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内澤旬子『私はヤギになりたい ヤギ飼い十二ヵ月』(山と渓谷社,2024年9月)

ヤギ5頭とともに暮らす小豆島での日々。私はこの著者の以前の文章で読んだ、1頭目の「カヨ」のみ飼ってらしたあたりの状況までしか知らなかったので、本書を開いてあれから5頭に!? って驚きました。一人暮らしで、文筆業やイラストレーター業をこなしつつ、5頭(さらには途中からイノシシまで加わる)のお世話をしているのは驚異的。

そんでまた、ヤギを飼うのって、これを読むと想像以上に大変!

かつて私も、地元に「除草ヤギ」が放たれている空き地があった頃、「かわいいなあ!」と、ちょくちょく眺めに行っていたのですが、当時はヤギって青々と茂ったなんらかの草さえあればOKなのかなって思っちゃってました。しかし実際には、ヤギにも好き嫌いがしっかりあるし、すごく喜んで食べるのに食べ過ぎないようにコントロールしなきゃいけない植物もあるし、食事内容はすぐに体調に反映されるし……。

〔つづく〕

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〔つづき〕

5頭分の食事を確保するため、著者はチェーンソーで伐木をしたり、女性で使いこなす人は少ない刈り払い機の扱いを会得したり、あちこちに交渉して草や枝をもらい受けトラックに満載して運んだりしながら、常に頭を悩ませている。ほかにも成獣を押さえつけて蹄を切るような力仕事や、去勢処置なども自分ひとりでやっている。

これだけの苦労があってもヤギと暮らすのは楽しい、ヤギを飼ってよかったと著者は力説してくださるんだけど、私は読めば読むほど「自分だったら一人でこれをやり遂げるのは絶対に無理」と、確信が強まってしまった……。

そしてヤギの食料調達に邁進するなかで、すっかり著者のなかで解像度が上がってしまった島内の植生と、それぞれの植物へのヤギの食いつき具合などが、本書では季節の移り変わりに沿って、きれいなイラスト付きで詳しく説明される。ヤギたちの絵も、写実的でありながらそれぞれ表情もちゃんとあって、1頭1頭の性格が描き分けられており、愛を感じる。

私には絶対に無理な生活だけど、四季折々の草木の様相および個性豊かなかわいいヤギとの暮らしを、楽しく垣間見させてもらいました。

〔了〕

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ヤギかわいいよヤギ。これはかつて地元に派遣されてきていた除草ヤギの皆さん。2017年の写真です。

木陰に集まった7~8頭くらいの白いヤギ。後方に草むら、さらにその奥にはビルが見えている。
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