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乗代雄介『それは誠』(文藝春秋,2023年6月)

とある高校2年生の男子による手記として綴られた、東京への修学旅行中における自由行動日(ただし行き先は事前承認が必要で、教師が全員の所在をGPSでリアルタイム確認できる)の顛末。

日帰りできない遠い街へ自力で行って干渉されずに動くというようなことが、未成年にとっては難しかったりするのだよな。だから、修学旅行のついでに疎遠になってる親戚のおじさんに会いにいくのも、けっこうな冒険になってしまうのだ。

人づきあいに消極的な主人公の希望を叶えるため、最終的には事情を知った同じ班のみんなが協力することになる。暑苦しく熱血しているわけでもなく、かといっていい加減に流されているわけでもない温度感。クラス内での立場も性格もさまざまだけど、なんだかんだ言って、みんないい子だし、いろいろ考えをめぐらせていて。

語り手である主人公がそういったことや自分自身に生じた変化を、誠実に言語化しようと努める姿勢が、そのまま文章に反映されてこの小説を成り立たせているというかたちになっているのが面白い。

第169回(2023年上半期)芥川賞候補作でした。