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室橋裕和『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』(集英社新書,2024年3月)

お手頃価格のランチセットなどを提供しているインドカレーのお店ってあちこちにあるけど、入ってみると切り盛りしているのはなぜかネパールの人であることが多いなあ、と気付き始めたのは、いつ頃だったか。そして、どこもメニュー内容がすごく似通っているんですよね。テンプレートが共有されているのでは、と考えてしまうくらいに。

本書では、現在の日本のそういった状況の背景を解き明かしてくれています。実際にいまお店を営む人たちの話を聞くのに加えて、彼らの出身地として圧倒的によく言及されるネパール中部のバグルンまで行っての現地取材や、日本のインドカレー黎明期におけるキーパーソンへのインタビューも。

〔つづく〕

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〔つづき〕

経緯を読むとなるほどなーと思い、海外までやってきて商売をする人たちのバイタリティに感服しますが、その一方で、故郷を離れて出稼ぎに行かざるをえない事情や、騙されて搾取されてしまう場合もあること、帯同したお子さんの教育をどうするかなど、難しい問題もあるのですね。

特にこのお子さんの話。親御さんの決定に従って来日したけど、言葉もなにも分からないまま大してフォローもされなくて、学校や社会に溶け込めずにいる未成年者がけっこういるというくだりで、胸が痛くなりました。それでも多くの子は、故郷の祖父母のところに預けられたりするより、日本で両親と一緒に暮らしたいと言うみたい。ですよね。でも、自分で選んだことだとしても大変だ。

運よく適切な教育環境を得られて成人後も日本で自分の力を発揮できてる若者の事例も紹介されているだけに、ほかの子たちもそういうふうであればなあ、とため息が出てしまった。そういった居場所の得られない子が大きくなって、反社会的な界隈に取り込まれてしまったりする可能性もあるわけだし心配。

〔つづく〕

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〔つづき〕

もどかしくも申し訳ないけど、日本ってやっぱり現状、海外から来た人たちが腰を落ち着けるには、制度的にも社会の雰囲気的にも、なかなかに厳しい国なんだよな(これはこの国の課題ですよね……もう私たちはさまざまな分野において、海外からの労働者なしでやっていくことなんてできそうにないんだから)。もちろん、よその国も問題を抱えているのは分かっていますが。

実際、本書の終盤では、日本に見切りをつけてさらにほかの国(特に英語圏)へと渡っていくネパール人が、じわじわ増えているという話も。そういえば、私の記憶にあったカレー店もいくつか、いつのまにかなくなっていたけど、もしかして?

とにかく、この世界でがんばって生きる人たちが、どこにいようとも、みんなみんな幸せになりますように、と祈ってしまった(自分でもあまりにナイーヴな拙いコメントだとは思いますが、それでも読みながらいちばん強く感じたことというと、これでした)。

〔了〕