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@zingibercolor
@zingibercolor@pawoo.net
お嬢様言葉で愚痴り続ける狂人(くるいんちゅ)ですわ
webライターをしつつ趣味で小説を書いている虚弱人(きょじゃくんちゅ)でもありますわ
一次創作小説『子々孫々まで祟りたい』更新中
https://novelup.plus/story/321767071
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俺は、とんでもないことに気づいてしまったかもしれない。
『どうした?』
朝の味噌汁の味見をしていた怨霊(女子大生のすがた)がこっちを見た。その味見が問題なのだ。
いや、怨霊が味見しているところは、これまでも見ていたと思う。見ていなくても、ごく普通においしい料理ができるんだから味見をしていて当然だと思う。だが、そこから導き出される結論にこれまで気づかなかった。
俺は恐る恐る聞いた。
「……あのさ、あんた、もの食べられるの?」
こいつがバリバリにものを食べられるのに、俺しか三食食っていないというのはまずくないか。何の法律にも条例にも触れているわけではないが、なんかまずい気がする。なんというか、食事時ものすごく気まずい。
怨霊はこともなげに答えた。
『食べられるぞ、食べなくても死なんがな』
怨霊に死の概念があるのか? という疑問がポップアップしたが、話が進まないのでとりあえず脇においておいた。今は別の話をすべきなのだ。
「……なんかごめん……」
『ん? どうした?』
「いや、俺だけ食べててさ」
『?』
怨霊はきょとんとした。
「いやさ、その、あんた、食べられるのに、いつも俺だけあんたの目の前で食べてて悪かったなって……」
怨霊は食事をしないと思っていたので、何も考えず食べていたが、食事ができる存在が何も食べないのに、その目の前で俺だけ食べていたとなると、かなり気まずい。しかもその食事はこの怨霊が全部作っているのだ。さらに気まずい。
怨霊は不思議そうな顔をした。
『ワシは食わんでも死なんし、ワシが食べても無駄だろ。味見は必要だからするが』
「うーん……でもさ、味がわかるなら、おいしいのもわかるってことじゃん」
『そうだな』
「それなら全然無駄じゃないと思うな……うまく言えないけど」
『…………』
怨霊はさらに不思議そうな顔をしたが、何度か首をひねってから言った。
『よくわからんが、ワシに何か食えというのか?』
「うん、まあ、完全に二人分の食費出すほど余裕ないけど、多少はいいんじゃないかと」
きっぱり二人分出すと言い切れない経済状況が悲しい。口ごもりながらも言うと、怨霊はもう一度首をひねった。
『じゃあ、余りやすい料理を適当に食うぞ。きっちり一人分作るのも、けっこう難しいんだ』
「あー、大抵のレシピは複数人表記だね」
『味噌汁が特に面倒だな。多くできた時はお前に多く飲ませてるが、そういうことなら、これから多い分はワシが飲むぞ』
「それがいいかな」
『味噌汁がある時は、白飯も少しよこせ』
「わかった」
『今日の味噌汁は多いからもらうぞ。白米も何日か分炊いてあるからもらう』
「うん、そうして。漬物とか魚も分けるから食べなよ」
そういうわけで、食卓にはいつも俺が使っている茶碗や皿と、怨霊が自分の分の味噌汁とご飯を盛ったありあわせの食器が並んだ。
「……今日、図書館に一緒に本返しに行くじゃない」
『そうだったな』
怨霊(小さい体ならたらふく食べた気になるとかで幼児のすがた)が菜箸で白米を頬張りながら言う。
「途中に百均あるから、箸とか茶碗とか、あんた用にもうひと揃え買おう」
『いいのか?』
「使うでしょ?」
『使う。まとめて食って改めて思ったが、ワシの味噌汁わりとうまいな。毎日飲みたい』
「じゃあ決まり、どっちも九時に開くから、予定より少し早く出よう」
『わかった』
誰かと囲む食卓は何年ぶりだろうか。コロナ禍や在宅仕事、自分から寄り付かなくなった実家。ずいぶんそういうものから遠ざかっていた。
百均に行ったら、『どうせ小さい体で食うから』と怨霊(女子大生のすがた)が子供用食器ばかり持ってきたので、「たくさん食べたっていいし大は小を兼ねるから」と大人用食器を買った。
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#子々孫々まで祟りたい
第一話 せめて七代祟りたい(20220508初出)
RE: https://misskey.io/notes/9qj05pdk84s004mx
なぜ俺は、ヤの付く自由業を絵に描いたようなおっさんとともにリモート打ち合わせに臨んでいるんだろうか。威圧感がすごい。いや俺に向けられる威圧感には慣れたけど画面の先に向けられる圧がすごい。
おっさんがささやく。
『これでお前の取り分が増えないようだったら、取引先とやらにも祟ってやるからな』
こいつは俺の子々孫々まで祟ると宣言している怨霊である。割と変幻自在らしい。俺が子々孫々を作りそうにない貧乏なので、『まずお前の実入りを増やす。渡す金を増やせとお前の取引先を脅す』などと宣言してきた。
「やめて。てか変なことすると逆に減る可能性があるからやめて。仕事自体もらえなくなる可能性があるからやめて」
俺は必死で怨霊を押して画面の外に追いやろうとしたが、力が違いすぎてうまくいかなかった。
俺の仕事はフリーのWebライターだ。仕事が取れないと無職と同等の身分である。取引先との関係は大事なのだ。
『なんで打ち合わせが画面越しなんだ。対面ならもっと圧力がかけられるのに』
「あっち九州でここ神奈川なんだから、直接会うなんてコストかかりすぎるんだよ。もうそろそろ時間だから黙って頼むから」
俺の言葉を待っていたかのように、待機中だった画面が変わり、壮年の男性が映った。割と長いこと世話になっている編集者件兼ライターさんである。
〈どうもこんにちは、調子どうです? 和泉さん〉
「まあ、ぼちぼちです」
〈あれ? なんか部屋に他の人いる? ルームシェア始めたの?〉
「いや、ルームメイトでもなんでもありませんね……こないだ私とぶつかって、壊れたから賠償金を払えって言ってる人なんですけど、こっちに支払い能力がなさすぎるってわかったら稼げってうるさくて」
『もう少し他の説明の仕方ないのかお前』
怨霊に呆れられるという実績を解除した。俺としては普通に穏便に相手と話したいから無視するが。
「本当にすみません今日は萌木さんと仕事の話だって言ったらこいつ萌木さんに圧をかけて実入りを増やさせるって張り切って部屋に陣取ってきて私の腕力的に止められなかったんですけど私の気持ち的にはそういうつもりは一切ないので無視を貫いていただけると大変助かります本当にすみません」
一息で言い切ると、萌木さんは大変困惑した顔をした。無理もない。
〈そ、そう……まあ今日は部外者に漏れたらうるさいことは特に話さないからいいけど。でも一応聞いても言いふらさないでって言っておいて〉
「わかりました」
〈じゃあ、大体はこないだの納品終わりに言った感じだけど、今月は5記事大丈夫たなんだよね?〉
「はい」
〈記事のテーマとキーワードは共有した通り。ペルソナは前回から引き続き。いつも通り、まず記事構成ができたらこっちに渡して〉
ペルソナとは、記事などのWebコンテンツの想定読者層のことだ。どの程度の知識を持ったどの年代の人間が読むか、どんなニーズを持ったどんな人間が読むかなどを細かく決める。これがないと何も文章が書けないが、Web上の市場を調べ直した結果ペルソナに修正を加えることもたまにある。
「はい、でもまず全部のテーマで下調べして、前提から練り直したほうがいいんじゃないかってときは構成の前に連絡しますね。なるべく早めにします」
〈そうしてくれると助かる〉
「遅れそうなときは、それはそれで連絡します」
〈遅れたこと特にないじゃない〉
「量絞ってますからね……」
ブラック企業でぶっ壊した自律神経が本当に治らない。今はなんとか机の前に座って話しているけど、ダメなときは本当にダメで、一日寝ていることも珍しくないし、少し無理をすればすぐ反動が来てまた寝込む。
『たくさんやれば稼げるのか! 働け! お前昨日も寝て過ごしてたじゃないか! もっと働いて稼いで裕福になって子孫を繋げ!!』
「ちょっと黙ってて、ていうか自分のキャパ考えずに引き受けて結局できなくて納品日守れないとか、フリーランスとして完全アウトなんだよ、各所に迷惑がかかるんだよ」
さらに画面に映り込もうとする怨霊を全力でぐいぐい押し返していたら、萌木さんから声がかかった。
〈あのさ、余裕納品は本当に大事なんだけどさ、和泉さんがもうちょっと安定して仕事受けてくれるようなら、僕も上に言って記事単価上げられるんだよ? そっちも実績積めるしさ〉
こういうことを相手から言ってくれるのは本当にありがたい。仕事柄いろいろな編集と接しているが、はっきり言って稀有な人間だ。萌木さんはこういうことを言ってくれる人だから、なるべく関係をよくしておきたいのだが。
「まあそうなんですが……やりたい気持ちはあるんですけども」
〈和泉さんは最初から構成も文章もしっかりしてるし、調査力も高いし、量を頼めるならありがたいんだけど〉
『働け! もっと働いて稼げ!!』
「頼むから黙って。すみません萌木さん、やりたい気持ちはすごくあるんですが、まだ体追いつかなくて」
〈そう……まあしっかり療養してね。増やせそうだったら相談してよ〉
「ありがとうございます、本当にありがたいです」
俺は頭を下げる。たぶん映像なしの音声だけのやり取りでも下げていたと思う。
自律神経が死んで在宅仕事しかできなくなり、消去法で始めたライター業だが、書いたものは意外と高く評価してもらえている。ブラック企業では死ぬほど業務を積み上げられてもそれをこなすのが当たり前であり、全く評価はなかったし、もちろん給料にも反映されなかった。
だから、評価がもらえている今、できる仕事はなるべく引き受けたいけれど、悲しいことに体がついてこない。
その後、萌木さんと細かいところを詰めて、打ち合わせはお開きになった。
『取引は済んだのか! 決まった通り働いてすぐ金をもらえ!』
怨霊が黒い一反木綿のような元の姿になってがなってきたが、できない相談だった。
「……エネルギー切れたからもう休む」
『はあ!?』
「今日もあんまり調子よくないんだよ……打ち合わせの予定は前々から決まってたから頑張ってたけど、もうダメだ、今日は店仕舞い」
『……』
怨霊は首を傾げた。
『お前、外に働きにも行かずによく寝てるから、怠けてると思ってたが、もしかして病気なのか?』
「まあ……そう言っていいかな。自律神経失調症って正式な病名じゃないけど」
『難しい病気なのか?』
怨霊は不思議そうに聞く。幽霊に体調を心配されているというのも変な話だが、聞かれたことに答える以上のことに頭が回らなかった。
「パキッと効く治療法がないという意味ではね……規則正しく生活してちゃんとしたもの食べるくらいしかない」
『…………』
怨霊は考え込んだ。
『病気を治せば、たくさん働いて稼げるのか? 稼げるようになったら子孫を繋ぐか?』
「子孫はともかく、今よりは仕事増やせるから収入は増えると思う」
『じゃあまず病気を治せ! 寝ろ! 布団に行け!』
「言われなくても寝る……」
椅子から立ち上がって布団まで行こうとしたら、怨霊が俺の体を持ち上げて布団まで引きずりだした。
「いや自分で行けるから」
『速やかに寝ろ!』
「あんた力すごいな……」
引きずられるどころか体が宙に浮いた。そのまま布団に放られる。
『おい何だこの煎餅布団は! こんなところで寝たら治るものも治らんぞ!』
「いいから寝かせて」
『ワシは少なくともお前を七代祟るんだ! なんとしてでもお前を治して子孫を繋がせるぞ! もっと柔らかい布団に寝かせるからな!』
「俺が起きてられる時に布団干してくれるだけで十分なんで寝かせてください……」
体が治ったとしても、ライター業なんてよっぽど売れないと収入は悲惨なので俺が末代なのは変わらないと思うけれど、柔らかい布団で寝たいという気持ちはあるので、そこについてはもう何も言わなかった。
『お前、体を治すには規則正しく生活してちゃんとしたもの食べるしかないと言ったじゃないか』
俺を子々孫々まで祟ると言って現れて、俺が子孫を残しそうにないので俺に子孫を残させる方向にシフトした本末転倒の怨霊が言う。
俺はささやかな朝食を食べる手を止めて答えた。
「言ったけど」
『ダンボールに入ったパンしか食べてないじゃないか!! 何がちゃんとしたものだ』
「これはベーシックパンって言って、完全栄養食で栄養が取れるのにコンビニ飯より安いんだよ、自炊する体力のないヘボに最適なんだよ」
悪霊は訝しげな顔をした。
『信じられん』
「信じて、事実だから」
『うまいものなのか? なんでも入ってるというと味が濁りそうだが』
「……まずくはない、程度」
別に嘘は言っていない。まずくはない。ただ、毎日毎食食べ続けるとなるとかなり辛い味で、最近では舌の感覚を殺して食べている。
『お前なんか無理してないか?』
「別にしてない」
続きのベーシックパンを頬張ってインスタントコーヒーで流し込む。
『いやお前やっぱり無理してるぞ! たまにはまともなものも食え!!』
「金がかかるし、人間強度が下がるから食べない」
『……人間強度ってなんだ?』
こいつの感覚や語彙はあんまり新しくない。新しくても人間強度がわかるかはまた別の問題だが、この世のどんな人間でも子孫を残すものだという感覚が現代のものかと言われると、うなずきかねる。
「人間は贅沢を覚えたら戻れなくなるくらいの意味」
『別にものすごく高いものじゃなくて一汁三菜食えって話だ! お前、俺の財産があるだろ!!』
「奨学金返したら10万も残らなかったし、残りはもしもに備えて貯金」
『くそっ倹約家め』
「じゃあ、そろそろ俺仕事するから」
テーブルの前の椅子からパソコンデスクまで移動五秒。職住近接にもほどがある。
『あの萌木とか言うのからの仕事は終わったんじゃないのか?』
「終わったけど、あの量だけじゃとても暮らしていけない。俺の調子見て、やる余裕があればなるべく単発のを受けてる」
『どうやって受けるんだ?』
「ポートフォリオサイトのメールに直接来ることもあるけど、スキルシェアサイト通じて探すほうが断然多いかな」
『ポートフォリオ? スキルシェアサイト?』
「……ポートフォリオはやってきたことやできることのまとめで、スキルシェアサイトっていうのは技能集団の仕事探し寄り合いみたいなもの」
案の定メールには何も来ていないので、スキルシェアサイトを見る。流石に初心者は脱しているから、中級以上の記事単価のものに目を通していく。
『求人票が集まってるようなものなのか』
「そんな感じ」
できそうな案件のページを片っ端から開いて、隅々まで目を通していく。俺が明るい分野の案件があればありがたいのだが、物事はなかなかそう上手くはいかない。
『おい、これやれ! これいいぞ!』
「何?」
怨霊が画面を指すのを見ると、ミールキットの紹介記事をいくつか書くという案件だった。
「……できなくはないけど、こういう案件にしては値段低めだな」
『ミールキットって、ミールは食事のことだろう? 飯だろう?』
「料理用の食材キットってところかな」
『体験用に1回分提供って書いてあるぞ』
「………」
確かにそう書いてあった。記事単価を中心に見ていたから気づかなかった。3日分のミールキット付きなら、ミールキットの値段を考えると、たしかに割のいいほうかもしれない。
『これやれば金も食事も手に入るんだろう! これやってまともなもの食え!』
「他のも検討してからな」
開いたページは全部見たが、できるものはあれど、ぱっとしないものばかりだった。応募しても採用とは限らないから、ここからもひとつふたつ応募しておくことにはするが。
「……ミールキット案件も応募するか」
『おお! これでお前まともなもの食うな! 体治って稼いで子孫繋ぐな!!』
「そこまで物事は爆速でいかないから」
ミールキットの案件に無事に採用され、二日後には体験用ミールキットが届いた。最近インスタントコーヒー用のお湯を沸かすことしかしていなかったワンルームのささやかな台所にも活躍の機会が来たようだ。
『おお! 本当に火が出るんだな今の台所は!』
「あんた、いつの時代の怨霊なの?」
最新の台所だとオール電化でむしろ火が出ないのだが、たぶんこの怨霊には言っても通じないだろう。
「鮭の切身フライパンで焼いて、野菜は切ってあるからそのまま入れて、後は別添のソース入れて蒸せばいいのか」
ガスコンロの火をつけたり消したりしている怨霊が言った。
『この台所、おもしろいからワシにやらせろ』
「ええ? 火の加減とかできるの?」
『薪のくべ方で火を調節するのに比べたら、赤子の手をひねるようだぞ』
怨霊は胸を張った。見た目は黒くて毛羽立った一反木綿なので胸がどこかと言われると困るのだが、胸を張るような仕草をしているのはなんとなくわかる。
「あんた、いつの時代の怨霊なの?」
たしかに、いちいち火をおこしていた時代からしたらガスコンロは夢のように簡単だろうけども。
「まあやってくれるのは助かるけど……説明よく読んでその通りにやってよ」
『任せろ、ここにあるもの全部料理してやる。全部食べて体を治して稼いで子孫を繋げ』
「これ3日分だから。一度に作られても食べきれないから」
驚くべきことだが、怨霊は初めて使うガスコンロでまともに料理ができた。久々にテーブルに料理の皿を並べた。
ミールキットなので、味は保証されていて当然なのだが、ひとくち食べて思わず唸ってしまった。久々のまともな食事なのだ。
「……人間強度が下がっちゃうな……」
『うまいのか?』
「おいしい」
『ワシの手にかかれば当然だ!』
怨霊はまた胸を張った。その後もおいしいと言っておだてたらミールキットを全部作ってくれた。この間は布団を干しておいてくれたし、おだてたらもうちょっと家事をしてくれるのかもしれない。
「もしもし……はい……あー、流石に今回は直接診察じゃないとだめですか……はい……行きます……はい、それじゃ予約どおりの時間に」
『どうしたんだ?』
部屋で電話をかけていたら、最近ほぼ同居状態になっている怨霊に声をかけられた。
「いや、病院と電話。月イチか二週間に一度で薬もらってるんだけど、最近電話診療で済ませてたら、今度は流石に直接診療じゃないとだめって言われた」
自律神経が死んでも大した治療法はないが、薬がないわけでもない。安定して自律神経が死んでいるので、薬の内容も特に変わらない。病院にわざわざ出向くのが面倒だったのと、コロナ禍でもあるため電話診療で済ませていた。主治医にも了解を得ていたのだが、病院の方針でたまには直接診療しろということになったらしい。
『そうか、病院行っとったのか! 体治して稼ぐにはちゃんと医者にかからないとな! お前には少なくとも七代子孫を繋がせるんだからな!』
「あのね、仮に子ども作れたとしても、俺その子供が子供作るかまで責任持てない」
ともあれ、久々に遠出することになった。翌日、病院へいく準備をしていたら怨霊が『ワシもついていく』とゴネだした。
『よく考えたら、お前が治らんの、かかってる医者がヤブ医者だからかも知れん。ワシがこの目で見て医者の腕を確認する』
この怨霊は毛羽立った黒い一反木綿みたいな姿をしているが、割と変幻自在なようだ。この間はヤの付く自由業みたいなおっさんになって他の人の目にも見えていたし。
「別に普通の医者だけど……ついてくるなら、この前みたいな法に触れそうな見た目はやめて。無害そうな見た目になって」
『無害か。じゃあこんなんでどうだ』
黒い一反木綿が煙に包まれ、煙が晴れるとそこには中学生くらいの、フーディーにデニムの少年が立っていた。
『無害そうだろう』
「まあ……無害かな。わりとかわいい姿にもなれるんだな」
目が丸っこく、背は中学生くらいながらまだ声や体格が男らしくなっていなくて、幼さを感じる。
『だいたい何にでもなれるぞ』
「とりあえずその格好でいいよ、じゃあ行こう」
病院まで、距離的には長いが、バス一本で行けるし、部屋からも病院からもバス停は近いのでそこまで歩かない。立ちっぱなしだと俺の体力にはそこそこ辛いが、運良く二人とも座れた。
病院に着き、受付に保険証と診察券を出す。
「すみません、予約の和泉です」
「はい。前回、自立支援医療の更新手続きがそろそろとお伝えしましたが、手続きはお済みですか?」
「済んでます、新しいの持ってきてますが今いりますか?」
「お会計時にお出しください。そちらは付添の方ですか?」
怨霊(中学生のすがた)は胸を張った。
『付き添いだ! こいつの医者の顔を見に来たぞ』
「すみません兄弟なんですが私がかかってる医者と会いたいってうるさくて今回だけよろしくお願いしますすみません」
よく考えたら付き添いに中学生は来ないだろ、と思ったが「こいつは俺を子々孫々祟りに来て、でも俺が子孫を作りそうにないから俺にあれこれやって子孫を作らせようとしてる怨霊です」と言ったら、幻覚か見えだしたか妄想癖が飛び出したかのどっちかにしか受け取られかねない。思わず一息で兄弟だと大嘘をついてしまった。
「あ、いえ、大丈夫ですよ、先生に伝えておきますね」
受付の女性は愛想笑いながら微笑んでくれたので、とりあえず嘘は通ったようだ。
「ありがとうございます、すみません」
俺は怨霊の手を引いて待合室まで連れて行った。
『ワシのこと、お前のきょうだいってことにするのか?』
「とりあえず親族なら、付き添いに来てもおかしくないだろ……」
ていうか、中学生くらいなら受付に敬語使ってほしい。怨霊は納得した顔をした。
『なるほど。さっき言ってた自立支援医療とは何だ?』
「申し込むと医療費と薬代が1/3になる制度」
『そんなのがあるのか!? それも令和とやらになったからあるのか!?』
「いや、これは割と昔からあるっぽいけど」
『よくそんなの知ってたな』
「金ないから、こういう制度探し出して片っ端から申し込まないとやってけないんだよ」
感性が少なくとも昭和、下手するとそれ以下の怨霊にあれこれ教え込んでいたら診療の順番が来た。
「こんにちは、お久しぶりです和泉さん。今日は付き添いの方がいらっしゃるようで」
まだ若い医師が微笑んだ。顔を合わせるのは何ヶ月か振りだ。
「一人で来るのはお辛い感じでしたか?そこまで調子が悪いのは珍しいですね」
「いえ、そういうわけじゃなくて、すみません、一人で来られる体調だったんですが、こいつ私のかかってるお医者さんに会うって言って聞かなくて」
『こいつを早く治してちゃんとした体にしろ! ワシはいい加減困っとるんだ! お前ヤブ医者か?』
「頼むから黙っててくれ」
医師は苦笑いした。
「えーっと……ご兄弟でしたっけ?」
「兄弟です」
『ワシの話を聞かんか!』
「……だいぶ雰囲気違いますね」
「すみませんこいつ方言がきつくて」
「和泉さん生まれも育ちも神奈川じゃありませんでしたっけ?」
「生き別れの兄弟で!」
成り行きで怨霊の属性が盛られてしまう。俺は話題転換の必要を感じた。
「ええと、私の調子としては特に変わらずポンコツです。在宅仕事はしてますけど丸一日稼働できないし、無理するとすぐ寝込むし、無理してなくてもダメな日はダメで寝込みます。寝込むほどじゃなくても、何もできないことも多いです。今日は割と調子いいほうですけど、帰ったら疲れて何もできないと思います」
「横になりがちなのはわかりましたけど、睡眠取れてますか?」
「夜は一応眠ってますが、正直、悪夢ひどくて寝た感じがしないことが多くて……動悸止まらなくなるのもよくありますし」
「夢は、睡眠薬でもどうにもなりませんからね……心臓も異常なかったし。この間出した漢方薬も効いた感じはありませんか?」
「寝付き良くなったかなとは思いますけど、それだけですね」
「下痢がひどいのも変わりませんか?」
「変わりませんね。外に出るときは下痢止め必須です」
「微熱はどうですか? 変わりませんか?」
「相変わらずしょっちゅうです。今日は検温引っかからなかったけど、たぶん引っかかる日のほうが多いです」
「……解熱剤も効きにくいし、生活整えて療養を続けるしかありませんね。食欲はあります? 食生活はどうですか?」
「食欲はなくはないです。食生活は……大体ベーシックパン頼りですけど、材料を安く買い込めるなら割とそこのおん……弟が作ってくれるのでなんとかなってます」
怨霊と言いかけて、あわてて言い直した。そういえば怨霊はおとなしい。おとなしいというか、かなり神妙な顔をしている。
「なあ、食材があれば割と作ってくれるよな」
『お、おう……そうだ』
話を振ったら怨霊は返事をしたが、微妙に心ここにあらずといった面持ちだ。どうした?
「食生活は改善傾向と……。前回と特に変わらずなので、薬も引き続き同じにしましょうか。それとも漢方薬は削りましょうか?」
「一応ください。まったく効果ないわけでもないんで」
「わかりました。では今日はこれで。待合室で会計をお待ち下さい」
「ありがとうございました。ほら、行くぞ」
『おう……』
怨霊を促して診察室を出たが、なんだか怨霊に元気がない。変に思いながら、待合室に腰を落ち着けると、怨霊がつぶやいた。
『お前……相当体悪いんだな。驚いた』
「え?」
『医者に言ってたことがひどかったから』
「そうか? ……いや、まあ、そうか」
もう3年くらいこんな調子だからこれが通常になっていたが、自律神経が死んで体のあちこちがポンコツだ。この調子のまま加齢が来たらどうなるか、あまり考えたくない。
「一応、内蔵なんかに異常はないんだけど、自律神経の調子がおかしくなってからずっとこの調子なんだよ。石の上にも三年とか言ってブラック企業で頑張るもんじゃないな」
『ブラック企業ってなんだ?』
「人を人とも思わず非人道的な仕事量を押し付ける企業のこと」
『そうか……』
怨霊はしょぼくれた顔をしていたが、やがて何かを決めたような顔をして立ち上がった。
『帰りに食料品店に寄るぞ! 精のつくものを作れば体にいいだろう。消化にいいもののほうがいいか?』
「1食390円以下に抑えてくれるならなんでもいい」
『食費の基準をベーシックパンの値段にするな! 安売りを選べばできるがお前は精をつけないといかん!』
「無い袖は振れないんだよ……あと遠出すると疲れるからまっすぐ帰りたい」
『財布をよこすなら一人で買う』
「……五千円渡すから、それでなんとかして」
『わかった』
家の最寄りのバス停で別れて一足先に部屋に帰って、一時間くらいしたら怨霊が中学生の姿のままはしゃいで帰ってきた。
『山芋が安かったぞ! これでお前も治るな!』
「いや、そんな神速では治らないけど」
『おろして飯にかけて食べるか? 切ってタレとかかけて食べるか?』
「作るの楽な方でいいよ」
『じゃあ切るぞ! 女の体だと料理のやる気が出るな!』
今、聞き捨てならないことを聞いた気がする。
「ちょ、ちょっと待って……今の姿女の子!?」
『そうだ! 男より女のほうが無害だし、きらびやかな女より地味な女の方が無害に見えるからな!』
怨霊は胸を張った。言われてみれば、だぼついたフーディでわかりにくいながら、ささやかに胸のあたりが持ち上がっている気がしないでもない。
『それにお前は女にモテないみたいだから、機会を見て子作りの練習をさせようと思っていたんだ! 女の姿にしておけばそれもできるしな』
「その年の子にそんなことできるわけ無いだろ!」
『何を言ってる、十五歳くらいで作ったぞ!ほらちゃんと女の体になってる!』
「胸を見せるな! 隠せ!」
『ほら、十分練習できる体だ、結婚だってできる年だしな』
「いつの時代の話だ!! 今は女も十八歳にならないと結婚できないし性的なことするのは犯罪! 今は令和なんだよ!!」
怨霊は口をとがらせた。
『時代の変化についていけん……』
「女の子となると、いろいろ事情が変わる……ダメだ、俺みたいな無職一歩手前が平日昼間に未成年女子とうろついてたら、下手すると通報されるし、付き添いしたいならその姿はダメだ。年そのままならせめて男になって。女のままならもうちょっと大人になって」
『面倒くさいな、そんなにすぐ別の姿は思いつかんから、今日はこのままだ』
「部屋の中だけならいいけど……」
ヤーさんの姿の方が気苦労がないなんて思わなかった。山芋を拍子木切りにして梅肉醤油をかけたのはおいしかった。
『なあ、おい、起きないのか』
「…………」
『飯ができてるぞ』
「…………」
前々から低気圧だと調子が悪いが、ここまでの爆弾低気圧は久しぶりだ。当然体調は地の底である。
『おい、生きてるか? 死んでないだろうな? おいお前、ワシは少なくとも七代祟るつもりでおるんだぞ? おい』
最近、食事の支度を任せきりの怨霊(黒い一反木綿のすがた)が布団の上からめちゃくちゃゆさぶってくる。体調が悪いときに騒がれると本当にしんどいので静かにしてほしい。
「……死んでないけど死ぬほど辛い……しばらくほっといて……」
『飯を食わないと体によくない!』
「……低気圧だからすべてがダメ……」
頭痛予測アプリで低気圧予報が見られるので、不調を予測して昨日のうちにできるだけ仕事を済ませた自分をほめてやりたいが、ほめたところで調子の悪さは変わらない。というか、体調が死ぬほど悪くなるのを正確に予測できるというのもなかなか精神に悪い。
『なあ、普通の飯は食べられないのか? ベーシックパンなら食べるか?』
「……普通の食事がいいけどほっといて……動けるようになったら食べるから……」
『…………』
頭まで布団をかぶっているので見えないが、怨霊はとりあえずあきらめたらしい。気配が遠ざかるのがわかった。
実を言うと食欲がないわけではなく、腹は減っているのだが、本当に体が動かない。気圧の波が落ち着くまでこのままなのはわかっているので、空腹に耐えてひたすら横になっているしかない。
『おい、動かなくていいから頭だけ出せ』
また怨霊の気配がすぐそばに来た。
「……ほっといてってば……」
『頭だけ出せ』
また布団の上からゆさぶられた。拒否し続けるほうが大変そうなので布団から顔を出したら、片手に料理を持った皿を、もう片手に箸を持った怨霊がいた。
『動けないなら適当に食わせるから口開けろ』
「…………」
介護か。俺は要介護レベルなのか。しかし自分の自律神経のイカれっぷりを考えると、あまり否定できない。
「……流石に、自分で食べられるから……」
『じゃあ食え! 今日の卵はちゃんと半熟だぞ!』
「うん……」
目玉焼きは半熟ながら、箸で切って口に運べるだけの固さがあり、よくできていた。浅漬けと味噌汁もうまかった。
最近、人間強度が下がりっぱなしかもしれないと思った。
『なあ、インターネットというのはいろいろ調べられるのか』
怨霊(中学生男子のすがた)の唐突な質問に俺は戦慄した。感覚が昭和で止まっており、インターネットをまったく知らない存在をネット空間に放り込むのはあまりにも危険すぎる。中途半端に知識があるかもしれないが、それはそれで危険が伴う。
「……最近のネットは、調べ方を知らないと適切な情報にたどり着けないから素人にはおすすめしない……何調べるの?」
なんとか無難な返事をひねり出した。調べたいものが何かによってはまた別の危険がある。俺に子孫を残させるためとか言って俺の名前で出会い系なんて調べ始めたらえらいことだ。
怨霊はこともなげに答えた。
『近所のスーパーの安売りとか値引き品での献立がそろそろ思いつかないから、新しい献立を調べたい』
怨霊がやる調べ物ではない。いやバリエーション豊かな食事を楽しめるのは本当にありがたいが。まあ、調べるものがそれだけ明確であれば、こちらも対応のしようがある。
「じゃあ、いい感じのレシピサイトいくつか教えるから、調べるのはそのサイトからのみにしてくれる?」
『お前が食いたい料理が載ってるのか?』
「うーん、必ずしもそうじゃないけど、ものすごくいろんなレシピが載ってるし、載ってるレシピの質が確かなところ」
『ふーん』
昔、懸賞で当てたが在宅仕事なのであまり使わずしまい込んでいた小さいタブレットを活用することにした。ブラウザを立ち上げて、レシピサイトを次々に開いてお気に入り登録していく。クックパッドは最大手だが、意外と上級者向けなので、説明に下ごしらえを飛ばして書いていることがままあるのであえてやめておく。レシピに外れがないのはE・レシピ、Nadia、白ごはん.com、きょうの料理あたり、動画が見られてわかりやすいのはクラシルやDELISH KITCHENあたりか。クラシルや楽天レシピも入れておこう。
自律神経がイカれてから大して料理もしないのに、俺が妙に詳しいのはその辺のサイトを比較する記事を書いたことがあるからだ。
タブレットの使い方やお気に入りからのサイトの飛び方を怨霊に教えがてら、大体のサイトを見せたら、怨霊は動画が見られるサイトが気に入ったようだ。
『料理してるところが見られるのはいいな!』
「わかりやすいよな、記事まとめるとき参考にいろいろ見た」
『ふーん……』
怨霊はなにか考え込むような顔になった。
『お前、こういう料理ができるところ見てて、うまそうだと思わないのか? 見てる時腹減らなかったのか? 』
「そういう時はベーシックパンかじってた」
『…………』
怨霊は、かわいそうなものを見る目で俺を見た。
『お前、飯は作ってやるから、もうあのパン食べるなよ』
「え、賞味期限が迫ってるから残り消費したいんだけど」
『まともな飯を食え!』
「栄養的には非常に行き届いてるんだよ!」
『味は?』
「まずくはない」
『ワシの飯の味は?』
「……おいしい」
『決まりだな』
怨霊は得意げに胸を張った。怨霊の作る食事と言うと呪われそうだが、ごく普通の家庭料理(和食が多い)で、ごく普通においしい。
おしかけ同居されている時点で呪われているという見方もあるが。いや、祟られているのか。
怨霊は楽しげにタブレットをいじっていたが、見るべきものは見たらしくて顔をあげた。
『じゃあスーパー行ってくるぞ。そろそろ値引きのシールが貼られる頃だ』
「いってらっしゃい、よろしく」
『精のつくものを作るぞ! 今のうちから子種を育てておいて損はないからな!』
「そういう気はまわさなくていい」
夜は、納豆と山芋とオクラのネバネバ丼と、ニラ入り卵焼きと、にんにくのホイル焼きが出た。意図が見え見えで腹が立ったが、ごく普通においしかった。
「行くべきか、行かないべきか、それが問題だ……」
『どうした?』
パソコンの前で悩んでいたら、考えていることが口に出ていたらしい。布団を干し終えてベランダから戻ってきた怨霊(ヤーさんのすがた)(大きいものを運ぶ時は大きい方が楽らしい)に声をかけられた。
「いや、今回頼まれたWebコンテンツ用の調べ物してて、たぶん図書館あされば結構資料が見つかると思うんだけど、少し遠いし行っても具合悪くなって引き返しちゃう可能性もあるから、どうしようかと思って」
怨霊は首を傾げた。
『インターネットで調べられないことなのか? 何でも調べられると思ってたぞ』
ネットにあまり詳しくない者によくある勘違いだ。感覚が昭和で止まっていると思しきこの怨霊は、それでもネットを参考にして毎日の料理を作れるからマシな方だと思うが。
「ネットはリアルタイムの情報追いかけたり、ある程度新しい事とか、広く関心が持たれてる事を調べたりにはいいけど、体系的知識を得るにはまだまだ本かな。あと、本を参考にしたほうがネット上でのネタかぶりしにくい」
『そういう物なのか』
怨霊は首を傾げた。
『よくわからんが、図書館に行ければ稼げるのか?』
「んー、すぐものすごく稼げるわけじゃないけど、いい成果が上がる可能性は高いし、それで評判が良くなればいい仕事にありつける可能性はある」
怨霊はやる気に満ち溢れた顔になった。
『じゃあ行くぞ! 洗濯物干したらすぐ行くぞ』
「え、あんたも来るの?」
『お前が動けなくなった時、ワシがいれば引きずって帰れるだろ』
わりと善意だった。あんまり引きずってほしくはないが。かと言って背負ったり抱き上げたりもしてほしいわけじゃないが。自分の足で普通に帰れるのが一番いい。
とはいえ、付添いがいるのは普通にありがたい。確か最寄りの図書館では十冊まで借りられるが、専門書ばかりになりそうだから、限度いっぱいまで借りるとかなり重くなる。
怨霊が布団を干したり料理を作ったりするたびに、どうも、とか助かる、とか言っていたら、頼んでもいないのに洗濯もしてくれるようになったから、頼んだら本を持つくらいはしてくれると思う。
一応、聞いておくことにした。
「あのさ、借りる本が多いからかなり重くなりそうなんだけど、持つの頼めたりする?」
『いいぞ、お前と一緒に引きずって帰る』
「俺のことは多少引きずってもいいけど本は傷つけないで、借り物だから」
ともあれ怨霊の快諾を得た。怨霊が洗濯物を干している間、図書館のホームページを開いて資料検索してみたら、一番の目当ての本は所蔵されていたし、貸出中でも貸出予約満載でもなかった。
天気もよく、数日は低気圧も来そうになかったので、体調は大丈夫な方にかけてみることにしようと思った。
『なあ、お前と外に出るなら無害な姿の方がいいんだろう?』
再びベランダから戻ってきた怨霊が聞いてきた。
「ん? ああ……まあ、今の格好だと威圧感すごいから、もうちょっと優しそうな姿のほうがいいかな」
『こないだの若い女の格好でいいか? ほら』
「……平日昼間に中学生女子連れ回してると、例え図書館でも別の意味で不審に見られるから、もうちょっと年上にして」
『令和って面倒くさいな……』
こないだの中学生女子が大きくなって大学生くらいになった感じの怨霊と連れ立って歩く。一人で日中歩くと、女性や子連れとすれ違うときあからさまに避けられるのだが、怨霊と歩いているとそうでもない。二人連れだからなのか女連れだからなのか。不審者を見る目を向けられるのは割ときついので、怨霊が暇そうなら、体調に無理がなくても同行を頼んでもいいかもしれない。
怨霊がこちらを見上げて言った。
『なあ、ワシも本借りられるのか?』
「あー、図書館内で読むのは大丈夫だけど、借りるのはちょっと無理かな……身分証明書がないと図書カード作れなくて借りられないと思う。またレシピとか調べるの?」
『料理もだが、他にもいろいろだ』
「ふうん?」
何を調べる気だろうか。物騒なことでなければ別に、立ち入るつもりはないけれど。読んだり借りたりした本の履歴は、実は結構な個人情報なので、あまり聞くのもよくない気がした。
無事に図書館に着き、俺はとりあえず体調を崩すこともなく目当ての本を探し当てることができた。本棚にずらっと並ぶ本から資料を探すのは、近い分野の本が目に入りやすいので、思いもかけずいい感じの資料も手に取ることができて、電子書籍とはまた違うメリットがあった。体調が許せば、金もかからないのでなるべく活用したい。
図書館を使い慣れていないらしい怨霊に、料理に関する本は技術・工学の家政学・生活科学棚にあると教えたら、一目散に行ってしまって、俺が目的の本を探し出して貸出カウンターで借り終わっても、別の棚で何か調べているようだった。
しばらく放っておいたほうがいいかなと思ったが、一応声をかけた。
「俺借り終わったけど、まだかかる?」
『お!? おう、済んだのか、本持つぞ、お前も持つか?』
怨霊は驚いた顔で俺を見上げた。
「いや、帰るのは大丈夫そうだから、本持ってくれればいいから。調べ物、まだかかるなら待とうか? そこまで急ぎじゃないし」
『いや、いや、いい。帰るぞ。飯の準備もしておきたいしな』
もらい物のエコバッグに入れた本を怨霊に持ってもらい、帰り道を行く。傍から見ると女の子に重そうな荷物を持たせている男だが、この男は傍から見た以上に弱々しいので勘弁してほしい。
「なあ」
『なんだ?』
「今日は普通に図書館まで往復できたけどさ、いつもこれくらい調子がいいとは限らないから、俺が返却日に寝込んでたら、代わりに返しに行ってくれる?」
怨霊は首をかしげた。
『本人が返さなくていいものなのか?』
「全然平気。めんどくさければ、図書館の外にある返却ボックスに突っ込んどいてくれればかまわない」
『最近の図書館は便利だな! 令和も便利なことがあるんだな』
「平成からあったと思うけどね」
『また行くぞ』
「うん、調子さえよければもっと図書館使いたい」
『今度はお前の子種を増やす方法と、お前の見た目をよくして女にモテる方法を調べるぞ』
それは特に調べなくていいと思った。
もう何年も続いているから当たり前のものになっているが、肩と腰と背中と首が常に痛い。ブラック企業時代、朝も昼も夜も深夜も仕事のし通しだったが、その頃から痛くなり、今に至る。まあ、今も安い椅子での座り仕事で、合間にストレッチするほどの体力もなく、治る要素がひとつもないのだが。
納品が終わって一段落ついたので、腰を叩いたりセルフで肩を揉んだりしていたら、怨霊(大学生女子のすがた)がわざわざ台所からよってきた。
『やっぱり腰痛いのか?』
「んー、肩と背中と首も痛い。あと頭痛い」
『お前、若いのに痛い所多すぎないか?』
怨霊にドン引きした顔をされた。人外に引かれるほどひどいのか? 俺は。
『おい、布団敷いてあるから寝ろ』
「いや、今日は寝るほど調子悪くないよ、痛いのいつもだし」
『眠れって言ってるんじゃない、うつ伏せで寝転がれって言ってるんだ』
「?」
次の案件に取り掛かってもよかったが、急ぐわけでもないので、布団まで行って言われたとおりにする。そうすると、怨霊の手が背中や腰を触ってきた。
『うわあ……お前、体に鉄板でも入ってるのか?』
「サイボーグになった覚えはないな……え、マッサージか何かしてくれるの?」
食事の世話や布団干しや洗濯に終わらず、体揉んでくれるとか至れり尽くせりすぎないか。こいつ俺を祟るつもりのはずなんだが。いや、こいつ俺の子々孫々まで祟るつもりらしいから、俺が体を治して稼いで子孫を残すために割と何でもやる気らしいが。
『そのうちやってやるつもりだった。療養には湯治とあんまがいいだろう?』
「オーソドックスな方法だなとは思う」
『湯治はお前の懐的に無理だが、あんまなら見様見真似でやれなくもない』
「なるほど。まあ見様見真似でも、やってくれるとすごくありがたい」
『じゃあ揉むぞ。この固さだと力仕事だ』
怨霊は煙とともにヤーさんの格好になり、背中や腰を指圧しだした。俺のコンディションだと、どう揉まれても割と気持ちいいと思うが、それを差し引いても、ツボを心得ている気がする。マッサージの経験がある怨霊とかいるのか?
「なんか……、いい感じのところついてくるけど……、マッサージ詳しいの?」
『図書館で調べたぞ!』
怨霊の得意げな声が上から降ってきた。そう言えば、この間図書館で声をかけたとき、料理本がおいてあるのとは別の棚にいた。そういうことを調べていたのか。
「なるほど……うん……すごく気持ちいい。肩と首も揉んでもらえたりする?」
『もちろんだ!』
「助かる……」
怨霊は背中と腰を揉んだ後、リクエスト通り肩と首も揉んでくれて、俺は気持ちよくて半分眠りかけた。
『終わったぞ?』
怨霊の声で、俺は眠りの国から現実に引き戻された。
「あー、どうも……。あっ、すごい! あんまり痛くなくなった!」
腕を回してもそこまで痛くないし、首を回してもそこまで痛くない。可動域が広くなった気がするし、頭痛もマシになった気がする。
「うわーすごく助かる。ありがとう!」
『あ、いや……』
怨霊はなぜか目をそらした。どうしたんだ?
『痛さが全部取れたわけじゃないのか?』
「んー、長年のだからなー、一発でなくすのは難しくない? でもこれでもすごく体軽いよ」
『…………』
怨霊は渋い顔をした。
『一発で全部治してやるつもりだったのに……やっぱり揉むだけじゃなくて、鍼もやらないとだめだな。図書館にそういう本もあるか? 縫い針でいけるか?』
「……刺すのは流石に専門家に任せたほうがいいと思う……たまにこれくらい揉んでもらえれば十分です」
縫い針の針山にされるのは全力で阻止しようと思った。人外は何を考え出すかいまいちわからないなとも思った。
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喉の乾きに気づきづらいのが良くないんですのよね
水飲んでみて「あれ?飲めるな?」と感じた時ようやく水分不足と気づくので
かかりつけの近所の内科で新しく雇われた事務の人、どうもあんまりできない人らしくて行くたびにものすごく詰問調で怒られていて、怒り声聞くだけで精神が削れるので行きたくありませんわ
麻疹風疹のワクチン一回のみの人間なので追加接種を頼もうと思って病院に予約電話したのですが、追加接種したい人が一杯でワクチンがなくワクチンがいつ入るか未定と言われましたわ(神奈川の民)
母親は
「あんたのことは隣人のように尊重している」
なんてほざくのですが、尊重しているなら私の部屋の電気がついてるついてないに文句つけないでしょう、本当にあの女バカじゃないの