オォ
通りに出ると、時を打つビッグベンの鐘の音が聞こえた。十一時。人の手がまだ触れていない時間は新鮮で、まるで浜辺の子供たちにあてがわれたそれのようだった。けれども時鐘の慎重な律動にはどこかしら厳粛なものがあった。どこかしら心を揺るがすものがあった。自動車の低い唸りと、通りを行く人たちの足音には。ヴァージニア・ウルフ『ボンド通りのダロウェイ夫人』西崎憲訳
オォ
通りに出ると、時を打つビッグベンの鐘の音が聞こえた。十一時。人の手がまだ触れていない時間は新鮮で、まるで浜辺の子供たちにあてがわれたそれのようだった。けれども時鐘の慎重な律動にはどこかしら厳粛なものがあった。どこかしら心を揺るがすものがあった。自動車の低い唸りと、通りを行く人たちの足音には。ヴァージニア・ウルフ『ボンド通りのダロウェイ夫人』西崎憲訳