#子々孫々まで祟りたい
2話 まずはゆっくり寝かせたい(20220508初出)
なぜ俺は、ヤの付く自由業を絵に描いたようなおっさんとともにリモート打ち合わせに臨んでいるんだろうか。威圧感がすごい。いや俺に向けられる威圧感には慣れたけど画面の先に向けられる圧がすごい。
おっさんがささやく。
『これでお前の取り分が増えないようだったら、取引先とやらにも祟ってやるからな』
こいつは俺の子々孫々まで祟ると宣言している怨霊である。割と変幻自在らしい。俺が子々孫々を作りそうにない貧乏なので、『まずお前の実入りを増やす。渡す金を増やせとお前の取引先を脅す』などと宣言してきた。
「やめて。てか変なことすると逆に減る可能性があるからやめて。仕事自体もらえなくなる可能性があるからやめて」
俺は必死で怨霊を押して画面の外に追いやろうとしたが、力が違いすぎてうまくいかなかった。
俺の仕事はフリーのWebライターだ。仕事が取れないと無職と同等の身分である。取引先との関係は大事なのだ。
『なんで打ち合わせが画面越しなんだ。対面ならもっと圧力がかけられるのに』
「あっち九州でここ神奈川なんだから、直接会うなんてコストかかりすぎるんだよ。もうそろそろ時間だから黙って頼むから」
俺の言葉を待っていたかのように、待機中だった画面が変わり、壮年の男性が映った。割と長いこと世話になっている編集者件兼ライターさんである。
〈どうもこんにちは、調子どうです? 和泉さん〉
「まあ、ぼちぼちです」
〈あれ? なんか部屋に他の人いる? ルームシェア始めたの?〉
「いや、ルームメイトでもなんでもありませんね……こないだ私とぶつかって、壊れたから賠償金を払えって言ってる人なんですけど、こっちに支払い能力がなさすぎるってわかったら稼げってうるさくて」
『もう少し他の説明の仕方ないのかお前』
怨霊に呆れられるという実績を解除した。俺としては普通に穏便に相手と話したいから無視するが。
「本当にすみません今日は萌木さんと仕事の話だって言ったらこいつ萌木さんに圧をかけて実入りを増やさせるって張り切って部屋に陣取ってきて私の腕力的に止められなかったんですけど私の気持ち的にはそういうつもりは一切ないので無視を貫いていただけると大変助かります本当にすみません」
一息で言い切ると、萌木さんは大変困惑した顔をした。無理もない。
〈そ、そう……まあ今日は部外者に漏れたらうるさいことは特に話さないからいいけど。でも一応聞いても言いふらさないでって言っておいて〉
「わかりました」
〈じゃあ、大体はこないだの納品終わりに言った感じだけど、今月は5記事大丈夫たなんだよね?〉
「はい」
〈記事のテーマとキーワードは共有した通り。ペルソナは前回から引き続き。いつも通り、まず記事構成ができたらこっちに渡して〉
ペルソナとは、記事などのWebコンテンツの想定読者層のことだ。どの程度の知識を持ったどの年代の人間が読むか、どんなニーズを持ったどんな人間が読むかなどを細かく決める。これがないと何も文章が書けないが、Web上の市場を調べ直した結果ペルソナに修正を加えることもたまにある。
「はい、でもまず全部のテーマで下調べして、前提から練り直したほうがいいんじゃないかってときは構成の前に連絡しますね。なるべく早めにします」
〈そうしてくれると助かる〉
「遅れそうなときは、それはそれで連絡します」
〈遅れたこと特にないじゃない〉
「量絞ってますからね……」
ブラック企業でぶっ壊した自律神経が本当に治らない。今はなんとか机の前に座って話しているけど、ダメなときは本当にダメで、一日寝ていることも珍しくないし、少し無理をすればすぐ反動が来てまた寝込む。
『たくさんやれば稼げるのか! 働け! お前昨日も寝て過ごしてたじゃないか! もっと働いて稼いで裕福になって子孫を繋げ!!』
「ちょっと黙ってて、ていうか自分のキャパ考えずに引き受けて結局できなくて納品日守れないとか、フリーランスとして完全アウトなんだよ、各所に迷惑がかかるんだよ」
さらに画面に映り込もうとする怨霊を全力でぐいぐい押し返していたら、萌木さんから声がかかった。
〈あのさ、余裕納品は本当に大事なんだけどさ、和泉さんがもうちょっと安定して仕事受けてくれるようなら、僕も上に言って記事単価上げられるんだよ? そっちも実績積めるしさ〉
こういうことを相手から言ってくれるのは本当にありがたい。仕事柄いろいろな編集と接しているが、はっきり言って稀有な人間だ。萌木さんはこういうことを言ってくれる人だから、なるべく関係をよくしておきたいのだが。
続き
「まあそうなんですが……やりたい気持ちはあるんですけども」
〈和泉さんは最初から構成も文章もしっかりしてるし、調査力も高いし、量を頼めるならありがたいんだけど〉
『働け! もっと働いて稼げ!!』
「頼むから黙って。すみません萌木さん、やりたい気持ちはすごくあるんですが、まだ体追いつかなくて」
〈そう……まあしっかり療養してね。増やせそうだったら相談してよ〉
「ありがとうございます、本当にありがたいです」
俺は頭を下げる。たぶん映像なしの音声だけのやり取りでも下げていたと思う。
自律神経が死んで在宅仕事しかできなくなり、消去法で始めたライター業だが、書いたものは意外と高く評価してもらえている。ブラック企業では死ぬほど業務を積み上げられてもそれをこなすのが当たり前であり、全く評価はなかったし、もちろん給料にも反映されなかった。
だから、評価がもらえている今、できる仕事はなるべく引き受けたいけれど、悲しいことに体がついてこない。
その後、萌木さんと細かいところを詰めて、打ち合わせはお開きになった。
『取引は済んだのか! 決まった通り働いてすぐ金をもらえ!』
怨霊が黒い一反木綿のような元の姿になってがなってきたが、できない相談だった。
「……エネルギー切れたからもう休む」
『はあ!?』
「今日もあんまり調子よくないんだよ……打ち合わせの予定は前々から決まってたから頑張ってたけど、もうダメだ、今日は店仕舞い」
『……』
怨霊は首を傾げた。
『お前、外に働きにも行かずによく寝てるから、怠けてると思ってたが、もしかして病気なのか?』
「まあ……そう言っていいかな。自律神経失調症って正式な病名じゃないけど」
『難しい病気なのか?』
怨霊は不思議そうに聞く。幽霊に体調を心配されているというのも変な話だが、聞かれたことに答える以上のことに頭が回らなかった。
「パキッと効く治療法がないという意味ではね……規則正しく生活してちゃんとしたもの食べるくらいしかない」
『…………』
怨霊は考え込んだ。
『病気を治せば、たくさん働いて稼げるのか? 稼げるようになったら子孫を繋ぐか?』
「子孫はともかく、今よりは仕事増やせるから収入は増えると思う」
『じゃあまず病気を治せ! 寝ろ! 布団に行け!』
「言われなくても寝る……」
椅子から立ち上がって布団まで行こうとしたら、怨霊が俺の体を持ち上げて布団まで引きずりだした。
「いや自分で行けるから」
『速やかに寝ろ!』
「あんた力すごいな……」
引きずられるどころか体が宙に浮いた。そのまま布団に放られる。
『おい何だこの煎餅布団は! こんなところで寝たら治るものも治らんぞ!』
「いいから寝かせて」
『ワシは少なくともお前を七代祟るんだ! なんとしてでもお前を治して子孫を繋がせるぞ! もっと柔らかい布団に寝かせるからな!』
「俺が起きてられる時に布団干してくれるだけで十分なんで寝かせてください……」
体が治ったとしても、ライター業なんてよっぽど売れないと収入は悲惨なので俺が末代なのは変わらないと思うけれど、柔らかい布団で寝たいという気持ちはあるので、そこについてはもう何も言わなかった。
子々孫々まで祟りたい(種・zingibercolor) | 小説投稿サイトノベルアップ+
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『子々孫々まで祟りたい』第1話
すっ転んで近所の祠(祟る)に直撃して壊してしまったら家に怨霊が出てきた。黒く不定形で人の姿すらしていない『それ』はやはり俺を祟るために来たらしい。
『ようもワシを害したな、子々孫々まで祟ってやるわ』
怨霊は大口を開けて牙を剝いた。何かを食い殺すことはできるのかもしれない。でも子々孫々とか言われてもな……
「いや、そんなこと言われても」
『末代まで恐怖に打ち震えるがいい……!』
「たぶん俺で末代だし」
真っ黒い怨霊の、つり上がった目が一瞬見開かれた。
『は?』
「だってさ、金ないし、相手いないし、モテないから作りようがないし……」
『お前そんなに金ないの!?』
「びっくりするほどない。そもそも若年層が貧乏な今の日本で結婚して子供作るとか大変すぎる」
フリーのWEBライターと言えば聞こえはいいが、バイトすらしていない現状だと無職一歩手前である。
『いや、でも親戚のツテとか職場のツテとか見合いとか』
怨霊がなぜかあせり始めたが、いつの時代の話だ。
「ないよそんなもん、令和の時代に」
『時代変わりすぎと違うか!?』
「とにかく金ないし、俺で末代だよ。奨学金返さないといけないから借金持ちでもあるし、今の身体だと普通に会社勤め出来る体力もないから安定した収入なんて無縁だし、モテないし」
『ワシ少なくとも七代祟るつもりで来たんだぞ! 力の使い所に困るわ!』
「そんなこと言われても」
怨霊は頭を抱えて焦りだした。ちなみに怨霊
の見た目は毛羽立った一反木綿を黒くした感じで、目と口と手はあるが鼻は見当たらない。
怨霊が抱えていた頭を話して言った。
『お前、見た目がいいわけじゃないけど別にそう悪くもないぞ、ちょっと絶望しすぎと違うか? それに人間ってもっと繁殖に血道を上げるものと違うか? 性欲ないのか?』
「ないわけじゃないけど」
正直に答えると悪霊は色めき立った。
『じゃあ子供を作れ! 子孫を残せ! 七代続け!!』
「今は性欲解消する手段なんてたくさんあるし、経済的事情でちゃんとした生育環境を用意できないのに性欲に任せて子供作るとか無責任だと思う」
そもそも相手がいないので性欲に任せて子作り自体ができないわけだが、ちゃんと育てられないのに子供を作るのはよくないというのは正直な思いだ。
『ええー、子供なんてたくさん作って出来のいいのが一人二人できればそれでいいもんじゃろ』
「たくさんとか、育てるの無理だよ、それに今は少産少死の時代」
『時代の変化についていけん……』
悪霊は再び頭を抱えた。
『うーん……つまり、話をまとめると、お前は金があって、女にモテれば子供を作るわけだな』
「いやそんな単純なもんでもないけど……経済的に苦しいのは確か」
自由業は不安定なのだ。体を壊して外に勤めることができなくなり、在宅仕事を選ばざるを得なかった人間なので、体力的にバリバリ働くということも難しいし。
『よし、ワシの財産をくれてやる』
「はい!?」
『祠の近くに隠してあるのだ。それを使えばお前も即子孫を作れるだろう』
「えーと、祠の周りって私有地だったと思うから、それ掘り起こしてもその土地の所有者のものになるんじゃないかな」
『適当な場所で拾ったことにしろ!』
「拾得物扱いだとしても、俺のものになるまで3ヶ月かかるし、ある程度以上の金額だと所得税持ってかれるから手元に残るの意外と少ないと思うんだけど」
『くそっうまくいかん!』
「でも3ヶ月先でも収入があるのは嬉しいので、ある場所教えてください」
『子孫を作るのに使えよ!』
「金額によるかな……」
怨霊の隠し財産は小判1枚で、しょぼいと思ったけど奨学金を返すのには十分な金額だった。
『借金がなくなったのだから、これで子孫を作れるだろう作れ』
「いや、支出は減ったけど収入相変わらずだから貧乏なままだよ」
『くそっうまくいかん!!』
#子々孫々まで祟りたい
2話 まずはゆっくり寝かせたい(20220508初出)
なぜ俺は、ヤの付く自由業を絵に描いたようなおっさんとともにリモート打ち合わせに臨んでいるんだろうか。威圧感がすごい。いや俺に向けられる威圧感には慣れたけど画面の先に向けられる圧がすごい。
おっさんがささやく。
『これでお前の取り分が増えないようだったら、取引先とやらにも祟ってやるからな』
こいつは俺の子々孫々まで祟ると宣言している怨霊である。割と変幻自在らしい。俺が子々孫々を作りそうにない貧乏なので、『まずお前の実入りを増やす。渡す金を増やせとお前の取引先を脅す』などと宣言してきた。
「やめて。てか変なことすると逆に減る可能性があるからやめて。仕事自体もらえなくなる可能性があるからやめて」
俺は必死で怨霊を押して画面の外に追いやろうとしたが、力が違いすぎてうまくいかなかった。
俺の仕事はフリーのWebライターだ。仕事が取れないと無職と同等の身分である。取引先との関係は大事なのだ。
『なんで打ち合わせが画面越しなんだ。対面ならもっと圧力がかけられるのに』
「あっち九州でここ神奈川なんだから、直接会うなんてコストかかりすぎるんだよ。もうそろそろ時間だから黙って頼むから」
俺の言葉を待っていたかのように、待機中だった画面が変わり、壮年の男性が映った。割と長いこと世話になっている編集者件兼ライターさんである。
〈どうもこんにちは、調子どうです? 和泉さん〉
「まあ、ぼちぼちです」
〈あれ? なんか部屋に他の人いる? ルームシェア始めたの?〉
「いや、ルームメイトでもなんでもありませんね……こないだ私とぶつかって、壊れたから賠償金を払えって言ってる人なんですけど、こっちに支払い能力がなさすぎるってわかったら稼げってうるさくて」
『もう少し他の説明の仕方ないのかお前』
怨霊に呆れられるという実績を解除した。俺としては普通に穏便に相手と話したいから無視するが。
「本当にすみません今日は萌木さんと仕事の話だって言ったらこいつ萌木さんに圧をかけて実入りを増やさせるって張り切って部屋に陣取ってきて私の腕力的に止められなかったんですけど私の気持ち的にはそういうつもりは一切ないので無視を貫いていただけると大変助かります本当にすみません」
一息で言い切ると、萌木さんは大変困惑した顔をした。無理もない。
〈そ、そう……まあ今日は部外者に漏れたらうるさいことは特に話さないからいいけど。でも一応聞いても言いふらさないでって言っておいて〉
「わかりました」
〈じゃあ、大体はこないだの納品終わりに言った感じだけど、今月は5記事大丈夫たなんだよね?〉
「はい」
〈記事のテーマとキーワードは共有した通り。ペルソナは前回から引き続き。いつも通り、まず記事構成ができたらこっちに渡して〉
ペルソナとは、記事などのWebコンテンツの想定読者層のことだ。どの程度の知識を持ったどの年代の人間が読むか、どんなニーズを持ったどんな人間が読むかなどを細かく決める。これがないと何も文章が書けないが、Web上の市場を調べ直した結果ペルソナに修正を加えることもたまにある。
「はい、でもまず全部のテーマで下調べして、前提から練り直したほうがいいんじゃないかってときは構成の前に連絡しますね。なるべく早めにします」
〈そうしてくれると助かる〉
「遅れそうなときは、それはそれで連絡します」
〈遅れたこと特にないじゃない〉
「量絞ってますからね……」
ブラック企業でぶっ壊した自律神経が本当に治らない。今はなんとか机の前に座って話しているけど、ダメなときは本当にダメで、一日寝ていることも珍しくないし、少し無理をすればすぐ反動が来てまた寝込む。
『たくさんやれば稼げるのか! 働け! お前昨日も寝て過ごしてたじゃないか! もっと働いて稼いで裕福になって子孫を繋げ!!』
「ちょっと黙ってて、ていうか自分のキャパ考えずに引き受けて結局できなくて納品日守れないとか、フリーランスとして完全アウトなんだよ、各所に迷惑がかかるんだよ」
さらに画面に映り込もうとする怨霊を全力でぐいぐい押し返していたら、萌木さんから声がかかった。
〈あのさ、余裕納品は本当に大事なんだけどさ、和泉さんがもうちょっと安定して仕事受けてくれるようなら、僕も上に言って記事単価上げられるんだよ? そっちも実績積めるしさ〉
こういうことを相手から言ってくれるのは本当にありがたい。仕事柄いろいろな編集と接しているが、はっきり言って稀有な人間だ。萌木さんはこういうことを言ってくれる人だから、なるべく関係をよくしておきたいのだが。
続き
「まあそうなんですが……やりたい気持ちはあるんですけども」
〈和泉さんは最初から構成も文章もしっかりしてるし、調査力も高いし、量を頼めるならありがたいんだけど〉
『働け! もっと働いて稼げ!!』
「頼むから黙って。すみません萌木さん、やりたい気持ちはすごくあるんですが、まだ体追いつかなくて」
〈そう……まあしっかり療養してね。増やせそうだったら相談してよ〉
「ありがとうございます、本当にありがたいです」
俺は頭を下げる。たぶん映像なしの音声だけのやり取りでも下げていたと思う。
自律神経が死んで在宅仕事しかできなくなり、消去法で始めたライター業だが、書いたものは意外と高く評価してもらえている。ブラック企業では死ぬほど業務を積み上げられてもそれをこなすのが当たり前であり、全く評価はなかったし、もちろん給料にも反映されなかった。
だから、評価がもらえている今、できる仕事はなるべく引き受けたいけれど、悲しいことに体がついてこない。
その後、萌木さんと細かいところを詰めて、打ち合わせはお開きになった。
『取引は済んだのか! 決まった通り働いてすぐ金をもらえ!』
怨霊が黒い一反木綿のような元の姿になってがなってきたが、できない相談だった。
「……エネルギー切れたからもう休む」
『はあ!?』
「今日もあんまり調子よくないんだよ……打ち合わせの予定は前々から決まってたから頑張ってたけど、もうダメだ、今日は店仕舞い」
『……』
怨霊は首を傾げた。
『お前、外に働きにも行かずによく寝てるから、怠けてると思ってたが、もしかして病気なのか?』
「まあ……そう言っていいかな。自律神経失調症って正式な病名じゃないけど」
『難しい病気なのか?』
怨霊は不思議そうに聞く。幽霊に体調を心配されているというのも変な話だが、聞かれたことに答える以上のことに頭が回らなかった。
「パキッと効く治療法がないという意味ではね……規則正しく生活してちゃんとしたもの食べるくらいしかない」
『…………』
怨霊は考え込んだ。
『病気を治せば、たくさん働いて稼げるのか? 稼げるようになったら子孫を繋ぐか?』
「子孫はともかく、今よりは仕事増やせるから収入は増えると思う」
『じゃあまず病気を治せ! 寝ろ! 布団に行け!』
「言われなくても寝る……」
椅子から立ち上がって布団まで行こうとしたら、怨霊が俺の体を持ち上げて布団まで引きずりだした。
「いや自分で行けるから」
『速やかに寝ろ!』
「あんた力すごいな……」
引きずられるどころか体が宙に浮いた。そのまま布団に放られる。
『おい何だこの煎餅布団は! こんなところで寝たら治るものも治らんぞ!』
「いいから寝かせて」
『ワシは少なくともお前を七代祟るんだ! なんとしてでもお前を治して子孫を繋がせるぞ! もっと柔らかい布団に寝かせるからな!』
「俺が起きてられる時に布団干してくれるだけで十分なんで寝かせてください……」
体が治ったとしても、ライター業なんてよっぽど売れないと収入は悲惨なので俺が末代なのは変わらないと思うけれど、柔らかい布団で寝たいという気持ちはあるので、そこについてはもう何も言わなかった。
2024-03-06 18:44:22 一子𝑺𝒖𝒏の投稿
ikkiiki1104@misskey.io
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2024-03-06 18:57:11 「にゃんぷっぷーまつり」主催運営の投稿
nyanpuppu_only@misskey.io
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2024-03-01 11:10:49 志野の投稿
snxas@misskey.io
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『子々孫々まで祟りたい』第1話
すっ転んで近所の祠(祟る)に直撃して壊してしまったら家に怨霊が出てきた。黒く不定形で人の姿すらしていない『それ』はやはり俺を祟るために来たらしい。
『ようもワシを害したな、子々孫々まで祟ってやるわ』
怨霊は大口を開けて牙を剝いた。何かを食い殺すことはできるのかもしれない。でも子々孫々とか言われてもな……
「いや、そんなこと言われても」
『末代まで恐怖に打ち震えるがいい……!』
「たぶん俺で末代だし」
真っ黒い怨霊の、つり上がった目が一瞬見開かれた。
『は?』
「だってさ、金ないし、相手いないし、モテないから作りようがないし……」
『お前そんなに金ないの!?』
「びっくりするほどない。そもそも若年層が貧乏な今の日本で結婚して子供作るとか大変すぎる」
フリーのWEBライターと言えば聞こえはいいが、バイトすらしていない現状だと無職一歩手前である。
『いや、でも親戚のツテとか職場のツテとか見合いとか』
怨霊がなぜかあせり始めたが、いつの時代の話だ。
「ないよそんなもん、令和の時代に」
『時代変わりすぎと違うか!?』
「とにかく金ないし、俺で末代だよ。奨学金返さないといけないから借金持ちでもあるし、今の身体だと普通に会社勤め出来る体力もないから安定した収入なんて無縁だし、モテないし」
『ワシ少なくとも七代祟るつもりで来たんだぞ! 力の使い所に困るわ!』
「そんなこと言われても」
怨霊は頭を抱えて焦りだした。ちなみに怨霊
の見た目は毛羽立った一反木綿を黒くした感じで、目と口と手はあるが鼻は見当たらない。
怨霊が抱えていた頭を話して言った。
『お前、見た目がいいわけじゃないけど別にそう悪くもないぞ、ちょっと絶望しすぎと違うか? それに人間ってもっと繁殖に血道を上げるものと違うか? 性欲ないのか?』
「ないわけじゃないけど」
正直に答えると悪霊は色めき立った。
『じゃあ子供を作れ! 子孫を残せ! 七代続け!!』
「今は性欲解消する手段なんてたくさんあるし、経済的事情でちゃんとした生育環境を用意できないのに性欲に任せて子供作るとか無責任だと思う」
そもそも相手がいないので性欲に任せて子作り自体ができないわけだが、ちゃんと育てられないのに子供を作るのはよくないというのは正直な思いだ。
『ええー、子供なんてたくさん作って出来のいいのが一人二人できればそれでいいもんじゃろ』
「たくさんとか、育てるの無理だよ、それに今は少産少死の時代」
『時代の変化についていけん……』
悪霊は再び頭を抱えた。
『うーん……つまり、話をまとめると、お前は金があって、女にモテれば子供を作るわけだな』
「いやそんな単純なもんでもないけど……経済的に苦しいのは確か」
自由業は不安定なのだ。体を壊して外に勤めることができなくなり、在宅仕事を選ばざるを得なかった人間なので、体力的にバリバリ働くということも難しいし。
『よし、ワシの財産をくれてやる』
「はい!?」
『祠の近くに隠してあるのだ。それを使えばお前も即子孫を作れるだろう』
「えーと、祠の周りって私有地だったと思うから、それ掘り起こしてもその土地の所有者のものになるんじゃないかな」
『適当な場所で拾ったことにしろ!』
「拾得物扱いだとしても、俺のものになるまで3ヶ月かかるし、ある程度以上の金額だと所得税持ってかれるから手元に残るの意外と少ないと思うんだけど」
『くそっうまくいかん!』
「でも3ヶ月先でも収入があるのは嬉しいので、ある場所教えてください」
『子孫を作るのに使えよ!』
「金額によるかな……」
怨霊の隠し財産は小判1枚で、しょぼいと思ったけど奨学金を返すのには十分な金額だった。
『借金がなくなったのだから、これで子孫を作れるだろう作れ』
「いや、支出は減ったけど収入相変わらずだから貧乏なままだよ」
『くそっうまくいかん!!』
#子々孫々まで祟りたい
2話 まずはゆっくり寝かせたい(20220508初出)
なぜ俺は、ヤの付く自由業を絵に描いたようなおっさんとともにリモート打ち合わせに臨んでいるんだろうか。威圧感がすごい。いや俺に向けられる威圧感には慣れたけど画面の先に向けられる圧がすごい。
おっさんがささやく。
『これでお前の取り分が増えないようだったら、取引先とやらにも祟ってやるからな』
こいつは俺の子々孫々まで祟ると宣言している怨霊である。割と変幻自在らしい。俺が子々孫々を作りそうにない貧乏なので、『まずお前の実入りを増やす。渡す金を増やせとお前の取引先を脅す』などと宣言してきた。
「やめて。てか変なことすると逆に減る可能性があるからやめて。仕事自体もらえなくなる可能性があるからやめて」
俺は必死で怨霊を押して画面の外に追いやろうとしたが、力が違いすぎてうまくいかなかった。
俺の仕事はフリーのWebライターだ。仕事が取れないと無職と同等の身分である。取引先との関係は大事なのだ。
『なんで打ち合わせが画面越しなんだ。対面ならもっと圧力がかけられるのに』
「あっち九州でここ神奈川なんだから、直接会うなんてコストかかりすぎるんだよ。もうそろそろ時間だから黙って頼むから」
俺の言葉を待っていたかのように、待機中だった画面が変わり、壮年の男性が映った。割と長いこと世話になっている編集者件兼ライターさんである。
〈どうもこんにちは、調子どうです? 和泉さん〉
「まあ、ぼちぼちです」
〈あれ? なんか部屋に他の人いる? ルームシェア始めたの?〉
「いや、ルームメイトでもなんでもありませんね……こないだ私とぶつかって、壊れたから賠償金を払えって言ってる人なんですけど、こっちに支払い能力がなさすぎるってわかったら稼げってうるさくて」
『もう少し他の説明の仕方ないのかお前』
怨霊に呆れられるという実績を解除した。俺としては普通に穏便に相手と話したいから無視するが。
「本当にすみません今日は萌木さんと仕事の話だって言ったらこいつ萌木さんに圧をかけて実入りを増やさせるって張り切って部屋に陣取ってきて私の腕力的に止められなかったんですけど私の気持ち的にはそういうつもりは一切ないので無視を貫いていただけると大変助かります本当にすみません」
一息で言い切ると、萌木さんは大変困惑した顔をした。無理もない。
〈そ、そう……まあ今日は部外者に漏れたらうるさいことは特に話さないからいいけど。でも一応聞いても言いふらさないでって言っておいて〉
「わかりました」
〈じゃあ、大体はこないだの納品終わりに言った感じだけど、今月は5記事大丈夫たなんだよね?〉
「はい」
〈記事のテーマとキーワードは共有した通り。ペルソナは前回から引き続き。いつも通り、まず記事構成ができたらこっちに渡して〉
ペルソナとは、記事などのWebコンテンツの想定読者層のことだ。どの程度の知識を持ったどの年代の人間が読むか、どんなニーズを持ったどんな人間が読むかなどを細かく決める。これがないと何も文章が書けないが、Web上の市場を調べ直した結果ペルソナに修正を加えることもたまにある。
「はい、でもまず全部のテーマで下調べして、前提から練り直したほうがいいんじゃないかってときは構成の前に連絡しますね。なるべく早めにします」
〈そうしてくれると助かる〉
「遅れそうなときは、それはそれで連絡します」
〈遅れたこと特にないじゃない〉
「量絞ってますからね……」
ブラック企業でぶっ壊した自律神経が本当に治らない。今はなんとか机の前に座って話しているけど、ダメなときは本当にダメで、一日寝ていることも珍しくないし、少し無理をすればすぐ反動が来てまた寝込む。
『たくさんやれば稼げるのか! 働け! お前昨日も寝て過ごしてたじゃないか! もっと働いて稼いで裕福になって子孫を繋げ!!』
「ちょっと黙ってて、ていうか自分のキャパ考えずに引き受けて結局できなくて納品日守れないとか、フリーランスとして完全アウトなんだよ、各所に迷惑がかかるんだよ」
さらに画面に映り込もうとする怨霊を全力でぐいぐい押し返していたら、萌木さんから声がかかった。
〈あのさ、余裕納品は本当に大事なんだけどさ、和泉さんがもうちょっと安定して仕事受けてくれるようなら、僕も上に言って記事単価上げられるんだよ? そっちも実績積めるしさ〉
こういうことを相手から言ってくれるのは本当にありがたい。仕事柄いろいろな編集と接しているが、はっきり言って稀有な人間だ。萌木さんはこういうことを言ってくれる人だから、なるべく関係をよくしておきたいのだが。
続き
「まあそうなんですが……やりたい気持ちはあるんですけども」
〈和泉さんは最初から構成も文章もしっかりしてるし、調査力も高いし、量を頼めるならありがたいんだけど〉
『働け! もっと働いて稼げ!!』
「頼むから黙って。すみません萌木さん、やりたい気持ちはすごくあるんですが、まだ体追いつかなくて」
〈そう……まあしっかり療養してね。増やせそうだったら相談してよ〉
「ありがとうございます、本当にありがたいです」
俺は頭を下げる。たぶん映像なしの音声だけのやり取りでも下げていたと思う。
自律神経が死んで在宅仕事しかできなくなり、消去法で始めたライター業だが、書いたものは意外と高く評価してもらえている。ブラック企業では死ぬほど業務を積み上げられてもそれをこなすのが当たり前であり、全く評価はなかったし、もちろん給料にも反映されなかった。
だから、評価がもらえている今、できる仕事はなるべく引き受けたいけれど、悲しいことに体がついてこない。
その後、萌木さんと細かいところを詰めて、打ち合わせはお開きになった。
『取引は済んだのか! 決まった通り働いてすぐ金をもらえ!』
怨霊が黒い一反木綿のような元の姿になってがなってきたが、できない相談だった。
「……エネルギー切れたからもう休む」
『はあ!?』
「今日もあんまり調子よくないんだよ……打ち合わせの予定は前々から決まってたから頑張ってたけど、もうダメだ、今日は店仕舞い」
『……』
怨霊は首を傾げた。
『お前、外に働きにも行かずによく寝てるから、怠けてると思ってたが、もしかして病気なのか?』
「まあ……そう言っていいかな。自律神経失調症って正式な病名じゃないけど」
『難しい病気なのか?』
怨霊は不思議そうに聞く。幽霊に体調を心配されているというのも変な話だが、聞かれたことに答える以上のことに頭が回らなかった。
「パキッと効く治療法がないという意味ではね……規則正しく生活してちゃんとしたもの食べるくらいしかない」
『…………』
怨霊は考え込んだ。
『病気を治せば、たくさん働いて稼げるのか? 稼げるようになったら子孫を繋ぐか?』
「子孫はともかく、今よりは仕事増やせるから収入は増えると思う」
『じゃあまず病気を治せ! 寝ろ! 布団に行け!』
「言われなくても寝る……」
椅子から立ち上がって布団まで行こうとしたら、怨霊が俺の体を持ち上げて布団まで引きずりだした。
「いや自分で行けるから」
『速やかに寝ろ!』
「あんた力すごいな……」
引きずられるどころか体が宙に浮いた。そのまま布団に放られる。
『おい何だこの煎餅布団は! こんなところで寝たら治るものも治らんぞ!』
「いいから寝かせて」
『ワシは少なくともお前を七代祟るんだ! なんとしてでもお前を治して子孫を繋がせるぞ! もっと柔らかい布団に寝かせるからな!』
「俺が起きてられる時に布団干してくれるだけで十分なんで寝かせてください……」
体が治ったとしても、ライター業なんてよっぽど売れないと収入は悲惨なので俺が末代なのは変わらないと思うけれど、柔らかい布団で寝たいという気持ちはあるので、そこについてはもう何も言わなかった。
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2024-03-06 21:59:06 じんらいむの投稿
gin_bergamot@misskey.design
このアカウントは、notestockで公開設定になっていません。
2024-03-06 22:32:35 じんらいむの投稿
gin_bergamot@misskey.design
このアカウントは、notestockで公開設定になっていません。
2024-03-06 22:53:56 堀出井靖水の投稿
horideiyasumi@misskey.io
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2024-03-06 23:23:51
丸毛鈴
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2024-03-07 00:23:42 tmy
148(5/26)E61bの投稿
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2024-03-07 01:37:02 T長 スマ逆&しをぼく全②巻の投稿
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2024-03-07 02:32:42 小林素顔🔞
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2023-06-20 08:01:40 小林素顔🔞
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2024-03-07 04:16:47 秀の投稿
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『子々孫々まで祟りたい』第1話
すっ転んで近所の祠(祟る)に直撃して壊してしまったら家に怨霊が出てきた。黒く不定形で人の姿すらしていない『それ』はやはり俺を祟るために来たらしい。
『ようもワシを害したな、子々孫々まで祟ってやるわ』
怨霊は大口を開けて牙を剝いた。何かを食い殺すことはできるのかもしれない。でも子々孫々とか言われてもな……
「いや、そんなこと言われても」
『末代まで恐怖に打ち震えるがいい……!』
「たぶん俺で末代だし」
真っ黒い怨霊の、つり上がった目が一瞬見開かれた。
『は?』
「だってさ、金ないし、相手いないし、モテないから作りようがないし……」
『お前そんなに金ないの!?』
「びっくりするほどない。そもそも若年層が貧乏な今の日本で結婚して子供作るとか大変すぎる」
フリーのWEBライターと言えば聞こえはいいが、バイトすらしていない現状だと無職一歩手前である。
『いや、でも親戚のツテとか職場のツテとか見合いとか』
怨霊がなぜかあせり始めたが、いつの時代の話だ。
「ないよそんなもん、令和の時代に」
『時代変わりすぎと違うか!?』
「とにかく金ないし、俺で末代だよ。奨学金返さないといけないから借金持ちでもあるし、今の身体だと普通に会社勤め出来る体力もないから安定した収入なんて無縁だし、モテないし」
『ワシ少なくとも七代祟るつもりで来たんだぞ! 力の使い所に困るわ!』
「そんなこと言われても」
怨霊は頭を抱えて焦りだした。ちなみに怨霊
の見た目は毛羽立った一反木綿を黒くした感じで、目と口と手はあるが鼻は見当たらない。
怨霊が抱えていた頭を話して言った。
『お前、見た目がいいわけじゃないけど別にそう悪くもないぞ、ちょっと絶望しすぎと違うか? それに人間ってもっと繁殖に血道を上げるものと違うか? 性欲ないのか?』
「ないわけじゃないけど」
正直に答えると悪霊は色めき立った。
『じゃあ子供を作れ! 子孫を残せ! 七代続け!!』
「今は性欲解消する手段なんてたくさんあるし、経済的事情でちゃんとした生育環境を用意できないのに性欲に任せて子供作るとか無責任だと思う」
そもそも相手がいないので性欲に任せて子作り自体ができないわけだが、ちゃんと育てられないのに子供を作るのはよくないというのは正直な思いだ。
『ええー、子供なんてたくさん作って出来のいいのが一人二人できればそれでいいもんじゃろ』
「たくさんとか、育てるの無理だよ、それに今は少産少死の時代」
『時代の変化についていけん……』
悪霊は再び頭を抱えた。
『うーん……つまり、話をまとめると、お前は金があって、女にモテれば子供を作るわけだな』
「いやそんな単純なもんでもないけど……経済的に苦しいのは確か」
自由業は不安定なのだ。体を壊して外に勤めることができなくなり、在宅仕事を選ばざるを得なかった人間なので、体力的にバリバリ働くということも難しいし。
『よし、ワシの財産をくれてやる』
「はい!?」
『祠の近くに隠してあるのだ。それを使えばお前も即子孫を作れるだろう』
「えーと、祠の周りって私有地だったと思うから、それ掘り起こしてもその土地の所有者のものになるんじゃないかな」
『適当な場所で拾ったことにしろ!』
「拾得物扱いだとしても、俺のものになるまで3ヶ月かかるし、ある程度以上の金額だと所得税持ってかれるから手元に残るの意外と少ないと思うんだけど」
『くそっうまくいかん!』
「でも3ヶ月先でも収入があるのは嬉しいので、ある場所教えてください」
『子孫を作るのに使えよ!』
「金額によるかな……」
怨霊の隠し財産は小判1枚で、しょぼいと思ったけど奨学金を返すのには十分な金額だった。
『借金がなくなったのだから、これで子孫を作れるだろう作れ』
「いや、支出は減ったけど収入相変わらずだから貧乏なままだよ」
『くそっうまくいかん!!』
#子々孫々まで祟りたい
2話 まずはゆっくり寝かせたい(20220508初出)
なぜ俺は、ヤの付く自由業を絵に描いたようなおっさんとともにリモート打ち合わせに臨んでいるんだろうか。威圧感がすごい。いや俺に向けられる威圧感には慣れたけど画面の先に向けられる圧がすごい。
おっさんがささやく。
『これでお前の取り分が増えないようだったら、取引先とやらにも祟ってやるからな』
こいつは俺の子々孫々まで祟ると宣言している怨霊である。割と変幻自在らしい。俺が子々孫々を作りそうにない貧乏なので、『まずお前の実入りを増やす。渡す金を増やせとお前の取引先を脅す』などと宣言してきた。
「やめて。てか変なことすると逆に減る可能性があるからやめて。仕事自体もらえなくなる可能性があるからやめて」
俺は必死で怨霊を押して画面の外に追いやろうとしたが、力が違いすぎてうまくいかなかった。
俺の仕事はフリーのWebライターだ。仕事が取れないと無職と同等の身分である。取引先との関係は大事なのだ。
『なんで打ち合わせが画面越しなんだ。対面ならもっと圧力がかけられるのに』
「あっち九州でここ神奈川なんだから、直接会うなんてコストかかりすぎるんだよ。もうそろそろ時間だから黙って頼むから」
俺の言葉を待っていたかのように、待機中だった画面が変わり、壮年の男性が映った。割と長いこと世話になっている編集者件兼ライターさんである。
〈どうもこんにちは、調子どうです? 和泉さん〉
「まあ、ぼちぼちです」
〈あれ? なんか部屋に他の人いる? ルームシェア始めたの?〉
「いや、ルームメイトでもなんでもありませんね……こないだ私とぶつかって、壊れたから賠償金を払えって言ってる人なんですけど、こっちに支払い能力がなさすぎるってわかったら稼げってうるさくて」
『もう少し他の説明の仕方ないのかお前』
怨霊に呆れられるという実績を解除した。俺としては普通に穏便に相手と話したいから無視するが。
「本当にすみません今日は萌木さんと仕事の話だって言ったらこいつ萌木さんに圧をかけて実入りを増やさせるって張り切って部屋に陣取ってきて私の腕力的に止められなかったんですけど私の気持ち的にはそういうつもりは一切ないので無視を貫いていただけると大変助かります本当にすみません」
一息で言い切ると、萌木さんは大変困惑した顔をした。無理もない。
〈そ、そう……まあ今日は部外者に漏れたらうるさいことは特に話さないからいいけど。でも一応聞いても言いふらさないでって言っておいて〉
「わかりました」
〈じゃあ、大体はこないだの納品終わりに言った感じだけど、今月は5記事大丈夫たなんだよね?〉
「はい」
〈記事のテーマとキーワードは共有した通り。ペルソナは前回から引き続き。いつも通り、まず記事構成ができたらこっちに渡して〉
ペルソナとは、記事などのWebコンテンツの想定読者層のことだ。どの程度の知識を持ったどの年代の人間が読むか、どんなニーズを持ったどんな人間が読むかなどを細かく決める。これがないと何も文章が書けないが、Web上の市場を調べ直した結果ペルソナに修正を加えることもたまにある。
「はい、でもまず全部のテーマで下調べして、前提から練り直したほうがいいんじゃないかってときは構成の前に連絡しますね。なるべく早めにします」
〈そうしてくれると助かる〉
「遅れそうなときは、それはそれで連絡します」
〈遅れたこと特にないじゃない〉
「量絞ってますからね……」
ブラック企業でぶっ壊した自律神経が本当に治らない。今はなんとか机の前に座って話しているけど、ダメなときは本当にダメで、一日寝ていることも珍しくないし、少し無理をすればすぐ反動が来てまた寝込む。
『たくさんやれば稼げるのか! 働け! お前昨日も寝て過ごしてたじゃないか! もっと働いて稼いで裕福になって子孫を繋げ!!』
「ちょっと黙ってて、ていうか自分のキャパ考えずに引き受けて結局できなくて納品日守れないとか、フリーランスとして完全アウトなんだよ、各所に迷惑がかかるんだよ」
さらに画面に映り込もうとする怨霊を全力でぐいぐい押し返していたら、萌木さんから声がかかった。
〈あのさ、余裕納品は本当に大事なんだけどさ、和泉さんがもうちょっと安定して仕事受けてくれるようなら、僕も上に言って記事単価上げられるんだよ? そっちも実績積めるしさ〉
こういうことを相手から言ってくれるのは本当にありがたい。仕事柄いろいろな編集と接しているが、はっきり言って稀有な人間だ。萌木さんはこういうことを言ってくれる人だから、なるべく関係をよくしておきたいのだが。
続き
「まあそうなんですが……やりたい気持ちはあるんですけども」
〈和泉さんは最初から構成も文章もしっかりしてるし、調査力も高いし、量を頼めるならありがたいんだけど〉
『働け! もっと働いて稼げ!!』
「頼むから黙って。すみません萌木さん、やりたい気持ちはすごくあるんですが、まだ体追いつかなくて」
〈そう……まあしっかり療養してね。増やせそうだったら相談してよ〉
「ありがとうございます、本当にありがたいです」
俺は頭を下げる。たぶん映像なしの音声だけのやり取りでも下げていたと思う。
自律神経が死んで在宅仕事しかできなくなり、消去法で始めたライター業だが、書いたものは意外と高く評価してもらえている。ブラック企業では死ぬほど業務を積み上げられてもそれをこなすのが当たり前であり、全く評価はなかったし、もちろん給料にも反映されなかった。
だから、評価がもらえている今、できる仕事はなるべく引き受けたいけれど、悲しいことに体がついてこない。
その後、萌木さんと細かいところを詰めて、打ち合わせはお開きになった。
『取引は済んだのか! 決まった通り働いてすぐ金をもらえ!』
怨霊が黒い一反木綿のような元の姿になってがなってきたが、できない相談だった。
「……エネルギー切れたからもう休む」
『はあ!?』
「今日もあんまり調子よくないんだよ……打ち合わせの予定は前々から決まってたから頑張ってたけど、もうダメだ、今日は店仕舞い」
『……』
怨霊は首を傾げた。
『お前、外に働きにも行かずによく寝てるから、怠けてると思ってたが、もしかして病気なのか?』
「まあ……そう言っていいかな。自律神経失調症って正式な病名じゃないけど」
『難しい病気なのか?』
怨霊は不思議そうに聞く。幽霊に体調を心配されているというのも変な話だが、聞かれたことに答える以上のことに頭が回らなかった。
「パキッと効く治療法がないという意味ではね……規則正しく生活してちゃんとしたもの食べるくらいしかない」
『…………』
怨霊は考え込んだ。
『病気を治せば、たくさん働いて稼げるのか? 稼げるようになったら子孫を繋ぐか?』
「子孫はともかく、今よりは仕事増やせるから収入は増えると思う」
『じゃあまず病気を治せ! 寝ろ! 布団に行け!』
「言われなくても寝る……」
椅子から立ち上がって布団まで行こうとしたら、怨霊が俺の体を持ち上げて布団まで引きずりだした。
「いや自分で行けるから」
『速やかに寝ろ!』
「あんた力すごいな……」
引きずられるどころか体が宙に浮いた。そのまま布団に放られる。
『おい何だこの煎餅布団は! こんなところで寝たら治るものも治らんぞ!』
「いいから寝かせて」
『ワシは少なくともお前を七代祟るんだ! なんとしてでもお前を治して子孫を繋がせるぞ! もっと柔らかい布団に寝かせるからな!』
「俺が起きてられる時に布団干してくれるだけで十分なんで寝かせてください……」
体が治ったとしても、ライター業なんてよっぽど売れないと収入は悲惨なので俺が末代なのは変わらないと思うけれど、柔らかい布団で寝たいという気持ちはあるので、そこについてはもう何も言わなかった。
子々孫々まで祟りたい(種・zingibercolor) | 小説投稿サイトノベルアップ+
自己紹介をしあいたい 下 - 子々孫々まで祟りたい(種・zingibercolor) - カクヨム
2024-03-07 08:12:46 一子𝑺𝒖𝒏の投稿
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2024-03-07 08:14:15 一子𝑺𝒖𝒏の投稿
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2024-03-07 07:54:43
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2024-03-07 07:48:10 村上さんの投稿
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『子々孫々まで祟りたい』第1話
すっ転んで近所の祠(祟る)に直撃して壊してしまったら家に怨霊が出てきた。黒く不定形で人の姿すらしていない『それ』はやはり俺を祟るために来たらしい。
『ようもワシを害したな、子々孫々まで祟ってやるわ』
怨霊は大口を開けて牙を剝いた。何かを食い殺すことはできるのかもしれない。でも子々孫々とか言われてもな……
「いや、そんなこと言われても」
『末代まで恐怖に打ち震えるがいい……!』
「たぶん俺で末代だし」
真っ黒い怨霊の、つり上がった目が一瞬見開かれた。
『は?』
「だってさ、金ないし、相手いないし、モテないから作りようがないし……」
『お前そんなに金ないの!?』
「びっくりするほどない。そもそも若年層が貧乏な今の日本で結婚して子供作るとか大変すぎる」
フリーのWEBライターと言えば聞こえはいいが、バイトすらしていない現状だと無職一歩手前である。
『いや、でも親戚のツテとか職場のツテとか見合いとか』
怨霊がなぜかあせり始めたが、いつの時代の話だ。
「ないよそんなもん、令和の時代に」
『時代変わりすぎと違うか!?』
「とにかく金ないし、俺で末代だよ。奨学金返さないといけないから借金持ちでもあるし、今の身体だと普通に会社勤め出来る体力もないから安定した収入なんて無縁だし、モテないし」
『ワシ少なくとも七代祟るつもりで来たんだぞ! 力の使い所に困るわ!』
「そんなこと言われても」
怨霊は頭を抱えて焦りだした。ちなみに怨霊
の見た目は毛羽立った一反木綿を黒くした感じで、目と口と手はあるが鼻は見当たらない。
怨霊が抱えていた頭を話して言った。
『お前、見た目がいいわけじゃないけど別にそう悪くもないぞ、ちょっと絶望しすぎと違うか? それに人間ってもっと繁殖に血道を上げるものと違うか? 性欲ないのか?』
「ないわけじゃないけど」
正直に答えると悪霊は色めき立った。
『じゃあ子供を作れ! 子孫を残せ! 七代続け!!』
「今は性欲解消する手段なんてたくさんあるし、経済的事情でちゃんとした生育環境を用意できないのに性欲に任せて子供作るとか無責任だと思う」
そもそも相手がいないので性欲に任せて子作り自体ができないわけだが、ちゃんと育てられないのに子供を作るのはよくないというのは正直な思いだ。
『ええー、子供なんてたくさん作って出来のいいのが一人二人できればそれでいいもんじゃろ』
「たくさんとか、育てるの無理だよ、それに今は少産少死の時代」
『時代の変化についていけん……』
悪霊は再び頭を抱えた。
『うーん……つまり、話をまとめると、お前は金があって、女にモテれば子供を作るわけだな』
「いやそんな単純なもんでもないけど……経済的に苦しいのは確か」
自由業は不安定なのだ。体を壊して外に勤めることができなくなり、在宅仕事を選ばざるを得なかった人間なので、体力的にバリバリ働くということも難しいし。
『よし、ワシの財産をくれてやる』
「はい!?」
『祠の近くに隠してあるのだ。それを使えばお前も即子孫を作れるだろう』
「えーと、祠の周りって私有地だったと思うから、それ掘り起こしてもその土地の所有者のものになるんじゃないかな」
『適当な場所で拾ったことにしろ!』
「拾得物扱いだとしても、俺のものになるまで3ヶ月かかるし、ある程度以上の金額だと所得税持ってかれるから手元に残るの意外と少ないと思うんだけど」
『くそっうまくいかん!』
「でも3ヶ月先でも収入があるのは嬉しいので、ある場所教えてください」
『子孫を作るのに使えよ!』
「金額によるかな……」
怨霊の隠し財産は小判1枚で、しょぼいと思ったけど奨学金を返すのには十分な金額だった。
『借金がなくなったのだから、これで子孫を作れるだろう作れ』
「いや、支出は減ったけど収入相変わらずだから貧乏なままだよ」
『くそっうまくいかん!!』
#子々孫々まで祟りたい
2話 まずはゆっくり寝かせたい(20220508初出)
なぜ俺は、ヤの付く自由業を絵に描いたようなおっさんとともにリモート打ち合わせに臨んでいるんだろうか。威圧感がすごい。いや俺に向けられる威圧感には慣れたけど画面の先に向けられる圧がすごい。
おっさんがささやく。
『これでお前の取り分が増えないようだったら、取引先とやらにも祟ってやるからな』
こいつは俺の子々孫々まで祟ると宣言している怨霊である。割と変幻自在らしい。俺が子々孫々を作りそうにない貧乏なので、『まずお前の実入りを増やす。渡す金を増やせとお前の取引先を脅す』などと宣言してきた。
「やめて。てか変なことすると逆に減る可能性があるからやめて。仕事自体もらえなくなる可能性があるからやめて」
俺は必死で怨霊を押して画面の外に追いやろうとしたが、力が違いすぎてうまくいかなかった。
俺の仕事はフリーのWebライターだ。仕事が取れないと無職と同等の身分である。取引先との関係は大事なのだ。
『なんで打ち合わせが画面越しなんだ。対面ならもっと圧力がかけられるのに』
「あっち九州でここ神奈川なんだから、直接会うなんてコストかかりすぎるんだよ。もうそろそろ時間だから黙って頼むから」
俺の言葉を待っていたかのように、待機中だった画面が変わり、壮年の男性が映った。割と長いこと世話になっている編集者件兼ライターさんである。
〈どうもこんにちは、調子どうです? 和泉さん〉
「まあ、ぼちぼちです」
〈あれ? なんか部屋に他の人いる? ルームシェア始めたの?〉
「いや、ルームメイトでもなんでもありませんね……こないだ私とぶつかって、壊れたから賠償金を払えって言ってる人なんですけど、こっちに支払い能力がなさすぎるってわかったら稼げってうるさくて」
『もう少し他の説明の仕方ないのかお前』
怨霊に呆れられるという実績を解除した。俺としては普通に穏便に相手と話したいから無視するが。
「本当にすみません今日は萌木さんと仕事の話だって言ったらこいつ萌木さんに圧をかけて実入りを増やさせるって張り切って部屋に陣取ってきて私の腕力的に止められなかったんですけど私の気持ち的にはそういうつもりは一切ないので無視を貫いていただけると大変助かります本当にすみません」
一息で言い切ると、萌木さんは大変困惑した顔をした。無理もない。
〈そ、そう……まあ今日は部外者に漏れたらうるさいことは特に話さないからいいけど。でも一応聞いても言いふらさないでって言っておいて〉
「わかりました」
〈じゃあ、大体はこないだの納品終わりに言った感じだけど、今月は5記事大丈夫たなんだよね?〉
「はい」
〈記事のテーマとキーワードは共有した通り。ペルソナは前回から引き続き。いつも通り、まず記事構成ができたらこっちに渡して〉
ペルソナとは、記事などのWebコンテンツの想定読者層のことだ。どの程度の知識を持ったどの年代の人間が読むか、どんなニーズを持ったどんな人間が読むかなどを細かく決める。これがないと何も文章が書けないが、Web上の市場を調べ直した結果ペルソナに修正を加えることもたまにある。
「はい、でもまず全部のテーマで下調べして、前提から練り直したほうがいいんじゃないかってときは構成の前に連絡しますね。なるべく早めにします」
〈そうしてくれると助かる〉
「遅れそうなときは、それはそれで連絡します」
〈遅れたこと特にないじゃない〉
「量絞ってますからね……」
ブラック企業でぶっ壊した自律神経が本当に治らない。今はなんとか机の前に座って話しているけど、ダメなときは本当にダメで、一日寝ていることも珍しくないし、少し無理をすればすぐ反動が来てまた寝込む。
『たくさんやれば稼げるのか! 働け! お前昨日も寝て過ごしてたじゃないか! もっと働いて稼いで裕福になって子孫を繋げ!!』
「ちょっと黙ってて、ていうか自分のキャパ考えずに引き受けて結局できなくて納品日守れないとか、フリーランスとして完全アウトなんだよ、各所に迷惑がかかるんだよ」
さらに画面に映り込もうとする怨霊を全力でぐいぐい押し返していたら、萌木さんから声がかかった。
〈あのさ、余裕納品は本当に大事なんだけどさ、和泉さんがもうちょっと安定して仕事受けてくれるようなら、僕も上に言って記事単価上げられるんだよ? そっちも実績積めるしさ〉
こういうことを相手から言ってくれるのは本当にありがたい。仕事柄いろいろな編集と接しているが、はっきり言って稀有な人間だ。萌木さんはこういうことを言ってくれる人だから、なるべく関係をよくしておきたいのだが。
続き
「まあそうなんですが……やりたい気持ちはあるんですけども」
〈和泉さんは最初から構成も文章もしっかりしてるし、調査力も高いし、量を頼めるならありがたいんだけど〉
『働け! もっと働いて稼げ!!』
「頼むから黙って。すみません萌木さん、やりたい気持ちはすごくあるんですが、まだ体追いつかなくて」
〈そう……まあしっかり療養してね。増やせそうだったら相談してよ〉
「ありがとうございます、本当にありがたいです」
俺は頭を下げる。たぶん映像なしの音声だけのやり取りでも下げていたと思う。
自律神経が死んで在宅仕事しかできなくなり、消去法で始めたライター業だが、書いたものは意外と高く評価してもらえている。ブラック企業では死ぬほど業務を積み上げられてもそれをこなすのが当たり前であり、全く評価はなかったし、もちろん給料にも反映されなかった。
だから、評価がもらえている今、できる仕事はなるべく引き受けたいけれど、悲しいことに体がついてこない。
その後、萌木さんと細かいところを詰めて、打ち合わせはお開きになった。
『取引は済んだのか! 決まった通り働いてすぐ金をもらえ!』
怨霊が黒い一反木綿のような元の姿になってがなってきたが、できない相談だった。
「……エネルギー切れたからもう休む」
『はあ!?』
「今日もあんまり調子よくないんだよ……打ち合わせの予定は前々から決まってたから頑張ってたけど、もうダメだ、今日は店仕舞い」
『……』
怨霊は首を傾げた。
『お前、外に働きにも行かずによく寝てるから、怠けてると思ってたが、もしかして病気なのか?』
「まあ……そう言っていいかな。自律神経失調症って正式な病名じゃないけど」
『難しい病気なのか?』
怨霊は不思議そうに聞く。幽霊に体調を心配されているというのも変な話だが、聞かれたことに答える以上のことに頭が回らなかった。
「パキッと効く治療法がないという意味ではね……規則正しく生活してちゃんとしたもの食べるくらいしかない」
『…………』
怨霊は考え込んだ。
『病気を治せば、たくさん働いて稼げるのか? 稼げるようになったら子孫を繋ぐか?』
「子孫はともかく、今よりは仕事増やせるから収入は増えると思う」
『じゃあまず病気を治せ! 寝ろ! 布団に行け!』
「言われなくても寝る……」
椅子から立ち上がって布団まで行こうとしたら、怨霊が俺の体を持ち上げて布団まで引きずりだした。
「いや自分で行けるから」
『速やかに寝ろ!』
「あんた力すごいな……」
引きずられるどころか体が宙に浮いた。そのまま布団に放られる。
『おい何だこの煎餅布団は! こんなところで寝たら治るものも治らんぞ!』
「いいから寝かせて」
『ワシは少なくともお前を七代祟るんだ! なんとしてでもお前を治して子孫を繋がせるぞ! もっと柔らかい布団に寝かせるからな!』
「俺が起きてられる時に布団干してくれるだけで十分なんで寝かせてください……」
体が治ったとしても、ライター業なんてよっぽど売れないと収入は悲惨なので俺が末代なのは変わらないと思うけれど、柔らかい布団で寝たいという気持ちはあるので、そこについてはもう何も言わなかった。
2024-03-06 22:07:00 綿入もこの投稿
watairi_moko@misskey.design
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午後の紅茶ハーモニーティーが見当たらなさすぎてついカッとなって箱でAmazon買いしてしまいましたが、素晴らしくおいしいので買ってよかったですわ
2024-01-17 22:02:01 高橋コヤマ
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o88tirori@misskey.design
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2024-03-07 08:54:58 しゃにすの投稿
syanisu@misskey.design
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2024-03-07 09:46:53 geek@akibablog(misskey)の投稿
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悲しめの話(猫)
9年前、心身を壊して一人暮らしとペットを買い続けるのができなくなり、飼っていた猫二人を猫好きな人にもらってもらいました
で、すごく遠距離だしもう二度と会えないと思って、つらくて、二人を渡した直後以降はもうもらってくれた人と連絡撮らなかったんですが、ずっとその猫たちを大好きで、先日「猫の寿命的に今写真もらわないともう二度とあの二人を見られないんじゃないか」と思い切って、二人をもらってくれた人に写真くれないか連絡撮ってみたら、二人の可愛い写真たくさんとともに
「悲しいお知らせなので言えなかったのですが、二人とも四年前にFIPで亡くなりました、元気な頃の写真を送ります」
と返事が来まして
ふたりとも野良だったし、多分キャリアだった、もらってくれた人の撮った写真はとても可愛くて、あの二人は幸せだったというのはとても良くわかるのですが、やはり悲しいですわね……
フリーレン原作に手を出したのですが、なんでこれガンガンじゃなくてサンデーなんですかね……ギャグにちょっと魔法陣グルグルの匂いもあるし……
2024-03-07 10:51:08 堀出井靖水の投稿
horideiyasumi@misskey.io
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フリーレンはヒンメルの恋情のわからなさからぺけったー与太話界隈ではクソボケエルフ呼ばわりされてるのですが、本当のクソボケだと自分の弟子の誕生日を覚えてプレゼントに頭を悩ますなんてしませんから、まだ大丈夫ではないかと
それはそれとしてヒンメルに対してはクソボケエルフですが(ヒンメルの死で人を知ろうと思ったからフェルンへのプレゼントに頭を絞るようになったんだろうし)
2024-03-07 11:35:14 一子𝑺𝒖𝒏の投稿
ikkiiki1104@misskey.io
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2024-03-07 11:39:25 小林素顔🔞
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sugakobaxxoo@misskey.io
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2024-03-07 11:57:37 空気入れの投稿
Kuukiire@misskey.io
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『子々孫々まで祟りたい』第1話
すっ転んで近所の祠(祟る)に直撃して壊してしまったら家に怨霊が出てきた。黒く不定形で人の姿すらしていない『それ』はやはり俺を祟るために来たらしい。
『ようもワシを害したな、子々孫々まで祟ってやるわ』
怨霊は大口を開けて牙を剝いた。何かを食い殺すことはできるのかもしれない。でも子々孫々とか言われてもな……
「いや、そんなこと言われても」
『末代まで恐怖に打ち震えるがいい……!』
「たぶん俺で末代だし」
真っ黒い怨霊の、つり上がった目が一瞬見開かれた。
『は?』
「だってさ、金ないし、相手いないし、モテないから作りようがないし……」
『お前そんなに金ないの!?』
「びっくりするほどない。そもそも若年層が貧乏な今の日本で結婚して子供作るとか大変すぎる」
フリーのWEBライターと言えば聞こえはいいが、バイトすらしていない現状だと無職一歩手前である。
『いや、でも親戚のツテとか職場のツテとか見合いとか』
怨霊がなぜかあせり始めたが、いつの時代の話だ。
「ないよそんなもん、令和の時代に」
『時代変わりすぎと違うか!?』
「とにかく金ないし、俺で末代だよ。奨学金返さないといけないから借金持ちでもあるし、今の身体だと普通に会社勤め出来る体力もないから安定した収入なんて無縁だし、モテないし」
『ワシ少なくとも七代祟るつもりで来たんだぞ! 力の使い所に困るわ!』
「そんなこと言われても」
怨霊は頭を抱えて焦りだした。ちなみに怨霊
の見た目は毛羽立った一反木綿を黒くした感じで、目と口と手はあるが鼻は見当たらない。
怨霊が抱えていた頭を話して言った。
『お前、見た目がいいわけじゃないけど別にそう悪くもないぞ、ちょっと絶望しすぎと違うか? それに人間ってもっと繁殖に血道を上げるものと違うか? 性欲ないのか?』
「ないわけじゃないけど」
正直に答えると悪霊は色めき立った。
『じゃあ子供を作れ! 子孫を残せ! 七代続け!!』
「今は性欲解消する手段なんてたくさんあるし、経済的事情でちゃんとした生育環境を用意できないのに性欲に任せて子供作るとか無責任だと思う」
そもそも相手がいないので性欲に任せて子作り自体ができないわけだが、ちゃんと育てられないのに子供を作るのはよくないというのは正直な思いだ。
『ええー、子供なんてたくさん作って出来のいいのが一人二人できればそれでいいもんじゃろ』
「たくさんとか、育てるの無理だよ、それに今は少産少死の時代」
『時代の変化についていけん……』
悪霊は再び頭を抱えた。
『うーん……つまり、話をまとめると、お前は金があって、女にモテれば子供を作るわけだな』
「いやそんな単純なもんでもないけど……経済的に苦しいのは確か」
自由業は不安定なのだ。体を壊して外に勤めることができなくなり、在宅仕事を選ばざるを得なかった人間なので、体力的にバリバリ働くということも難しいし。
『よし、ワシの財産をくれてやる』
「はい!?」
『祠の近くに隠してあるのだ。それを使えばお前も即子孫を作れるだろう』
「えーと、祠の周りって私有地だったと思うから、それ掘り起こしてもその土地の所有者のものになるんじゃないかな」
『適当な場所で拾ったことにしろ!』
「拾得物扱いだとしても、俺のものになるまで3ヶ月かかるし、ある程度以上の金額だと所得税持ってかれるから手元に残るの意外と少ないと思うんだけど」
『くそっうまくいかん!』
「でも3ヶ月先でも収入があるのは嬉しいので、ある場所教えてください」
『子孫を作るのに使えよ!』
「金額によるかな……」
怨霊の隠し財産は小判1枚で、しょぼいと思ったけど奨学金を返すのには十分な金額だった。
『借金がなくなったのだから、これで子孫を作れるだろう作れ』
「いや、支出は減ったけど収入相変わらずだから貧乏なままだよ」
『くそっうまくいかん!!』
#子々孫々まで祟りたい
2話 まずはゆっくり寝かせたい(20220508初出)
なぜ俺は、ヤの付く自由業を絵に描いたようなおっさんとともにリモート打ち合わせに臨んでいるんだろうか。威圧感がすごい。いや俺に向けられる威圧感には慣れたけど画面の先に向けられる圧がすごい。
おっさんがささやく。
『これでお前の取り分が増えないようだったら、取引先とやらにも祟ってやるからな』
こいつは俺の子々孫々まで祟ると宣言している怨霊である。割と変幻自在らしい。俺が子々孫々を作りそうにない貧乏なので、『まずお前の実入りを増やす。渡す金を増やせとお前の取引先を脅す』などと宣言してきた。
「やめて。てか変なことすると逆に減る可能性があるからやめて。仕事自体もらえなくなる可能性があるからやめて」
俺は必死で怨霊を押して画面の外に追いやろうとしたが、力が違いすぎてうまくいかなかった。
俺の仕事はフリーのWebライターだ。仕事が取れないと無職と同等の身分である。取引先との関係は大事なのだ。
『なんで打ち合わせが画面越しなんだ。対面ならもっと圧力がかけられるのに』
「あっち九州でここ神奈川なんだから、直接会うなんてコストかかりすぎるんだよ。もうそろそろ時間だから黙って頼むから」
俺の言葉を待っていたかのように、待機中だった画面が変わり、壮年の男性が映った。割と長いこと世話になっている編集者件兼ライターさんである。
〈どうもこんにちは、調子どうです? 和泉さん〉
「まあ、ぼちぼちです」
〈あれ? なんか部屋に他の人いる? ルームシェア始めたの?〉
「いや、ルームメイトでもなんでもありませんね……こないだ私とぶつかって、壊れたから賠償金を払えって言ってる人なんですけど、こっちに支払い能力がなさすぎるってわかったら稼げってうるさくて」
『もう少し他の説明の仕方ないのかお前』
怨霊に呆れられるという実績を解除した。俺としては普通に穏便に相手と話したいから無視するが。
「本当にすみません今日は萌木さんと仕事の話だって言ったらこいつ萌木さんに圧をかけて実入りを増やさせるって張り切って部屋に陣取ってきて私の腕力的に止められなかったんですけど私の気持ち的にはそういうつもりは一切ないので無視を貫いていただけると大変助かります本当にすみません」
一息で言い切ると、萌木さんは大変困惑した顔をした。無理もない。
〈そ、そう……まあ今日は部外者に漏れたらうるさいことは特に話さないからいいけど。でも一応聞いても言いふらさないでって言っておいて〉
「わかりました」
〈じゃあ、大体はこないだの納品終わりに言った感じだけど、今月は5記事大丈夫たなんだよね?〉
「はい」
〈記事のテーマとキーワードは共有した通り。ペルソナは前回から引き続き。いつも通り、まず記事構成ができたらこっちに渡して〉
ペルソナとは、記事などのWebコンテンツの想定読者層のことだ。どの程度の知識を持ったどの年代の人間が読むか、どんなニーズを持ったどんな人間が読むかなどを細かく決める。これがないと何も文章が書けないが、Web上の市場を調べ直した結果ペルソナに修正を加えることもたまにある。
「はい、でもまず全部のテーマで下調べして、前提から練り直したほうがいいんじゃないかってときは構成の前に連絡しますね。なるべく早めにします」
〈そうしてくれると助かる〉
「遅れそうなときは、それはそれで連絡します」
〈遅れたこと特にないじゃない〉
「量絞ってますからね……」
ブラック企業でぶっ壊した自律神経が本当に治らない。今はなんとか机の前に座って話しているけど、ダメなときは本当にダメで、一日寝ていることも珍しくないし、少し無理をすればすぐ反動が来てまた寝込む。
『たくさんやれば稼げるのか! 働け! お前昨日も寝て過ごしてたじゃないか! もっと働いて稼いで裕福になって子孫を繋げ!!』
「ちょっと黙ってて、ていうか自分のキャパ考えずに引き受けて結局できなくて納品日守れないとか、フリーランスとして完全アウトなんだよ、各所に迷惑がかかるんだよ」
さらに画面に映り込もうとする怨霊を全力でぐいぐい押し返していたら、萌木さんから声がかかった。
〈あのさ、余裕納品は本当に大事なんだけどさ、和泉さんがもうちょっと安定して仕事受けてくれるようなら、僕も上に言って記事単価上げられるんだよ? そっちも実績積めるしさ〉
こういうことを相手から言ってくれるのは本当にありがたい。仕事柄いろいろな編集と接しているが、はっきり言って稀有な人間だ。萌木さんはこういうことを言ってくれる人だから、なるべく関係をよくしておきたいのだが。
続き
「まあそうなんですが……やりたい気持ちはあるんですけども」
〈和泉さんは最初から構成も文章もしっかりしてるし、調査力も高いし、量を頼めるならありがたいんだけど〉
『働け! もっと働いて稼げ!!』
「頼むから黙って。すみません萌木さん、やりたい気持ちはすごくあるんですが、まだ体追いつかなくて」
〈そう……まあしっかり療養してね。増やせそうだったら相談してよ〉
「ありがとうございます、本当にありがたいです」
俺は頭を下げる。たぶん映像なしの音声だけのやり取りでも下げていたと思う。
自律神経が死んで在宅仕事しかできなくなり、消去法で始めたライター業だが、書いたものは意外と高く評価してもらえている。ブラック企業では死ぬほど業務を積み上げられてもそれをこなすのが当たり前であり、全く評価はなかったし、もちろん給料にも反映されなかった。
だから、評価がもらえている今、できる仕事はなるべく引き受けたいけれど、悲しいことに体がついてこない。
その後、萌木さんと細かいところを詰めて、打ち合わせはお開きになった。
『取引は済んだのか! 決まった通り働いてすぐ金をもらえ!』
怨霊が黒い一反木綿のような元の姿になってがなってきたが、できない相談だった。
「……エネルギー切れたからもう休む」
『はあ!?』
「今日もあんまり調子よくないんだよ……打ち合わせの予定は前々から決まってたから頑張ってたけど、もうダメだ、今日は店仕舞い」
『……』
怨霊は首を傾げた。
『お前、外に働きにも行かずによく寝てるから、怠けてると思ってたが、もしかして病気なのか?』
「まあ……そう言っていいかな。自律神経失調症って正式な病名じゃないけど」
『難しい病気なのか?』
怨霊は不思議そうに聞く。幽霊に体調を心配されているというのも変な話だが、聞かれたことに答える以上のことに頭が回らなかった。
「パキッと効く治療法がないという意味ではね……規則正しく生活してちゃんとしたもの食べるくらいしかない」
『…………』
怨霊は考え込んだ。
『病気を治せば、たくさん働いて稼げるのか? 稼げるようになったら子孫を繋ぐか?』
「子孫はともかく、今よりは仕事増やせるから収入は増えると思う」
『じゃあまず病気を治せ! 寝ろ! 布団に行け!』
「言われなくても寝る……」
椅子から立ち上がって布団まで行こうとしたら、怨霊が俺の体を持ち上げて布団まで引きずりだした。
「いや自分で行けるから」
『速やかに寝ろ!』
「あんた力すごいな……」
引きずられるどころか体が宙に浮いた。そのまま布団に放られる。
『おい何だこの煎餅布団は! こんなところで寝たら治るものも治らんぞ!』
「いいから寝かせて」
『ワシは少なくともお前を七代祟るんだ! なんとしてでもお前を治して子孫を繋がせるぞ! もっと柔らかい布団に寝かせるからな!』
「俺が起きてられる時に布団干してくれるだけで十分なんで寝かせてください……」
体が治ったとしても、ライター業なんてよっぽど売れないと収入は悲惨なので俺が末代なのは変わらないと思うけれど、柔らかい布団で寝たいという気持ちはあるので、そこについてはもう何も言わなかった。
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フリーレン二巻
「葬送のフリーレン」が魔族キラー過ぎてつけられた二つ名なのは知ってたんですが、魔族側からつけられたっぽい名前ということにかなり動揺していますわ
人食いグマくらいの意味合いじゃありませんの
2024-03-07 12:30:05 小林素顔🔞
の投稿
sugakobaxxoo@misskey.io
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フリーレン3巻
やっぱり首刈り気絶シュタルクとかがこの絵柄じゃなくて衛藤ヒロユキギャグな気がするんですよね……でもこの絵柄だから逆に息抜きになってていいような気もする……
フリーレン三巻まで読みましたが、フェルンやフリーレンのかわいさよりシュタルクが不憫な目にあった時のかわいさのほうが好みかもしれませんわ……
2024-03-07 14:07:05 林田三号
の投稿
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フリーレン4巻
すごくヒソカっぽい女の子が出てきたんですが、ぺけったーの受動喫煙でそんなにヒソカじゃないとも聞き及んでるんですよね
どんな子なんだ……
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2024-03-07 08:37:40 けだまさんの投稿
kedama3@misskey.io
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2024-03-07 08:35:23 香森銀乃
の投稿
kamori_ginno@misskey.io
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2024-03-07 17:45:10 堀出井靖水の投稿
horideiyasumi@misskey.io
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