いつ書くのか分からないし丸ごとボツるかもしれない小説の冒頭部を放流
※作者は関西弁話者ではないので恐らく語りに不自然な箇所があります。
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夏に地元んライブハウスでワンマンやったとき。鴨川沿いのキャパ200ぐらいのハコなんやけど、満入りでな。
終わり前の最後の何曲かをぶっ続けで弾いてるときに気付いたんやけど、フロアの最前列のシモテでよう熱心に見てはるお客さんがいてな。人相は覚えてへんし、やっとるあいだにじろじろ見る余裕もないけど、俺らのファンにしちゃあ、何だか大人しい感じがしてな。単なる〝印象〟やけど、自分とこのライブに来るお客さんの印象ってだいたい決まっとるやろ。おたくらのファンとうちのファンは雰囲気違うとか、そういう、ファッションとか、雰囲気とか、方向性の違い、わかるやろ。
その人は、うちにはどうも場違いなくらい清楚というか、まっさらすぎる〝印象〟やった。暗いフロアでもその人はなぜか目立ってたっちゅうか、目を引いたから、たぶん白い服着てた気がすんねんけど分からへんな。印象やから。
その子がどうにもじいっと俺を見てはるんやから、俺が最後に『鷹について』のソロでステージ前に立つときに、俺もその子が気になって、彼女の前に行ってずっと弾いてあげたんや。
かわいかったか? っちゅうと……分からなへんな。あんまりファンの子と目ぇ合わせんようにしてるから、彼女の顔はよう見てへん。
それで一旦締めて、ステージ抜けて、アンコールで戻ってきて、挨拶のMCに立ってフロアを見てみると、ん? って。
さっきの彼女がいない。
ちょっと驚いて一瞬声がつかえたけど、そのときはまあ、心ん中で驚いただけで、アンコール曲をちゃんと演って終わりにしたな。
打ち上げの店に移動して、俺、煙草切らしとって、ひとりで店出て外に買いに行ったんや。夏の京都やろ? お湯ん中を歩いてるようなじめぇっとした熱帯夜で、早う済まそうって歩いてると、ふと、さっきのひとを思い出してな。
満員のハコで最前列にいたお客さんが、アンコール待ちの間に他のお客さんを避けて帰れるんか?
それで、その人のこと思い出そうとして、人相は覚えてへんのに、彼女の雰囲気だけはハッキリ思い出せてな。髪型や服装なんかは分からんのに、頭の先から爪先までの〝印象〟は確信できるんや。
でも可怪しいやろ?
お客さんは確かに最前列に居ったけど、お客さんはバー(注:手すり)の向こうに居てはって、ステージとバーの間は機材やスタッフが通る隙間が空いてるやろ。この中にお客さんは入れない。だからお客さんの顔は見えても、バーがあるから、お客さんの足元をステージの俺らが確認するのは無理やろ?
なんで俺はあの子のこと爪先までハッキリ感じとったんやろな。
店に戻って、ライブでシモテにおった井上に話にいったんやけど、ちょっと聞き出そうとしたら、『何だよお前、ずっと俺のこと遮って端っこで弾いとったの何だったん?』って、あいつは酒飲んで真っ赤な顔で何もないふうに笑っとって、だから俺は『端っこに見てもらうファンサービスや』なんてごまかして返したんやけど、酔いはさーっと醒めてってな。ドラム叩いてる古屋さんは客席の足元は見えへんし、御手洗はカミテに居ったから見てへんやろ。
だから俺だけしか見てへん。
フロアに、浮かんでくるみたいに、白くて。
俺はまだあの子を覚えとるよ。
どう考えても、あの子は居るはずのない場所にいた。
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京都出身・架空のロックバンド SIGNALREDS
Vo./Gt.小澤が幽霊を見た話。
長編のなかの1エピソードに編纂しようとしたけど、これだけで短編にするかも、全部ボツにするかも。
おたきあげ
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