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スーパーで、お爺ちゃん4人が、いろんなレトルト食品をわちゃわちゃと騒がしく議論しながら(親子丼を買うかどうかとか)4つずつカゴに入れており、なになに、なにが始まるの? って、ちょっと気になった。楽しそうだったから。

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石沢麻依『月の三相』(講談社,2022年8月)

旧東ドイツ側にある架空の(だよね?)都市・南マインケロート (Süd-Meinckerot) を舞台に、「肖像面」という独自文化や「眠り病」と呼ばれる疾患をめぐる事象が語られる。

序盤でフローラなる女性の「逃亡」が噂されており、やがてそのフローラとは「面」として存在してきた、敢えて人格を不定のままにされてきた不在の人物であることが読み手にも分かってくる。月にまつわる名を持つ3人の女性たちが、この街で面にかかわる仕事をするようになるまでの経緯が述べられ、この街で面が有する意味や位置づけが解説される一方で、フローラとその所持者だった男性の背景も徐々に見えてくる。

捉えどころの見出しづらい設定とストーリーラインが、いつのまにかゆったりとまとまっていくけれども、輪郭が曖昧なまま残った部分もそれはそれとして当然のように受け入れさせられていくような語り口に引き込まれる。歴史の奥行きをひそやかに内包する夜の街並みの印象が強く残る。