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山口未桜『禁忌の子』(東京創元社,2024年10月)

第34回鮎川哲也賞を受賞した現役の医師によるデビュー作。

救急医である主人公のところに運び込まれたのは、自分となにもかもがそっくりな心肺停止患者、というショッキングな導入部。生き別れの兄弟などいないはず。気になりすぎて、旧友の内科医とともに背景を調べていくと……。

探偵役となる超理性的な内科医が、動揺中の主人公が感じていた漠然とした「怖さ」を分解してクリアにしてくれるくだりが好きでした。

また、ふたりとも医師なので、調査の過程で首を括られた人を発見したとき、瞬時の判断で事件現場の保存など度外視して蘇生を試みる。このシーンのリアルさと迫力、スピード感がさすがに本職のかたの筆致。痛ましい展開で、謎解きも行き詰まるんだけど、ここの文章には、最後まで読了したあとでまた戻って読み返したくなるよさがあった。

最終的に明らかになる事実は重く、それをどう受け止めるかは、とても難しい。自分が知ってしまっても、ものすごく悩むと思う。読み終わってからも考え込んでしまわざるをえず、現実的な問題提起も感じられ、余韻が長い。

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読了:
墨香銅臭〔原作〕+STARember〔漫画〕『天官賜福』第2巻(訳:本多由枝/ソニー・ミュージックソリューションズ,2024年11月/原語版初出:墨香铜臭+STARember《天管赐福》哔哩哔哩漫画,2019年~)

最初の事件が一段落して、信者のいない神さまである謝憐が自分で自分を祀るための「菩薺観」を構えるところから、謎の少年(まあ読み手には明白なんですけど)に出会い、半月関へ向けて出発するところまで。第1巻同様、話の進みはとてもゆっくり。大ゴマ多いし……でも大ゴマ多くてありがとう、と言いたくなる美しいフルカラーの絵なので……。

特に菩薺村の周辺の風景。色とりどりの花が咲く小道とそこに覆いかぶさるように黄色い葉が茂る銀杏の樹々。がらくた集めからの帰路、まだ明るい空に紅葉が映えるなか始まる牛車の道行き、やがて日が落ちてきて真っ赤な夕焼けと紅葉が溶け混じるようになり、さらに先へ進むと夜が更けて暗闇の森……と、徐々に景色が移っていく数ページなんて、本当にきれいなので吹き出しのセリフを読むのすら忘れて(え?)ずっと見入ってしまう。