デデデデーン ちゃらららー デデデデーン ちゃらららー……
ああ、記念館をじっくり見物しすぎてしまった。乗り遅れたバスの後ろ姿を恨めしく追う私をよそに、岬には大音量の津軽海峡冬景色が響いていた。
肩を落としつつ駐車場を見回すと、ちょうど1台のタクシーが入ってくるところだった。まあ、予定が崩れないだけマシかと、出費を覚悟しながら呼び止める。
「すみません、三厩駅まで」
ドライバーさん、女性の方か。珍しいな……いや……
「国鉄型……ボイスロイド……?」
「あら、お詳しいんですのね」
「ああ、失礼しました……鉄道以外で見かけるのは珍しくて、つい」
「気にしないでくださいまし。タクシーのハンドル握っているのなんてわたくしくらいですし、好奇の目にも慣れていますわ。……そうだ、せっかくですし、少々わたくしの昔話でもいたしましょうか?」
「ええ、是非とも」
——連絡船のお仕事で、わたくし達ボイスロイドは重宝されていましたの。愛嬌があって、力仕事も人間以上にこなせる。特に、わたくしみたいな青函局特注の連絡船仕様の機体はね。
でも、この体格が、逆に仇になってしまいまして……。
連絡船最後の頃、今でも覚えていますわ。他の子たちとは、転属先の話題で持ちきりで。鉄道の方と同じ仕様の子たちは割とスムーズに決まったみたいですけれど、連絡船専用のわたくし達は、なかなかね。設備の都合とか、いろいろありますの。
結局、いろいろな職種に三々五々でしたわね。貨物駅とか、保線区とか。わたくしは青森の機関区で2年くらい。
でも、長くは続きませんでしたわ。ほら、ボイスロイドってコミュニケーション機能を重視したつくりになっていますから。日がな1日機械と向き合うような仕事だと、その……気を、病んでしまって。
その後は弘前の方で、キオスクとか駅弁屋のお仕事を。苦労もしたけど、楽しいところでしたわ。ホームの方の店舗だと、1人で品出しから接客までなんでもこなすお仕事で、なかなか性には合っていましたわね。海からは離れてしまいましたけれど。
……ええ、ずっと連絡船に乗ってましたから。陸の仕事ばかりしてると、懐かしさというか、憧れというか……。海の仕事の方が、やっぱりね。せめて、海が見える場所でお仕事したいな、というのはありましたわ。
そんなことをこぼしていましたら、今のお仕事を紹介してもらいまして。車の運転も、機能としてはありますけれど、実用したのは初めてでしたから大変でしたわ。練習で乗ってた頃はよくバンパーをベコベコにして……。ふふ、当然今ではそんなことありませんわよ?
毎日往来していた海峡の横でこうしてお客様をお運びして、こんな風にお話をしたりして。やっぱり、わたくしは海のボイスロイドでしたから。それに、手段は違えど、お客様を目的地までお連れするというのは、わたくしに刻み込まれた使命のようなもの。
龍飛は「本州の袋小路」だとか「北のはずれ」だとか言われますけれど、わたくしにとっては海と繋がれる場所で。そんな場所にお客様をご案内するのは第二の天職、というべきかもしれませんわね——
「ほら、そこの角を曲がったところが駅ですわ。お代は……」
「あれ、メーターより安くないですか?」
「昔話を聞いてくださったお礼、ですわ」
「では、お言葉に甘えて……」
帰りに、青森駅の八甲田丸にでも寄ってみようか……そう考えながら、海岸通りへと走るタクシーの後ろ姿を眺める。
どこからか、汽笛が聞こえた気がした。