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泉鏡花/飯沢耕太郎〔編〕『泉鏡花きのこ文学集成』(作品社,2024年6月)

きのこ文学(そんなジャンルが!)研究家によって編纂された、きのこへの言及がある泉鏡花(1873-1939)作品集。もともと泉鏡花は有名どころしか履修しておらず(しかもすごく昔に)、本書に入っているものすべて私は初めて読みました。

「化鳥(1897年)」「清心庵(1897年)」「茸の舞姫(1918年)」「寸情風土記(1920年)」「くさびら(1923年)」「雨ばけ(1923年)」、「小春の狐(1924年)」、「木の子説法(1930年)」の8篇が収録されています。

だいたいどれも、ストーリー自体はさほど複雑ではないのですが、情景の描写や、登場人物のようすの描写などが、すごく視覚的で、そこに引き込まれる。およそ90年~130年前の作品なので、教養の足りない私はだいぶちゃんと分かってないまま雰囲気でふわふわっと読んじゃっているに違いないのですけれども。

〔つづく〕

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〔つづき〕

あと、字面。前々から、泉鏡花の文章で私がいちばん魅力を感じているのは、字面なんですよね。漢字と仮名の並ぶさま、当て字のセンス。すごく素敵な朗読で聞かされても、自分の目で読むほうがいいなって思ってしまうかも。

収録作のなかでは、きのこ要素は少ないんだけど少年の一人称で畳みかけるように綴られた「化鳥」と、きのこ狩りに付き合ってくれる化け狐が健気な「小春の狐」が好みでした。あと、随筆の「寸情風土記」。金沢生まれの鏡花の地元愛が、思いつくまま書き連ねたかのように調子よく挙げられていく風物の羅列に乗ってほとばしっている感じ。

そしてなによりも本書は、巻末の編者による各作品の解題がありがたい。さすがきのこ文学研究家。鏡花のきのこに対するスタンス、とりわけ美しくかわいらしいが毒のある紅茸への思い入れに関する指摘など興味深かった。

また、小説初出時の雑誌の挿絵に加えて、菌類分類学者・川村清一が手掛けたきのこのカラー図譜が多数。加えて編者自身によるコラージュ作品のページも挿入されており(カバー絵もそう)、書籍としても、なかなか趣味全開の面白い作りになっています。

〔了〕

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さっき感想メモを書いた『泉鏡花きのこ文学集成』の装丁に使われてる、川村清一『日本菌類図説』のきのこ図、一部は国立国会図書館のNDLイメージバンクに入ってた。こういうの好き。
ndlsearch.ndl.go.jp/imagebank/

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川村清一の『日本菌類図説』 | NDLイメージバンク | 国立国会図書館