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Ginsberg, W., '«Ovidius ethicus» ? : Ovid and the medieval commentary tradition', Paxon, J.J., Gravlee, C.C.(eds.), Desiring Discourse: The Literature of Love, Ovid through Chaucer, Selinsgrove, Susquehanna UP, 1998: 62-71.

中世におけるオウィディウス像の研究.
オウィディウスの追放の因が道徳の紊乱であったとすると,キリスト教中世においてこの詩人のイメージが「道徳的な教師」(ethical pedagogue)に変容したことは驚くべきことに思われる.
12-14世紀にかけてオウィディウスの恋愛詩が宮廷風恋愛詩などに影響を与えると,その性的な要素や奔放な性質を無視して,この詩人の作品をethicalなものとカテゴライズし説明・解釈しようとする傾向があったようである.

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たとえば『恋の技法』へのある註釈にはsiquidem uidens Ouidius iuuenes et puellas quasdam tempore suo ex impericia amoris periculum incurrentes, alios cogi ad laqueum, alios ad suspendium, ne amplius tale quam patiantur, eos in amore peritos reddit.
《オウィディウスは当時の青年たち娘たちが恋への不慣れのために危難に面して,輪縄にかかったり縊れたりする破目になるのを目にして,もうこれ以上そのような不幸が起きぬように彼らに恋愛の手ほどきをするのである》
とその執筆経緯を説いてある(kb.dk/permalink/2006/manus/375

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Tarrant, R.J., 'The Reader as Author: Collaborative Interpolation in Latin Poetry', Grant, J.N.(ed.), Editing Greek and Latin Texts, New York, Ams Press, 1989: 121-162.
ラテン文学における改竄(interpolation)の発生メカニズムを扱った論文.著者は改竄を(1)訂正(emendation),(2)註解(annotation),(3)共作あるいは競作(collaboration, emulation)の3つのカテゴリに分けて考えることを提案する.特に第三の区分では読者が「共著者」(co-author)のごとき役割を果たしていると考えられる.
この研究は著者のOCT版『変身物語』の校訂にも活かされ,また現在ルクレーティウスのトイプナー版を準備しているDeufertがこの詩人の改竄問題(Pseudo-Lukrezisches im Lukrez, 1996)について論じる際にも参照した議論なので重要である.