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嘘/本当(レイリタ)

いつかなんにもなかったみたいになるよ、呟くような、静かな慰めの言葉だった。路地裏の猫がいなくなったときだった。 嘘よ、そんなの。そう返したときの曖昧な微笑みで分かった。何かを失えば心はひどくきしむけど、喉が乾くくらい泣けば、いずれ、涙が一滴も出なくなるときが来るのだ。 「……あんたなんて」 知っている。今その言葉を口に出せば嘘になること。今にも嘘みたいに陰から現れそうなあいつは、確かにそこにいて、嘘も本当もなかったことにできないくらいに、たくさん残していったこと。
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 宿の部屋の前でレイヴンは思わず立ち尽くす。少し開いた扉にも気づかずに集中を崩さない少女の背を見つめる。揺るぎない真実がこの世のどこかに存在し、いつか見つかると信じて疑わない、そして見つけるまで決して諦めない、そんな人間がいるのだ。  そんなに必死になって探したってどこにもないよ――思わず声をかけたくなる。馬鹿げていた。本当と嘘の境目などどこにあるのか、とうに分からなくなった人間に何が言えるだろう。彼女は正しい。自分の半分の年も生きていないのに、彼女は真実そのものであるかのように美しい。 「黙って突っ立ってないで、なんか言いなさいよ」  ペンを片手に持って、リタが振り返る。少し目が赤く、前髪が乱れている。長く長く息を吐く。 「……サンドウィッチ、あるよ」  今言えるたった一つの本当のことを、やっとの思いで口にした。
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