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鈴木大介『ネット右翼になった父』(講談社現代新書,2023年1月)

いわゆる「ネトウヨ」と呼ばれるような人たちが多用する差別的な言葉を対面で使ったり、社会的弱者を貶める意見を言ったりするようになっていた晩年の父親について、あらためていろいろ思い返し、ほかの人たちの話も聞いて、検証していったプロセスが開示されている。

拒否感が強すぎて心を閉ざしたまま看取ってしまったけど、のちになって考えると、実際の父はきついネットスラングを使う一方で、中国にも韓国にも好意的な言動があったし、保守政権を積極的に支持しているふうでもなかった――。

結局著者は、父親が攻撃的に言及した対象も、息子である自分の目に映っていた「ネット右翼になった父」も、それぞれにリアルを見ておらず虚像でしかなかったのでは? 世代や生い立ちによる感覚のすれ違いこそあったけど、父は極端な思想に傾倒していたわけではなかったのでは? などと感じるようになっていく。

〔つづく〕

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〔つづき〕

意識してもっと関わりを持っておけば、親子の分断は解消できただろう、という著者の悔恨がせつない。死別してしまってからであろうと、こちらからの認識だけでも上書きすることには、きっと意義はあるのだけれど。

私もすでに両親ともに他界しているので、身につまされるものはあります。やはり正直「ああいうところはよく分からなかったし、理解してもらえなかった、しかし突っ込んで話してみれば多少は通じ合えたのかも」みたいなこと、ないではないですし。

なお、読み終わってから出版社のサイトを確認してみたら、本書は5月10日付で「編集上の不備」のため販売中止になっていました。ええ……どの箇所……。この読了メモは出していいのかな?(出しちゃう!)
bookclub.kodansha.co.jp/produc

〔了〕

Web site image
『ネット右翼になった父』(鈴木 大介):講談社現代新書 製品詳細 講談社BOOK倶楽部
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遅ればせながら今年の名探偵コナンの映画を観てきたのです。「哀ちゃああああん!」って盛り上がる気まんまんだったのですが、最初に出てきた感想は「無茶しよる……」でした(いまさら)。

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昨日は、東京オペラシティで宇野亞喜良展を観てきました。
operacity.jp/ag/exh273/

とにかくすごい展示ボリューム。90歳の現役アーティストの、若い頃からの作品群がスペース内にぎゅうぎゅう詰め。しかしあれでも、ほんの一部に過ぎないんだよな。

同行した友達(昔からの宇野亞喜良ファン)によると、宇野氏は描く速度が驚異的で、下描きなしで完成形に持っていけたりするので、それが膨大な仕事量につながるのであろう、と。

あの特徴的な描線や人物の造形で、作品は見ればそうと分かると思っていましたが、目的に応じてタッチを変えているときもあって「あ、あれ見たことあるけど宇野さんだったの!?」みたいなのも。

舞台美術のお仕事はぜんぜん知らなかったので、デザイン画と舞台写真や立体物が同じ部屋に展示されているのとかも面白かったです。

個人的にいちばん「あるといいなあ」と期待していたのは、今江祥智作品の挿絵原画。特に好きだった『さよなら子どもの時間』のがあって嬉しかった。グッズも買いました。

一部を除き撮影も可。照明の映り込みとかどうしても入ってしまうので、あんまり撮れてないけど。

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宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO|東京オペラシティ アートギャラリー
宇野亞喜良展エントランス付近の写真。ガラス扉の横の壁が、美術展を告知するパネルになっている。金茶色の背景に、黒の線で馬と女性のイラスト。下部に白抜きで「AQUIRAX UNO」の大きなロゴ。
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今江祥智『さよなら子どもの時間』(あかね書房,1969年)の原画の一部。 左上:頭に氷嚢をのせられた少年、透明な球形ヘルメットをかぶった犬とUFOなど 左下:蝶の羽を生やした黄色いワンピースの少女 中央左:大きなマッチ箱を小脇に抱え、松明のような火のついたマッチを掲げたこども 中央右:トナカイ2頭と、ひげに櫛をあてるサンタクロース 右上:身体をはみ出させてそりの中に寝そべる少年のモノクロ画 右下:ベビーベッドで座っている赤ちゃんのモノクロ画
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壁一面にびっしりと貼られた、たくさんの演劇ポスター
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そうそう、宇野亞喜良展の話の続きですが。

とある作品の隅っこに、松尾芭蕉と寺山修司について書かれたメモがあって、これは宇野亞喜良自身にも当てはまっているのでは? って思いました。

作品の左下隅に書かれたメモ “松尾芭蕉も寺山修司も 人間臭もあるけれど 人を越えている非人間性がある これが天才の匂いかも知れない。 Aquirax 2017”
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