#読書
伊藤人譽『人譽幻談 幻の猫』(龜鳴屋,2004年4月)
著者は1913(大正2)年生まれ。34歳から79歳までのあいだに執筆された8編を収録。これから読むつもりの別の短編集には90代で発表された作品もあるので、とても活動期間が長いね。
現実的なところからふっとずれて奇妙なねじれを見せていく物語が多い。怪談的でありながら、どぎつさはなく、ぞくりとさせつつ飄々としてもいる。最初に入っている「穴の底」の、どうして成立しちゃってるのか不明なシチュエーションのなかでじわじわと主人公の焦りがつのるさま、表題作「幻の猫」の本当とそうでないことの境目があいまいな感じ、「シメシロ」におけるおぞましさと滑稽味の同居……どの作品も魅力的です。
あと、おおむねシュールな要素がある内容のお話だけど、文章はずいぶん抑制が効いて理屈っぽくもあるなと感じる。巻末の年表によると著者は1960年代には工業系の翻訳の仕事をしていたようなので、そういうのも影響しているのかも。