#読書
伊藤人譽『續人譽幻談 水の底』(龜鳴屋,2008年1月)
1960年から2006年のあいだの8作品を収録。
全体的に、前に読んだ短編集『幻の猫』よりも、文章に官能的な雰囲気を感じるお話が多い印象。直截的な記述はそこまでではないのだけれど。最初に収録されてる「溶解」なんて、湖の水のようすが綴られるだけでもすでになんとなくなまめかしい。
そしてまたその一方で、非現実的なことを語る際にも、情景や人物の説明的な描写が的確というか、観察内容を過不足なく順序立てて伝達します、みたいな緻密さ冷静さがあって、それが独特な味になっているように思います。
最もボリュームのある2006年(著者93歳!)脱稿の書き下ろし作品「われても末に」は、淡々とした筆致の怪談でありラブストーリーでもある、技巧的な中編。
おそらくは認知症を患っている老婦人が語り手の、現実が妄想に浸食されてくるような掌編「落ちてくる!」(2003年、90歳)が本書ではいちばん好きかも。不気味さがありつつ軽妙。
〔つづく〕