昭和8年とあるから、同年に生まれた父はもう死んでしまったが、祖母の「ハスクバナミシン」は、祖母が存命中に足踏み部分をモーターに改造してもらってあって、今でも私の雑な裁縫に現役で活躍している。
冒頭に赤字で「警告」とあって、いきなり、「ミシンに故障が起こった時には先ずお心静に本書を繙いてそのどこに該当するかをお調ください」とある。その後に続くシステムがおもしろいので書き写しておく。原文は旧かな遣い。
◆ご自分で調整の不充分な時に他のミシン屋にお見せになったり修繕をお頼みになることは絶対に禁物です。
◆一寸した故障であろう筈のものの診察をお頼みになるにはお出入りの懇意な洋服店さんに限ります。
◆洋服店の主人こそは親切な打診者であり且又微恙を治療するにふさわしいお気軽な名医とも言えます。
◆故障が直ったらその原因と結果をご得心の参るほどにおたずねください、親切な説明の内容は本書のどこかに該当いたします。
◆故障が直り説明がお判りになってご満足が出来ましたらばお手数恐れ入りますがその洋服店さんの御氏名住所を当店にお知らせください。
◆あなたがなさらねばならぬとお考えのその方への謝礼は失礼乍ら私共から鄭重なる挨拶と共に支出致します。
この後、適当なミシン屋が分解清掃が必要とか言ってきたらそれは「利欲のためにせん目的」だから、そういう人にいじらせてはいけない、と続く。
というわけで、出入りの洋服店なんていない私は、この冊子を頼りに自己調整にがんばるしかない。でも単純なメカニズムだから、私が死ぬまで問題なく動くでしょう。100年余裕で使える機械ってありがたい。