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川上未映子『黄色い家』(中央公論新社,2023年2月)

出版社ウェブサイトの作品紹介文に「クライム・サスペンス」と書かれているのを見て初めて「あ、区分としてはそうなのか」と気付いたくらい、そういう読み方をしていなかった。もちろん、言われてみれば、たしかにそういう話なんですよ。冒頭で40歳になっている主人公の女性は、かつて犯罪に手を染めていた。

ただその一方で、第2章以降で語られる回想のなかの年若い彼女は、ものすごく真面目で、金銭感覚が堅実で、責任感があって気持ちがやさしい。そして処世的には不器用で運が悪い。そんないじらしい女の子が、その真面目さと責任感ゆえに、どんどんやばいところに転がり落ちていく。

〔つづく〕

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〔つづき〕

もともとの環境と、めぐり合わせと、奇妙にイノセントな魅力と絶妙に欠けたところのある大人の女性「黄美子さん」への入れ込み。困りごとが起きたときに、共同生活者が誰も肩を並べて戦ってくれず、自分しか現状を打破できないという焦り。本当は気が進まないことも必死にやり遂げてしまう律儀さ。そういった要素の組み合わせが作用して話が進み緊張が高まっていくプロセスが、たしかにサスペンスかもしれないのだけれど、とにかく主人公が真面目な子なので、読んでてハラハラドキドキするというよりも、ただただ「ああ、そんなことに……」って、じわじわ気力を削がれていく感じでした。

主人公から見たほかの登場人物たちが、黄美子さんをはじめとしてみんな、最後まで読んでもすっきりとその内情を理解はできない、分かり合えない相手であるのが、すごく生身感があってリアル。

それでも、なんかうまく人生を回していけない者たち同士、身を寄せ合ってささやかに共同生活をしていた一時期の、きらきらした高揚感はたしかに存在していて、それが過去になってしまっている作中現在の状況には、余計に胸を締めつけられるものがあるのだ。

〔了〕

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あらためまして、2024年もよろしくお願い申し上げます。

今年は始まって早々にしんどいことオンパレードな感じになっていますが、さしあたり私にできるのは祈っておくこと以外ではせいぜい、被災地へのちまっとした寄付と、あとは医療リソースなどが自分のせいで必要以上に消費されないよう、おとなしく暮らしておくことくらい?

ここ数日は、目の前の用事に追われつつも、どんよりとした落ち着かない感じが持続しているけど、気がそぞろになって大怪我につながるような変なドジ踏まないよう注意したい。

そして寄付をしたからには、そのぶん余計なお買い物をセーブしなければ家計が維持できないぞ、という意識を持っておけば、新しい本に手を出す前に、ずっと積みっぱなしの本を消化できるかもしれないよね……(って、結局は自分の都合に引き寄せてしまっているけど)。