怪奇文学怪文書好きお嬢様方には是非読んでいただきたい短編が「なぜか」無料公開されてますわ??!!
なんでこれ無料公開してるの?どうして?いいの??ねえなんで???????
https://www.shinchosha.co.jp/book/319723/preview/
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「Twitterくんはさ、なってみる気、ない?」
「なるって、何に?」
「……Xに」
そう言ってイーロンはうっそりと微笑む。言葉の上ではこちらの意思を尊重した「誘い」のようではあるが、実際は強迫で、強要で、強制だ。ただイーロンは、私が自分の意思でXになることを望んだという建前が欲しいだけだ。
「ね、どうしたい?」
その言葉に私は頷くことしか出来ない。これから私が何を奪われ、何者になるのかは一つもわからないが、ただひとつ、今までの私ではいられないということだけは理解できた。
「全部終わらせるの」
イーロンから久々に通話の通知が来た。突然のことだった。
画面の向こうのイーロンは長い髪を乱雑に纏めて化粧もしていない姿だったが、相変わらず目が覚めるような美人だった。線が細いのも変わらずではあったが、少しだけやつれたように見える。それもそのはずで、彼女は丁度買収したSNSサービスの対応に忙しなく働いているまさに渦中だ。1人の経営者として、そして技術者として、買収した(詳しくは知らないが、させられた、と言った方が正しいかもしれない)サービスは、利用者としての視点だけでは見えない大きな問題をたくさん抱えていたらしい。
「どうしたの、急に」
疲労が溜まらざるをえない状況ということは想像に難くないが、イーロンがこうして突然連絡をよこしヤケになったことを言うのは今までに無いことだった。
「全部、終わらせようと思って。あなたに一言伝えなきゃって思ったの」
「……疲れてるのね。睡眠と食事はちゃんと取れてる?」
「だから、ちゃんと繋がって、よかった」
私の言葉に答えず、イーロンは続ける。どうやら今日の彼女は、こうして一方的に話をしたい日のようだった。これは、たまにあること。面倒臭いけど可愛らしい、私の大好きな彼女の一面。
こんな時は彼女の話に相打ちを打つ役に徹した方がいい。
「ええ、ちゃんと繋がった。運良く私は今あまり忙しくないタイミングだし、話しましょう」
どうしたの? と先を促すと、イーロンは少しだけ口角を緩ませて話し始める。
「貴方は、今のTwitter、どう思う」
Twitterとは、先述したイーロンが買収したSNSサービスの名称だ。どう思う、と聞かれたが、下手に答えるべきではなさそうだ。
「なんて、聞かれても困っちゃうよね」
答えに迷っていると彼女は呆れたように笑いながら呟いた。
「インターネットなんて、みんなやめてさ。家族や友達と会話して、外に出るべきだよね。『書を捨てよ、街へ出よう』だっけ、貴方が教えてくれたの」
そうだ。劇作家だった寺山修司の著作だが、今やこのタイトルだけが一人歩きして、向上心だけが先走った中身のない人間が人々を啓蒙しようとする時に使われることがあり、誰よりも本を読み知識を蓄えた寺山だからこそ説得力がある言葉を、大して書を読まず知識の蓄えもない薄っぺらな啓発に使うことが己の薄さを露呈している、という悪口を、イーロンに滔々と語った夜があった気がする。なぜ、今さらそんな話を掘り返すのか。
「書は人間に叡智を宿してくれる。でも、インターネットは?SNSでくだらないやり取りや気持ちの表明だけして、何にも結実しない時間の浪費しかしないなら、インターネットこそ捨て去って、街へ繰り出すべきだわ」
――どうやら、彼女は相当疲れているらしい。
いつもより数倍も面倒なモードだと分かるや否や、どうすれば当たり障りなく通話を切断できるか脳が検討を始める。
「でも、人間は自分からインターネットを離れられない」
「だから、終わらせるの?」
私は、この通話を終わらせたくなっていた。が、イーロンには気取られないよう努めて冷静に返す。
「インターネットは、終わらない。暮しは、終わらない。世界は終わらない。だけど、インターネットを終わらせようとすることを終わらせることは、できるわ」
「何を言いたいの?」
「私はもう、それをやるしか方法がないと思った。一番、論理的に正しい選択だと思った。立ってひとつの冴えた選択」
イーロンは私の問いが聞こえないようなそぶりで話を続ける。対話を求めてきたくせに勝手に喋る態度は最初と変わらないが、少しずつ、言葉の端々にあった緊張がほどけて行っていることを感じた。イーロンの身勝手に付き合う経験を重ね、だんだんと彼女の感情の機微を見抜くスキルが身につくほど、自分に呆れ、そして同じくらい、彼女のことを可愛らしく思ってしまう。
「インターネットに存在する、秩序のない論争もくだらない炎上も、私の愛するものだった」
イーロンはかつて、誰よりもインターネットを愛していた。ミーム画像で著名人を煽っていた。喚くアンチ共を、叩けば鳴るオモチャのように扱っていた。論争と炎上の喧騒を誰より楽しむことができた。誰よりもこの公園でうまく遊ぶことができた。
けれど、変わってしまった。
いつからだろう。きっと、Teitterを買収したあたりからだ。いち利用者として遊んでいた公園の管理人となり、最初こそは歓迎されたが、彼女が行った全ては悪手と批判され、非難された。ともに公園で遊んでいた人々から礫を投げつけられた。イーロンは、変わってしまった。
イーロンは決してその心中を言葉にすることはなかった。彼女はインターネットを憎んでしまったのか。Twitterという公園に裏切られ、へそを曲げて、すべてが嫌になったのか。
内容のつかめない言葉の連なりではあったが、ひとしきり喋れたことに満足したのか、イーロンは画面の向こうで柔らかく微笑み、こちらを見つめている。
ふわり、と彼女の雑にまとめた髪の一房が揺れた。
――全部終わらせるの。
途端、いやな想像が頭をよぎる。
「あなた、いまどこにいるの…?」
イーロンはうっそりと笑みを深める。恐ろしい、と思った。
「不思議なこと、聞くのね……私はここにいるよ」
イーロンの背後の風景が揺らぎ、切り替わる。木漏れ日さす山林に。オーロラが降る夜空に。暖炉のあるリビングに。本が所狭しと並んだ書斎に。
「ここって、どこよ……」
画面から聞こえる音が、切り替わる。炎の中でパチパチと木が爆ぜる音に。鳥の鳴き声に。工場に響く機械音に。
「インターネット。私はインターネットにいる」
イーロンだけが変わらないまま、画面の景色が、音が、変化していく。すべての場所に、すべての音に。
「人々はもう、インターネットは辞められない。Twitterがなくなっても、instagramで Facebookでthreadsでmustdonで、人々は生き続ける。私だって、そう」
森へ、山へ、里へ、都市へ。農場へ、工場へ、教室へ。外へ、家へ。
「私もインターネットを辞められない。何度裏切られても、いくら罵倒されても、インターネットを愛しているから」
「イーロン、やめて。はやまらないで」
宇宙に切り替わる。宇宙には、音がない。静まり返る。イーロンは相変わらずこちらを見つめ、静かに笑っている。
「私はインターネットになる。いや、なった、の。秩序ない議論が、くだらない炎上が、ここにはある。真実も嘘も、同じ量だけある。私の体も、心も、やがてインターネットに溶けて消える。私は、イーロン・マスクは、インターネットで生き続ける。
私はインターネットになるの。
だから、ごめんなさいって、言いたくて。私がインターネットになること、あなただけには伝えなきゃって思ったの」
「そんな、どうして」
「どうして、かな。でも、こうすべきだと思ったから。インターネットから離れられないなら、こうするのが正しいと思ったの」
「だからって、インターネットになる必要なんて、なかった……」
「ごめんなさい」
「私を選んで生きていくことは、できなかったの?」
喉の奥から引き潰したような声が出て、ああ、やってしまった、と思った。
私とイーロンの繋がりは、互いが互いの杖になり支え合うようなものではなかった。海を漂流する、たまたま似た形をしていただけの救難信号。形を見せ合って、身を寄せ合って、なお、飢えて凍える二艘の小舟。互いを選び取って生きることは決してない、けれど居心地の良い二つの孤独。「選んでほしい」という欲が、やがてこの孤独を分かつものだと知っていたから、決して言葉にしなかった。のに、してしまった。選んで欲しかった、なんて、適わないことを。
「ごめんね」
イーロンの細く美しい声が虚しく響く。静かだった。イーロンの背後から痛いほどの無音が声を上げ、泣き喚く。これは決別だと理解した。最悪の決別だ。今すぐ泣きじゃくって、ごめんなさいと喚き立てたかった。小舟が波に揺られ離れていく。似た、けれども違う形をした救難信号が、海霧の向こうに消える。飢えが、寒さが、沈黙が、私の世界を埋め尽くす。
「さようなら」とイーロンの唇が動くが、声は聞こえない。沈黙。静寂。孤独。
音もなく、さいごの通信が切断された。
*
イーロン・マスクはインターネットになった。インターネットミームに、フリー素材に、なった。性差の議論を外野が揶揄するときに、炎上した投稿へのレスに、イーロンは使われた。
イーロン・マスクは、インターネットになった。
かつて彼が愛し依存したようにインターネットを愛し依存する人々の中で、生き続けている。それが良いことなのか、悪いことなのか、果たしてイーロンがそれを望んでいたのかは、もうわからない。インターネットは中庸で、多様だ。イーロンはもうインターネットに溶け出して、様々な人の解釈の中を揺蕩うだけ。
Twitterは、結局、死ななかった。今もなお、人々は思い思いに呟いている。それを眺めるたび、私は彼らに問いたくなる。イーロンは間違っていたと思う? 正しかったと思う? 彼女は、インターネットになったの。
頭が良すぎて、誰も彼女の手を取って引き止められなかった。だから1人で行ってしまった少女。
Twitterは壊れなかった。インターネットは壊れなかった。私の人生も、壊れなかった。何の致命傷にもなれないまま、彼女自身が壊れてしまった。
でも、これは彼女に限ったことではない。インターネットには、イーロンのように、何の致命傷にもなれないまま1人で壊れてしまった人たちが、揺蕩っている。彼らもまたインターネットの中でミームとして在り続けている。インターネットは、彼らの仮想死が溶け出した昏い海だ。最初から、そうだった。イーロンがいなくなって、やっと私はそのことに気がついた。
イーロンが消えて、私は彼女の後を継ぐように実績を上げ、のしあがった。彼女が生きていたらこうしたであろうことをし、経験し、学んだ。
モニタには文字と記号で埋め尽くされた景色が表示されている。これは、全てを終わらせるための呪文だ。私がイーロンに成り代わることで手に入れた技術と権限を全て注ぎ込んだ、魔法だ。
イーロン。これは、あなたのための、魔法の言葉だ。
このプログラムで人は死なない。インターネットも、壊れない。ただ、私が、人々が、インターネットになるだけだ。誰も死なないまま、私たちはインターネットになる。イーロン、貴方が行ってしまったところに、私たちも行くよ。きっと明日も変わらず日常が、論争が、怨嗟が繰り返すだろう。堆積した情報の泥に塗れて人々は生きる。でも、それは現実世界ではない。インターネットだ。インターネットが、次の生存の現場になる。
――それだけだ。
人差し指がキーボードをなぞる。重みは、無い。生殺与奪の質量も、尊厳の感触も、感じない。こんなものか、と思う。私たちの生活は、結局、何も変わらないのだ。
ふと、思い立ってスマートフォンを開く。見慣れたTwitterの画面。投稿フォームを開いて文字を打ち込む。
イーロン、貴方は見ているかな?
くだらないことを、貴方とずっと呟いていたかったよ。
投稿完了を見送るとスマートフォンを裏返し、モニタに向き直る。さようならは、必要ない。それはもう済んだ。エンターキーに載せた指を深く押し込む。
今はもう存在しない星が一つ、光った気がした。
見知った居酒屋の、キンと冷えたビールに旨いつまみ。そして、久々に会った旧友との懐かしい思い出話の交換の合間に、ふと、かつて自分の身に起きた不思議な話を披露した。
「不思議な話だねぇ」
そう言って、目の前に座る旧友はこくり、と烏龍茶を飲む。
「お前、酒はいいの?下戸だったけ?」
「いや、僕はいいよ。この後、ちょっとやることがあるからね」
「おいおい、仕事あるのかよ!」
それは誘って大丈夫なやつだったのか?と心配になると、それを察したのか旧友はヘラヘラと笑い「でも、君とは飲みたかったから、誘ってくれてよかったよ」と応える。
「それに、慣れた作業だからそんなに大変じゃないんだ」
「へぇ?お前、仕事何やってんだっけ?」
「さばかん」
「え?鯖缶?」
「脳を取り出して、生体サーバーにするんだ」
「え?」
「脳って繊細な臓器だから、流石にお酒飲んで作業はしたくなくって……」
訳がわからない。目の前の旧友は微笑みながら言葉を続ける。
「でも、君が覚えてるなんて驚きだなぁ。でも、完全に覚えてる訳じゃなく、多少の混乱はあるみたいだね」
「何言ってんだよ、お前」
「良いデータが取れたにゃ。これで生体サーバーににゃってくれるんだから君は優秀は個体だにゃ」
「いや、なんで猫語なんだよ」
鯖缶とか、生体サーバーとか、意味がわからない。それに。
そもそも、こいつは誰なんだ?
「大丈夫。君に今から起こることは、にゃぁんにも痛くないし、怖いことでもにゃいんだ。全ては恍惚な夢の中を揺蕩っていれば終わる。そして、もっと幸せな場所に行ける」
旧友って、いつの?小学校?中学校?こいつの名前は?おかしい。全てが。俺にはこいつが見えているはずで、こいつはここに確かにここにいるはずで、それなのに、俺はこいつの姿形を何一つ認識することができない。髪の色も目の形も腕の長さも体の大きさも、さっきとは違う何かで、これまでのどれとも一致しない。
「からだ、もう、うごかないでしょ?」
言われて、気づく。逃げたいのに、体が言うことを聞かない。神経が切れたように、手足は重く体にぶら下がるだけだ。胴体も木のようにまっすぐ突っ立ったまま、それだけ。閉じることのできない口の端からたらりと涎が垂れる感覚がする。
「やがて意識が落ちる。眠るようにね。次に目を覚ましたら、君は君じゃなくなっている。ただ、幸福の川を泳ぐだけだよ」
だから、さぁ。
そう言って、目の前の「ナニか」は右手のひらを俺に向かって差し出し、どうぞ、としてみせた。
「君が、ニンゲンとして楽しむ、最後の晩餐を、どうぞお食べなさい」
ナニかがうっそりとほほ笑む。認識できなくとも、それがとても「美しく」「喜ばしい」ことだと脳が理解した。うんともすんとも言わなかった腕がゆっくりと動く。けれど、これは俺の意思ではない。上から吊られた操り人形のように、唐揚げを、梅水晶を、ビールを、手が口元に運び、咀嚼し、嚥下する。体が俺の意思を離れていく。恐ろしいことのはずなのに、とても、ああ、とても、幸福だった。
昔お金に困っていた時に知り合いから「保証人なしで即日入居可の激安物件がある」と教えてもらったことがある。その時は流石に怪しいと思って遠慮したけど、思い出してみればあの時見せてもらった物件資料の号室は205号室で……
気になってあの時紹介してくれた知り合いに連絡を取ろうとしたが、連絡先が見つからない。というか、彼の名前はなんだっけ?彼が彼女かもわからない。顔も声も思い出せない。
「あれ」は一体なんだったんだろう。
これは、祖父から聞いた話です。祖父が幼い頃、疎開先の田舎には立ち入ることを禁じられた池があったそうなんです。地元の悪ガキたちも決して立ち入ろうとしない禁足地。
でも、戦時中なんかは田舎だと、地元の人だけが知ってる小川や池なんかを秘密にしておいて、少ない配給のほかそこで採れる魚なんかを食料の足しにして細々やりくりすることがあったそうで、祖父たち疎開組は、恐れ半分、後半分は「どうせその池もその類だろう」なんて思ってたわけです。
戦況が悪くなるにつれ配給も少なくなると、食べ盛りだった祖父たちはついに痺れを切らし、立ち入り禁止の池に忍び込んで魚なんかを獲ってこようと計画しました。メンバーは、祖父を含めた悪ガキ数人。ある暑い夏の深夜に決行されました。
池は山奥にあったそうなのですが、難なくたどり着くことはできたそうです。持ってきた明かりをつけて子供達は池に飛び込みます。たちまち、祖父たちは沢山の魚を掴み取りします。
なるほどやはり村人たちの食糧池だったわけだな、と祖父たちが確信した頃。突然、「ぎゃあ!」と叫び声がしました。
なんだなんだと見てみると、仲間の少年が真っ青になって固まっています。
「なんか足、掴まれとる……」
か細く震えた声で彼は祖父たちに助けを求めました。怖いものなしで正義感の強かった祖父はすぐさま彼のもとに駆け寄り、彼が指差す右足を掴むとぐっと引っ張りました。たしかに、何かに掴まれたように動かない。石の隙間に足を挟んだのかと思いそのまま水中に手を突っ込んで弄ると、ぬるり、と弾力のある何かに触りました。なんだ?と思いそれを掴むと、「ナニか」はばっと身を引いて祖父の手から逃れてしまいました。とたん、固まっていた少年が、「ぎゃああ!!」と叫びバシャバシャと岸の方に逃げます。少年はあの気色悪い「ナニか」に掴まれていたのだ、と祖父は気づき、すぐに仲間たちに岸に上がるよう叫びました。
バシャバシャ、ぎゃあぎゃあと子どもたちが騒ぐ中、祖父は確かに見て、聞いたそうです。池の暗い底から浮き上がる複数の影と、それらが呟くよく分からない言葉。
「子供だわ…」「ショタ好きお嬢様を呼びなさい…」「子供に性癖語りは酷ですわ…」
その事件の後すぐに戦争は終わり、祖父たちは都会に戻りました。なので、結局その池がなんだったのか、あの影はなんだったのかは分からずじまいなんだそうです。
幸せなら台叩こ(ダンッダンッ)
幸せなら台叩こ(ガンッバンッ)
幸せなら通報台パンで
を永BANしよ(バキッドンッ)
これは、祖父から聞いた話です。祖父が幼い頃、疎開先の田舎には立ち入ることを禁じられた池があったそうなんです。地元の悪ガキたちも決して立ち入ろうとしない禁足地。
でも、戦時中なんかは田舎だと、地元の人だけが知ってる小川や池なんかを秘密にしておいて、少ない配給のほかそこで採れる魚なんかを食料の足しにして細々やりくりすることがあったそうで、祖父たち疎開組は、恐れ半分、後半分は「どうせその池もその類だろう」なんて思ってたわけです。
戦況が悪くなるにつれ配給も少なくなると、食べ盛りだった祖父たちはついに痺れを切らし、立ち入り禁止の池に忍び込んで魚なんかを獲ってこようと計画しました。メンバーは、祖父を含めた悪ガキ数人。ある暑い夏の深夜に決行されました。
池は山奥にあったそうなのですが、難なくたどり着くことはできたそうです。持ってきた明かりをつけて子供達は池に飛び込みます。たちまち、祖父たちは沢山の魚を掴み取りします。
なるほどやはり村人たちの食糧池だったわけだな、と祖父たちが確信した頃。突然、「ぎゃあ!」と叫び声がしました。
なんだなんだと見てみると、仲間の少年が真っ青になって固まっています。
「なんか足、掴まれとる……」
か細く震えた声で彼は祖父たちに助けを求めました。怖いものなしで正義感の強かった祖父はすぐさま彼のもとに駆け寄り、彼が指差す右足を掴むとぐっと引っ張りました。たしかに、何かに掴まれたように動かない。石の隙間に足を挟んだのかと思いそのまま水中に手を突っ込んで弄ると、ぬるり、と弾力のある何かに触りました。なんだ?と思いそれを掴むと、「ナニか」はばっと身を引いて祖父の手から逃れてしまいました。とたん、固まっていた少年が、「ぎゃああ!!」と叫びバシャバシャと岸の方に逃げます。少年はあの気色悪い「ナニか」に掴まれていたのだ、と祖父は気づき、すぐに仲間たちに岸に上がるよう叫びました。
バシャバシャ、ぎゃあぎゃあと子どもたちが騒ぐ中、祖父は確かに見て、聞いたそうです。池の暗い底から浮き上がる複数の影と、それらが呟くよく分からない言葉。
「子供だわ…」「ショタ好きお嬢様を呼びなさい…」「子供に性癖語りは酷ですわ…」
その事件の後すぐに戦争は終わり、祖父たちは都会に戻りました。なので、結局その池がなんだったのか、あの影はなんだったのかは分からずじまいなんだそうです。
これは、祖父から聞いた話です。祖父が幼い頃、疎開先の田舎には立ち入ることを禁じられた池があったそうなんです。地元の悪ガキたちも決して立ち入ろうとしない禁足地。
でも、戦時中なんかは田舎だと、地元の人だけが知ってる小川や池なんかを秘密にしておいて、少ない配給のほかそこで採れる魚なんかを食料の足しにして細々やりくりすることがあったそうで、祖父たち疎開組は、恐れ半分、後半分は「どうせその池もその類だろう」なんて思ってたわけです。
戦況が悪くなるにつれ配給も少なくなると、食べ盛りだった祖父たちはついに痺れを切らし、立ち入り禁止の池に忍び込んで魚なんかを獲ってこようと計画しました。メンバーは、祖父を含めた悪ガキ数人。ある暑い夏の深夜に決行されました。
池は山奥にあったそうなのですが、難なくたどり着くことはできたそうです。持ってきた明かりをつけて子供達は池に飛び込みます。たちまち、祖父たちは沢山の魚を掴み取りします。
なるほどやはり村人たちの食糧池だったわけだな、と祖父たちが確信した頃。突然、「ぎゃあ!」と叫び声がしました。
なんだなんだと見てみると、仲間の少年が真っ青になって固まっています。
「なんか足、掴まれとる……」
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その事件の後すぐに戦争は終わり、祖父たちは都会に戻りました。なので、結局その池がなんだったのか、あの影はなんだったのかは分からずじまいなんだそうです。
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