凄そう
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そしていよいよ、「ドッグファイト」が始まった。戦闘機同士の戦いは、相手を追いかける態勢のほうが有利で、2匹の犬が代わるがわるしっぽを追いかけ合う姿に似ていることから、こう呼ばれる。編隊長機「DUKE」が、右横を飛行する「SONY」を追いかける形で訓練は始まった。
「SONYがすぐ近くに見えますからね」。河野さんにそう言われたが、私の視界はどんどん狭くなる。だんだん、機体が上を向いているのか、下を向いているのか、今、どんな動きをしているのかが、さっぱりわからなくなった。事前の研修で、航空事故の原因で多い「空間識失調」の説明をうけた。空と海の区別がつかなくなるというのはにわかに信じがたかったが、実際に方向感覚を失うことの意味を身をもって感じた。
さらに7Gの旋回がしばらく続き、だんだん酔いはじめた。搭乗前に酔い止め薬を飲んでいたため吐くほどではないが、気持ち悪い。プラスGとマイナスGが交互にかかるドッグファイトでは、酔って気持ち悪くなりやすいという。こうした状況のもと、ドッグファイト中の記憶はほとんどない。どうやら私は「ブラックアウト」に近い状態だったようだ。離陸前には、腹筋に力をいれて呼吸をするなどの対策を教えてもらっていた。だが、実際にGがかかりはじめると、何も考えられなくなり、すっかり忘れていた。ドッグファイトがようやく終わり、目をつぶりながら深呼吸していると、視界は戻り、数分で気持ちが落ち着いてきた。