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高山真『エゴイスト』(小学館文庫,2022年8月/親本:2010年9月,浅田マコト名義)

今年前半に同じタイトルの映画が公開されて巷で話題になっていたのは、なんとなく知っていたのですが、映画の原作者と、前々からすごく面白いフィギュアスケート評論の人として認識していた高山真さんが頭の中で結びつかず、当時はスルーしていました。小説も書いてらしたなんて思わなかったの!

とはいえ、完全フィクションというわけではなく、自伝的要素のある作品らしいです。とても重いお話なのですが。こんな背景を抱えてあの微笑ましいほどの熱意にあふれたフィギュアスケート論を書いておられたのか、と。

少年の頃に母を病気で亡くした主人公が、大人になってから、病気の母を支える年下の同性の恋人に、自分の生活を切り詰めてまで金銭的・物質的な援助をしていく。そこには、恋人にそれまでの「割のいい」仕事を辞めて自分と一緒にいてほしいという気持ちも入っているし、自身の母親への思い入れをかぶせている面も確実にある。

〔つづく〕

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〔つづき〕

「相手のためになにかしてあげたい」って、相手が困っていてほしくないとか、相手に自分の行為で喜んでほしいとか、かつてできなかったことをやりたいとか、究極的には相手にぶつける「自分の欲望」でもあるんだなってことを、読みながらぐるぐると考えつづけることになった。どこかで割り切って、双方の意志や能力のバランスを取っていくしかないんだと思うけど、そうそううまく最善のラインを見極めることはできないし、それでも否応なしに人生は続いたり続かなかったりするんだな。

こんな物語を書いた高山さん自身がその後、2020年に若くして(プロフィールには生年を出しておられなかったのですが、そんなに高齢ではなかったはず)闘病の末に亡くなってしまったのは、なんというめぐり合わせか、そんなことあっていいのか、とあらためて思ってしまう。巻末には、映画でこの主人公を演じた俳優の鈴木亮平さんが「あとがき」を寄せています。著者が亡くなってから映画化の企画が動き出したため、本人への取材が叶わないなかで役作りをしていくことになった際の、真摯な思いが綴られています。

〔了〕