語を進めてくれる視点人物も親しみやすい立ち位置だし、すごく好みではあるんだけど、あまりにも「普通に」面白い娯楽小説なのでは!?

〔つづく〕

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〔つづき〕

いや、もうほんと、めちゃくちゃ好きなタイプの小説なんですよ。唐時代の社会制度と価値観を基準とした条件下でおこなわれる、連続猟奇殺人の事件捜査。海外を舞台とした歴史物だけど、前述のように親切な書かれ方をしていて、門外漢に馴染みのない用語には本文中でどんどん説明が入るので、浅学の身でも混乱せずに読めちゃう。

作中世界のあり方に対するちょっとした揺さぶりも、デビュー作のようにえげつなく衝撃を与えてくる感じではなく、なんというか……クラシカルで上品。このあたりに留めた匙加減が、本来なら私は好きなんだよ……。

というわけで、少なくとも私の主観では紛れもない奇書であった『火蛾』の作者が、こんな堅実な、ほぼ(ええ、「ほぼ」!)地に足のついた技巧的な長編ミステリを? という一抹の戸惑いと、そういう「予断」がまんまと裏切られたことこそを痛快に感じるべきであったろうという忸怩たる思いが頭の片隅にありつつ、とてもとても楽しんで読みました。本当に、私好みの小説なのですよ。

〔了〕