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久永実木彦『わたしたちの怪獣』(東京創元社,2023年5月)

全4編収録の作品集。東京湾に出現した「キモ美しい」怪獣、時間移動の方法が確立された社会、町にやってきた謎の男の正体が吸血鬼らしいこと、ゾンビに囲まれた映画館――。

どれも重い現実味のあるつらさを背負って生きる登場人物が、現実味を飛び越えた非日常的な現実に直面することになる物語でした。でも両端の現実は、実は地続きでもあり、重なってさえもいるかもしれない。

それぞれに不穏ながらも先が気になりまくる展開でどんどんページをめくりましたが、とりわけ最後に入っていた「『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』を観ながら」は、ミニシアターに集まった主人公以外の人たちが映画マニアで、ばんばん具体的なタイトル出しながらの極限状況下におけるやりとりに、ほとばしる映画愛を感じて印象的。

非日常が日常に置き換わっても奇跡は起こらず、現実のつらさは上書きされない。それでも人は生きているあいだは生きつづけるし、絶望が存続しても希望は消えない、こともある。