icon


分解刑『東離劍遊紀 上之巻 掠風竊塵』(原案:虚淵玄/星海社,2024年9月)
分解刑『東離劍遊紀 下之巻 刃無鋒』(原案:虚淵玄/星海社,2024年10月)

かっっっ…………こいい。かっこいい! かっこいい!

日台合作人形劇『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』(略称「サンファン」)第1期(2016年初放送)のノベライズ版です。

なんかもう、サンファンが最初から武侠小説だったら、絶対こういう感じで出てますよね、という仕上がり。私もそんなにこの手のものたくさん読んでいるわけではないのですが、なにがそう思わせるんだろう。漢語を多用したいかにもな言い回し、文体のリズム、武術シーンの詳細な描写と、ひとつひとつの動作の意味付け、登場人物たちの行動原理の説明――。

〔つづく〕

icon

〔つづき〕

基本的に、章立てまで含めて原作の人形劇のとおり忠実に進んでいくのだけれど、ところどころに、ちょっとずつ独自要素も。特に丹翡と捲殘雲が徐々に互いを知り心を近づけていく過程にはけっこう補完が入っていて、上巻の終盤ではふたりだけで行動する長めのオリジナル展開もあり、最終的に彼らが夫婦になることへの説得力が増しているように思います。

補完と言えば、原作では第1話の最初の5分50秒で退場する丹衡(このひと好き! と思った直後に文字どおり爆発四散しちゃってたいへんショックでした)が、たびたび妹である丹翡の回想のなかで言及され、少しだけキャラ付けが上乗せされているのも嬉しい。私の妄想していた兄上解釈とはちょっと違っていたけど(私の脳内の兄上は「俺」とか言いませんでした)、これはこれでよき。

〔つづく〕

icon

〔つづき〕

また、虚淵玄先生のもとの脚本では「チャンス」「ゲーム」とカタカナ語が使われていた台詞があり、これは先生ご自身が、わざとそういう表現を入れているとおっしゃっていたと記憶しているのでそこは納得しているのですが(なんせ、おおもとになっている台湾の霹靂布袋劇・本家シリーズの舞台が、古代中華世界と見せかけてタピオカミルクティーやマカロンまで存在するところですし)、あくまでも武侠小説として執筆されている本書ではここが漢字の単語に改変されていて、雰囲気が保たれている。

劇中では台湾語のまま読み上げられた念白も、公式サイトの分かりやすさ重視の現代語による説明的な和訳とは違う、文語調の新規訳が併記されています。一定のポリシーのもと、隅々まで気が配られた愛あるノベライズ。

もともとのストーリーが、とにかく初めて映像で観たとき本当に「してやられた!」と舌を巻く予想外に予想外が重なる展開だったのですが、その流れをすでに知ってても、心躍らせて楽しく読めました。

この感じで、ぜひ2期・3期そしてゆくゆくは今月から放送が始まったばかりの4期も出してほしい! よろしくお願いします!

〔了〕