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かまど+みくのしん『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』(大和書房,2024年8月)

ネットで大評判だった企画の書籍化。タイトルどおり、物語を一切読んだことがなく、学校の国語の授業も試験に出るとこだけ覚えて乗り切ってきたという、読書に苦手意識のあるみくのしんさんが、子供の頃から習慣的に本を読んできたかまどさんに伴走されながら短編小説に挑戦していく。

太宰治「走れメロス」、有島武郎「一房の葡萄」、芥川龍之介「杜子春」と古い有名作品が続いたあと、最後は著者のおふたりとは仕事仲間でもある現役売れっ子作家の雨穴さんによる書き下ろし短編を、書いたご本人の目の前で読む。

一文一文を声に出し、一語一語を吟味し意味を確認しながらページをめくり、脳裡に浮かぶ情景をかまどさんに向かって身振り手振りや図解を交えて事細かに説明し、物語に沿ってテンションを乱高下させマジ泣きしたりもするみくのしんさん。短編ひとつ読破するのにも、とんでもなくエネルギーを消費している。かまどさんとともに、なるほどこれでは、気軽に読書なんかできないわ、疲れ切っちゃうもん……と納得せざるを得ない。

〔つづく〕

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〔つづき〕

そしてまた、これまで気軽に本を手に取ってきた私自身は、おふたりのやりとりを追ってるうちに、自らを省みはじめてしまったのだった。果たして私はこんなに作品を精緻に読み込んで味わい尽くすような読書をできたことがあっただろうか、と。

とにかく、みくのしんさんの読み取り力が凄まじい。知らない言葉に戸惑ったり、感情を揺り動かされてめためたになったりしながらも、この一文がここにあることでこんな効果を生み出している、作品全体がこういう構成になっている、みたいなテクニカルなことも、たぶん直感的に分かっているんだな、という感じの発言がばんばん出てくる。そしてそれが分かるからこそ、さらに感動を深めていっている。驚嘆。

あと、かまどさんのナビゲーションが、素晴らしかった。どんな読み方でもOKだよってスタンスを崩さず、でも必要なところでは助け舟を出し、励まし、自分の読みのほうが浅かったと思う部分があれば正直に認め、みくのしんさんの読解を心から賞賛し、その上であとがきではあらためて、本の読み方は自由なのだから、みくのしんさんみたいに読めなくてもよいのだとも言ってくれる。いい人だ。

〔了〕

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↓ なお、現在Webで読めるみくのしんさんの読書記録。

 
本を読んだことがない32歳が初めて「走れメロス」を読む日
(書籍版のもとになった発端の記事)
omocoro.jp/bros/kiji/366606/

本が読めない32歳が初めて芥川龍之介を読む日
(書籍に収録されてるのは「杜子春」だけど、こっちは「トロッコ」)
omocoro.jp/kiji/385809/

本が読めない32歳が初めて電子書籍を読む日
(宮沢賢治「オツベルと象」)
omocoro.jp/kiji/399155/

「山月記」を読めなかった男が1年半ぶりにもう一度読む日
omocoro.jp/kiji/462699/
 

あと、楽天Kobo独占販売で梶井基次郎の「檸檬」を読んだ記録があるそうなんですが、私にはかつて楽天に対してイラッとくることがあってアカウントを削除したという過去があるので……。

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本を読んだことがない32歳が初めて「走れメロス」を読む日
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本が読めない32歳が初めて芥川龍之介を読む日
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本が読めない32歳が初めて電子書籍を読む日
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「山月記」を読めなかった男が1年半ぶりにもう一度読む日