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馬伯庸『両京十五日 Ⅱ 天命』(訳:齊藤正高、泊功/早川書房,2024年3月/原書:马伯庸《两京十五日》2020年)

完結の巻。引き続き急転に次ぐ急転で、初期メンバー4名チームは敵方との攻防のなか分断されたり合流したり、敢えて別ルートを行くことになったり。敵だと思っていた相手が味方になったり、味方と信じた相手は敵だったり。もうぜんぜん先が読めないまま、とにかくページをめくるしか。

よくぞまあ、これだけ思いつくものだなあ、と感心するような、さまざまな絶体絶命展開と、そこからの機転と偶然(あるいは運命?)によるさまざまな間一髪の命拾い展開に、翻弄されまくりました。

さらには、北京をめざす皇太子に助太刀するなかのひとりである(そして作中で視点を担う登場人物のなかでは最も主人公っぽい書かれ方をしている)南京の捕吏・呉定縁の、本人も知らなかった素性の秘密や、同じく助力者となったものすごく聡明で肝の据わった女医・蘇荊渓の過去なども絡んできて、物語はどんどん一筋縄ではゆかぬ感じに。

〔つづく〕

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〔つづき〕

読者としても、絆がめばえた個性の強い仲間たちそれぞれにすっかり肩入れするようになってしまっていたので、諸々がどのように帰結するのかと気を揉むことに。

最初は国のトップに立つにはやや不安のあるキャラだった皇太子が、身をやつして過酷な旅を続けるうち、徐々に民の生活の切実さや、人としての情を知り、精神の強靭さを得て成長していくのも、王道だけど頼もしい。しかしその変化があったからこそ、単純に「なんとか陰謀を生き延びて一件落着! 史実どおり皇帝になりました、めでたし」だけでは済まなかった終盤には胸を衝かれる。

ここでこう来るか! と衝撃を受けつつ、こうなるか……と納得も感じ、千々に乱れてエキサイトした心としんみり哀愁にひたる心を両立させつつラストシーンにたどり着いたあとは、作者みずからによる、巻末の長い長い注釈へ。

この注釈が充実していて、史料に実際に書き残されていることと、その狭間のどのへんに、どうフィクションを仕込んだのかというのが明確にされているのが、門外漢にとても親切でよかったです(加えてそこに訳注もしっかり入るので、本当に助かります)。

〔了〕

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ところで、たまたまそういうタイミングになっただけなんですが(だってSF展開になるのではと思ってたくらい、内容ほとんど知らずに手に取ったし)、図らずも作中の旅程と同じく5月後半から6月頭にかけて読むことになってしまった。

まあ、作中で認識されている日付はもちろん、旧暦でしょうから、本当は違うんですけど。

とはいえ、読んでる途中で、表記されている日付との合致に気付いたときは、ちょっぴり嬉しかったことも事実。